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2020-03-23 12:50
今こそ一段階レベルアップした真の「見識外交」を
渡邊 啓貴
GFJ有識者世話人/帝京大学教授
筆者は国際関係論を専門としており、最近では価値の交流を含む広義の文化外交に取り組んでいる。以下は、その立場からの提案である。新型コロナウイルスが欧米で猛威を振るっているが、コロナウイルス騒ぎは今やグローバル・イシューだ。日本ではこの騒動は落ち着いている感じだが、こんな時こそ世界をおもんぱかってグローバル・イシューに正面から取り組む姿勢を記すべきである。「湾岸トラウマ」また「イラク戦争」に際しても日本の姿勢は真の意味でグローバルな課題、ないしその大義に率先的に取り組んでいるという姿勢ではなかった。具体的には日本の状況が落ち着いてきているとするならば、オリンピック延期と海外への援助についての方針を早急に対外的に発信することだ。中国は発信地だが、欧州では医者や医療関連協力で評価されている。この種の課題については、早急な本質的対応とその世界的意義がポイントとなる。その意味では日本政府の早急の対応を期待する。
(1)オリンピックは国内的には重要だが、世界的には趨勢ができつつある。IOCやその意見を意識した他国のIOCの提案(一部出ているが)に先立ったほうが良い。日本が自ら早期に延期を提唱し、日本が自発的に苦渋の決定をしたという印象を世界に与えたほうが良い。同時に次の手を準備したほうが良い。場合によっては延期に際しての国際的保証の約束もできるとよい。グローバル・イシューに正面から取り組んでいるという姿勢を示すためには絶好のチャンスである。湾岸トラウマ以来まだお付き合い外交の印象が世界で強いため。(2)イタリアをはじめとする欧州、今後予想されるアフリカなどへの日本の対外支援を速やかに明らかにすること、(3)オリンピックの経済効果とコストは大きいが、それは世界でも予想が付くのでそれはそれとして、延期、しばらくして落ち着いたところでその後の成り行きについては日本の判断や意見を尊重してもらえるように準備する。延期であって、中止ではないこと、また完全な形での繰り越し開催の保証などである。積極的にグローバル・イシューに取り組んでいる姿勢を示すことでその権利も強調できる。(4)国内関連産業への手当は甚大だが、落ち着いた段階での外国人観光客来訪及び安全で公正な国としての外国企業による投資活発化・技術流入などをはかる。ビジネス・経済的効果ではなく、スポーツ交流による平和という大義が最優先という姿勢を打ち出すことだ。
文化外交は、極端な場合にはコンテンツ産業の海外進出と置き換えられた見方をされがちだが、外交・政治概念と政策目標、ビジネス・経済交流、文化・芸術・学識交流の三つの観点による三角の関係が結実した外交活動である。ただ、それぞれの観点からでは相互関係の在り方は違う。日ごろからそうした領域区分と相関関係についての議論が日本では欠けている。今回は外交・政治目標の明確化がまず優先だ、オリンピック開催をめぐる議論は、国際的大義名分はスポーツを通した世界の人々の交流であり、経済効果は表向き、二の次である。筆者は日ごろから文化外交にはこの三点からの定点観察の視点が不可欠だと考えている。くわえて、外交を進める上での、(1)概念化、(2)コンテクスト(ストーリーづくり、枠組み、文脈づくり)、(3)継続性、そして(4)ネットワークづくりの四つのルーティンワークが不可欠だと考える。理想主義ではあるが、平和・安心は第一だ。文脈としては世界大の課題であるコロナウイルスへの日本の先頭を切った英断は、今日の国際的文脈では評価されよう。しかし延期であって、中止ではなく、スポーツ交流を通した日本の世界平和への貢献の継続的努力のためには、次の開催は世界的支援を受けて成功させたいという主張は、事態がいったん落ち着いた段階で十分に説得力を持つはずだ。
文化外交はナショナルブランディングである。それは人の価値観や思考行動様式に対する良いイメージの普及ということだ。筆者は「見識外交」とも呼んでいる。その価値の交流、広義の交流としての「対話」活性化の機会として、災い転じて福となるようにできないか。それこそ大義名分を踏まえたもう一段階レベルアップした真の現実主義外交だと筆者は考える。スピードである。今は静観する時ではないと思う。
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