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(連載2)「米国大使館のエルサレム移転」がふりまく火種 ← (連載1)「米国大使館のエルサレム移転」がふりまく火種  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-13 10:03 [修正][削除]
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No.3430
 ところが、冒頭に述べたように、トランプ政権はエルサレムに米国大使館を移転する方針に転換。これは大統領選挙の最中からトランプ氏が掲げてきたもので、その背景としては米国社会で大きな影響力をもつユダヤ人から政治資金を調達する目的があったことや、娘婿クシュナー氏をはじめトランプ政権にユダヤ教徒が多いことなどがよくあげられます。これらはもちろん否定できませんが、その一方でいかにトランプ氏がイスラエル寄りであったとしても、大使館を移転すればエルサレムをイスラエルの首都と認めるに等しく、それが大きなリスクをもつことは理解していると思われます。それにもかかわらずトランプ大統領が歴代政権の方針を転換するなら、そこには一定の勝算があるとみられます。

 その最大のキーはサウジアラビアとみられます。オバマ政権時代の米国は宿敵イランとの関係改善に努め、それが結果的にイランと事あるごとに対立してきたサウジアラビアとの伝統的な同盟関係に亀裂を生みました。これに対して、トランプ氏はイランを敵視し、サウジとの関係改善を優先させてきました。ところで、そのサウジでは、権力を独占するムハンマド皇太子のもと、内政・外交ともに大改革の最中にあります。もともと「スンニ派の盟主」で、自らも厳格なイスラーム体制のもとにあるサウジは、内外に向けて教義の宣伝などに努めてきました。その宗教的な文脈においてサウジは、パレスチナ問題やエルサレム帰属をめぐり、他のイスラーム諸国の先頭に立ってでもイスラエルや米国と対峙してもおかしくないはずです。しかし、実際にはサウジ政府はこれまでも基本的に米国と友好関係を維持してきたのです。そこには、大きく二つの理由があげられます。第一に、世界有数の産油国であるサウジアラビアにとって、米国が有力な市場であることです。そして第二に、「教義の宣伝」が結果的に「米国やイスラエルへのジハード」を叫ぶイスラーム過激派の台頭をも促してきただけでなく、王族のなかにもアルカイダや「イスラーム国」と通じる者も少なくない状況を生んできたことです。サウジ政府はアルカイダや「イスラーム国」だけでなく、パレスチナのハマスを含めて、その国際的包囲網の形成で欧米諸国と協力していますが、これは自らまいた火種の火消しに努めてきたものといえます。

 つまり、サウジ政府にとって、宗教的なタテマエからすると見過ごしがたいパレスチナ問題も、政治的なホンネからすれば、できるだけかかわらないに越したことはないのです。実際、先述の2014年のイスラエルとハマスの衝突を受けて国内で反イスラエル抗議デモが発生した際にも、サウジ政府はこれといったアクションを起こしていません。これは多くのイスラーム諸国に共通してみられる特徴ですが、ムハンマド皇太子のもとのサウジでは、それがさらに際立っています。現在のサウジを率いるムハンマド皇太子は世俗的な国家主義者とみられます。そのもとでサウジはイランとの勢力争いに邁進するなど、宗派対立が過熱していますが、他方で「国家としてのサウジアラビア」の利益がこれまで以上に重視されており、ハマスを含むスンニ派過激派組織の封じ込めも強化されています。つまり、「イスラーム共同体」としての利益より国益を重視するムハンマド皇太子のもとのサウジでは、宗教が政治的行為の大義以上の意味をもたない傾向が強まるとみられるのです。もちろん、サウジ政府は公式には米国大使館のエルサレム移転に反対しています。そうしないと、国内世論やイスラーム過激派の矛先は自らに向かいかねないからです。しかし、移転が実現したとしても、ムハンマド皇太子率いるサウジが、それに実質的に抵抗することはないとみられます。イスラーム圏の大国サウジのこの変化は、トランプ大統領の大使館移転の判断を最終的に可能にした一因といえるでしょう。

 こうしてみたとき、エルサレムへの米国大使館の移転にはトランプ氏なりの勝算があるといえます。ただし、そうであったとしても、イスラエルの占領政策を実質的に承認することに繋がる大使館移転が、中東における反米世論やイスラーム過激派の台頭を促し、中東諸国のみならず欧米諸国でもテロを加熱させかねないリスクを抱えていることは確かです。トランプ大統領の就任以来、米国は力を背景に、一方的に現状の変更を図る姿勢が鮮明になっています。そこには、膠着する問題を自分の論理で一気に打破しようとして、結果的に問題がより混迷するや、全責任を相手に転化して、さらにごり押しで問題解決を図るという「一人マッチポンプ」の行動パターンが鮮明です。周囲を振り回すことはトランプ氏の影響力をいやがうえにも高める効果があります。しかし、例えば北朝鮮との関係において、金正恩体制が核・ミサイル開発を進めてきたことに問題があったことはいうまでもありませんが、他方でトランプ政権が周辺地域の対立を加速させたことも確かです。この観点からみるなら、トランプ氏の「一人マッチポンプ」が中東においても炸裂すれば、世界がより不安定化することだけは確かといえるでしょう。(おわり)

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