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(連載1)米「エルサレム首都認定」で利益を得る者  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳) [投稿履歴]
投稿日時:2017-12-21 14:31  
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No.3436
 12月13日、OIC(イスラーム協力機構)が緊急会合を開催。OICはその名の通りイスラーム諸国をメンバーとする国際機構です。今回の会合は米国トランプ大統領によるエルサレム「首都」認定を受けて開催され、共同宣言では東エルサレムをパレスチナの首都と宣言。これを認定するよう、各国に呼びかけることで一致しました。その一方で、イスラーム諸国の間でも温度差もあります。今回の会合でも、米国と安全保障、経済ともに密接な関係にあるサウジアラビアなど湾岸諸国やエジプトは、外務副大臣の出席にとどめるなど、総じて批判のトーンは控えめでした。これに対して、とりわけ米国やイスラエルに対する批判の急先鋒となったのは、議長国トルコでした。トルコのエルドアン大統領はイスラエルを「テロリスト国家」と断定。これに呼応するように、やはり首脳級が参集したイラン、カタール、レバノンなどを中心とする米国-イスラエル批判のトーンは強まり、共同声明では「米国は中東和平の調停者と認められない」ことが打ち出されました。ただし、トルコの強硬な姿勢は、単純にパレスチナ人への同情や宗教的な使命感からのみ発せられているとはいえません。そこにはパレスチナやエルサレムをめぐる問題が、中東におけるトルコ台頭の手段になっている様相をも呈しています。この点において、エルドアン大統領にはサダム・フセインとの共通性が見出せるのです。

 ユダヤ人とパレスチナ人で争われてきた、聖地エルサレムの帰属を含むパレスチナ問題は、イスラーム諸国にとって微妙な問題であり続けてきました。イスラームの価値観を強調するなら、イスラエルが占領政策を続けている以上、アルカイダをはじめとする過激派が主張するように、パレスチナ解放のためにはイスラエルやその後ろ盾である米国との対決を避けられません。しかし、地域随一の軍事力とみられるイスラエルとまともに衝突し、米国市場へのアクセスを失うことは、各国にとってリスクが高すぎます。この背景のもと、ほとんどのイスラーム諸国の政府は、1973年の第四次中東戦争を最後に、外交的な声明はともかく、実質的には具体的なアクションをほとんど起こさなくなったのです。これは各国政府にとって、自国の利益を優先させた、いわば現実的な判断だったといえます。しかし、1970年代以降、イスラームの影響力が強まるにつれ、イスラーム諸国政府の態度には自国民からの不満が増幅。それが明らかになった転機は、イラクがクウェートを占領したことを端緒とする1991年の湾岸戦争でした。

 クウェートからの撤退を求められたイラクのサダム・フセイン大統領(当時)は、「イスラエルによるパレスチナ占領」を持ち出し、米国がこれを支援・黙認しながらイラクを批判するのは「ダブルスタンダード」であると主張。そのうえで、イスラエルにスカッドミサイルを打ち込み、これを挑発しました。フセインは世俗主義的な人間で、必ずしもイスラームに熱心でなく、湾岸戦争以前にパレスチナ問題に関して積極的に取り組んだことはありません。つまり、湾岸戦争であえてパレスチナ問題を持ち出したことは、イスラーム圏諸国の支持を期待した、外交的な戦術に過ぎなかったといえます。ところが、フセインの主張に理解を示したイスラーム諸国政府はほとんどなく、この点でフセインの希望は実現しませんでした。各国政府にとって、既存の国境線を一方的に変更することは認められず、またフセインの野心への警戒もありました。しかし、これと対照的に、一般レベルではフセインの主張は広く浸透。東はインドネシアやパキスタンから西はモロッコに至るまで、多くのイスラーム諸国でフセイン支持のデモが相次いで発生したのです。つまり、フセインの論理はイスラーム諸国政府の支持をほとんど得られなかったものの、「パレスチナ解放」の大義を口にしながらも実際には何もしないイスラーム諸国政府に対する各国国民の不満を焚きつけることに成功したといえます。その結果、フセインはイスラーム世界において「唯一の超大国に立ち向かう英雄」に押し上げられることになったのです。

 この観点から今回のOIC緊急会合をみると、トルコのエルドアン大統領の言動には、少なからずフセインとの共通性が見受けられます。トルコ共和国は1924年の独立以来、世俗主義を国是とするだけでなく、冷戦期からNATO(北大西洋条約機構)加盟国として西側先進国、とりわけ米国と深い関係にあります。しかし、近すぎる関係が逆に反米感情の温床となることは、フィリピンなどでもみられるものです。その結果、2003年から同国の権力を握るエルドアン大統領は、イスラーム組織「ムスリム同胞団」などの支援を受けており、女性議員のスカーフ着用を認めるなど、社会のイスラーム化を推進。さらに、インターネット検閲の強化など、政府に批判的な勢力に対する強権的な取り締まりにより、西側先進国との関係はこの10年で加速度的に悪化しています。近年ではシリア内戦で、西側先進国がアサド政権に打撃を与えるため同国のクルド人勢力を支援することに、やはり国内でクルド人の分離独立運動を抱えるトルコは激しく反発。2016年12月にトルコ政府はアサド政権を支援するロシア、イランとともにシリア内戦の終結に向けた国際会議の開催を主導し始めるなど、NATO加盟国でありながら米国と距離を置いた政策が目立ちます。これら独自の外交方針のもと、エルドアン大統領率いるトルコ政府は、中東一帯での影響力の拡大を目指しています。その方針は、かつて中東一帯を支配したトルコ人のイスラーム帝国、オスマン帝国になぞらえて、ネオ・オスマン主義とも呼ばれます。(つづく)

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