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(連載2)米ロ代理戦争が本格化するシリア ← (連載1)米ロ代理戦争が本格化するシリア  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳) [投稿履歴]
投稿日時:2018-02-16 12:05 [修正][削除]
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No.3466
 米軍がシリアにこだわる大きな理由として、トランプ政権が敵視するイランとアサド政権の同盟関係があげられます。2015年7月、オバマ政権はイランや関係諸国との間で、平和利用に限定したイランの核開発を認めることに合意。1979年のイスラーム革命以来、敵対し続けてきた米国とイランにとって、この合意は歴史的なものでした。しかし、イランを敵視するイスラエルやサウジアラビアはこの合意を批判。イスラエル、サウジ寄りのトランプ政権は、この核合意を見直すことを、交渉に参加したその他の英仏独ロ中の五ヵ国に求めてきたのです。トランプ政権にとって中東での優先事項は、国際的な合意を反故にしてでもイランを封じ込めることにあります。そのためにはイランと結びついた政府も標的に入っており、なかでも「テロ支援国家」シリアのアサド政権が存続し続けることは、トランプ政権にとって最大の懸念となり得ます。

 つまり、シリアやイラクで活動するIS戦闘員が最盛期の4万人以上から1000人以下にまで数を減らしているとみられるなか、それでも米国がシリアでSDFを強化する大きな目的は、アサド政権への圧力を強め、ひいてはその同盟国イランを孤立させることにあるとみられるのです。オバマ政権時代の米国は「アサド政権の退陣がシリア和平に欠かせない」と主張し、レジーム・チェンジ(体制転換)の必要性を強調していました。これに対して、トランプ政権は公式にはレジーム・チェンジを求めてはいません。しかし、3万人規模の「新たな国境警備の部隊」の発足はSDFによるシリア北部の実効支配を強化するもので、少なくともシリア国内の分断を加速させるものといえるでしょう。ただし、「IS対策の政治利用」は米国の専売特許ではありません。ロシア軍やアサド政権はバグダディ死亡とIS掃討の成果を強調する一方、「過激派対策」として反体制派への攻撃を続けてきました。国連は1月10日、年始からの10日間で、複数の反体制派が拠点を設けている首都ダマスカス近郊のイースタン・グータで、シリア政府軍やその同盟者が行った空爆により30名の子どもを含む85名以上が死亡したと報告しています。このような背景のもと、先述のように、シリア政府系の武装組織が「国内の米軍の存在を終わらせる」と宣言したのです。

 これに関連して、ロシアのラブロフ外相も1月15日、「米国はシリアが一つの国として存続することを望んでおらず、シリアがバラバラにされる恐れがある」と批判。そのうえで、イラン核合意の再検討に関しても「残念ながら米国は独裁的な手法によってのみ行動したいようだ」とも述べています。イラン核合意の見直しに関しては英仏独のヨーロッパ三ヵ国も反対しています。また、米軍によるSDF強化には、NATO加盟国であるトルコからも批判の声があがっています。今回の発表を受けて、1月15日にトルコのエルドアン大統領は米軍が「テロリスト軍」を作ろうとしていると批判し、「生まれる前に絞め殺す」とも発言しています。米軍がシリアでクルド人中心のSDFを支援することに、かねてからトルコは警戒感を募らせてきました。トルコ国内にもクルド人は居住しており、その分離独立を求める組織「クルド労働者党」(PKK)をトルコ政府は「テロ組織」に指定してきました。連合体であるSDFにはアラブ人勢力も含まれますが、その中核を占めるクルド人勢力「クルド人民防衛隊」(YPG)はPKKから支援を受けているとみられます。そのため、「絞め殺す」発言を受けた米軍は16日、「今後はYPGを支援しない」と発表しました。これはNATO加盟国トルコとの関係を念頭においたものとみられますが、SDFの大半を占めるのがクルド人である以上、苦しい釈明といわざるを得ません。トルコからみれば、トルコ政府と同様にPKKをテロ組織と認定しながらもYPGが中核を占めるSDFを支援する米国は「ダブルスタンダード」以外の何物でもありません。

 こうしてみたとき、米国が「新たな国境警備の部隊」を発足させることは、米ロの代理戦争がシリアで激化することだけでなく、その対立が地域一帯に飛び火することを意味します。先述のように、アサド政権やそれに連なる民兵組織、イラン、トルコの背後には、ロシアがいます。これに対して、米国の構想に関して、サウジアラビアやスンニ派諸国は沈黙を保っています。とりわけ、スルタン皇太子のもとで内政・外交ともに改革を進めるサウジアラビアは、イラン封じ込めの観点からトランプ政権との関係を強めており、それと並行してスンニ派諸国への締め付けを強めています。どの国にとっても脅威であるISが台頭した時、各国が違いを越えて協力することが期待されました。しかし、結果的にはIS対策を口実に各国は少しでも自国が優位に立てるように行動し、そのなかで対立が激しくなっていきました。既存の国境線を否定し、世界に激震を走らせたISは、シリアを去るにあたって、米ロ代理戦争という置き土産を残していったといえるでしょう。(おわり)

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