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ユーラシアにおける中露関係のアンビバレンス   
投稿者:廣瀬 陽子 (非居住者フィンランド・女性・慶応義塾大学教授/グローバル・フォーラム有識者メンバー・-) [投稿履歴]
投稿日時:2018-03-07 00:54 [修正][削除]
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No.3476
 ソ連解体後、15の共和国が独立しましたが、バルト三国を除く旧ソ連諸国はロシアの勢力圏であり続けていました。特に、旧ソ連諸国の中には資源がない小国も少なくなく、また、ソ連時代はソ連という単位でインフラなども構築されていたため、旧ソ連諸国がすぐに独立国家として生まれ変わることは容易ではありませんでした。加えて、ソ連末期には、ペレストロイカやグラースノスチの影響で、ソ連各地で民族問題が顕在化し、多くの民族紛争が発生したことも、ソ連末期及びソ連解体後の混乱を助長しました。そして、ロシアが旧ソ連の幾つかの民族問題において、分離主義を支持したことは、民族問題をより恒久的に残存させることになりました。ロシアが分離主義を支持することで、分離主義が本来勝てるはずもない法的な親国(parents states)に勝利し、国家の体裁を整えつつも、国際的な「国家承認」が得られない未(非)承認国家(unrecognized states)が生まれたからです。現在の旧ソ連地域の未承認国家としては、ジョージア(グルジア)のアブハジア、南オセチア、アゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ、モルドヴァの沿ドニエストルに加え、ウクライナのドネツク、ルガンスク(ルハンスク)がありますが、これらの問題で注意するべきことは、未承認国家を抱える法的親国は、近年はバランス外交を貫いているアゼルバイジャンを除いてすべて親欧米・反ロシアの姿勢を貫いているということです。逆に言えば、旧ソ連諸国がロシアから離れようとすれば、ロシアは民族問題などに付け込み、その反ロシア的な国に対して大きな懲罰的行動を取ってきました。2008年のジョージア・ロシア紛争、2014年頃にピークを迎え、未だくすぶるウクライナ危機はそれらの最も顕著な例だと言えます。ロシアとしては、勢力圏と考える旧ソ連諸国がロシアから離れることを何としても阻止しようとしてきました。特に、ウラディーミル・プーチン大統領は、旧ソ連諸国や近年では北極圏などの勢力圏を守ることをグランド・ストラテジーとして、外交を展開してきたのです。そして、プーチン大統領が掲げてきた、アジアと欧州を橋渡しするプロジェクトだとする「ユーラシア連合」構想も、そのストラテジーを体現したものだと言えます。

 しかし、近年、中国の台頭が極めて顕著になってきています。中国は大規模なチャイナマネーを使って、世界中に進出していますが、シルクロード経済ベルトや一帯一路構想に代表されるように、ユーラシアへの進出は特に顕著となっています。ロシアと中国のユーラシア構想は、それぞれ対象地域が重なっており、ロシアにとっては自国の勢力圏を中国に侵害されるという構図になります。他方、中国も勢力圏という概念を重視しており、やはりユーラシアは重要な地域です。つまり、中露はユーラシアへの影響力をめぐり、対立関係にあると言えます。以前のロシアであれば、中国の進出に激しい拒否反応を示したかもしれません。しかし、2014年3月のロシアによるウクライナのクリミア併合とそれに続くウクライナ危機は、ロシアの国際的立場を決定的に変えました。クリミア併合により、プーチン大統領は国内で高い支持を獲得することができた一方、国際社会はウクライナ危機でロシアを激しく批判し、欧米の主要国はロシアに対して厳しい制裁を課し、数度にわたって、追加制裁も課してきました。また、ロシアから石油や天然ガスを購入してきた国々の多くも、ロシアへの依存度を下げる動きを強めることとなりました。他方、ロシアもそれら制裁に対する対抗措置を取り、ロシアをめぐる国際関係はより緊張することとなりました。この結果、ロシアは国際的に孤立せざるをえなくなりました。

 そのような状況にあっては、中国はロシアにとって渡りに船でした。もともと、ロシアと中国はアメリカの一極的支配に対抗し、多極的世界を構築していくという共通の目標を持ち、実は相互不信感も持ちながらも、表面的には良好な関係を築いていました。しかし、ウクライナ危機は中露関係を決定的に変えました。例えば、ロシアはそれまで価格などで合意できなかった中国に対する天然ガス輸出問題でも、譲歩をし、大規模な天然ガス貿易の合意が生まれました。また、経済や軍事、技術協力、また歴史認識の共有など多方面にわたり、両国は関係を緊密化させていったのです。こうしてロシアと中国は二つのメガプロジェクトの連携を謳うようになりました。ユーラシアのみならず、北極圏でも両国が緊密な連携を進めることが約束されてきました。しかし、特に、当初はロシアが政治と軍事面での影響力を、中国が経済面での影響力を行使するということで、両国が棲み分けを図るという了解がありましたが、中国の経済的影響力が大きくなるにつれ、中国の影響力は政治や軍事の側面にも及ぶようになってきました。これ程までの中国の影響力拡大はロシアにとって望ましい展開ではありませんが、それでも現在のロシアには中国との緊密な関係が必須であり、中国の動きに目をつぶらざるをえないという事情もあるのです。

 他方、旧ソ連諸国の多くは中国の進出を歓迎していると言えます。特に、親欧米路線を取ってきたが故に、ロシアから懲罰的政策を受け続けてきたジョージアやウクライナ、また自国の資源をロシアに独占的に安く買い叩かれてきた中央アジアの資源保有国などは、経済の多角化やロシアへの依存度を低下させることを目指してきたこともあり、中国を歓迎していると言えるでしょう。その一方で、あまりに急激な中国の進出を警戒する国々も存在します。それでも、旧ソ連諸国やヨーロッパ諸国のロシアに対する警戒感は、ウクライナ危機後に顕著に高まっていることから、中国への警戒感は相対的に低くなっているように思えます。例えば、北極圏の国々は、強い経済力を持つ中国の進出をむしろ歓迎しています。ロシアの国際的孤立が依然として解消されていない現在、ユーラシアにおける中国の存在感がむしろ強まっているのは自然の流れのように思えます。それでも、クリミア併合から4年目の記念日である2018年3月18日に予定されているロシア大統領選挙でプーチン大統領の再選は間違いないと考えられていますし、プーチン大統領は強い指導者のイメージを維持しながら、強いロシアの体現に全力をかけてゆくはずです。そのため、中露のユーラシアにおけるライバル関係が消滅することはないと思われますが、その一方で両国の連携が進めば、ユーラシアのインフラ整備や経済発展が進むことはまちがいなく、そのことは地域諸国にとって有益です。中露の競争と協力が、地域の発展を可能にできれば、それは極めて望ましい展開です。ですので、まずはそのような展開が実現するよう、日本を含め、世界が見守り、時に支援をすることが肝要であると考えます。

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