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2013-12-12 00:00
安倍は再稼働大幅遅延を傍観するな
杉浦 正章
政治評論家
12月11日の市場で電力株が下げ幅を広げた。理由は、一部報道で原発再稼働が大幅に遅延することが明らかになったからである。大幅遅延の原因は、政府、原子力規制委員会、電力会社三つどもえの責任回避がある。首相・安倍晋三が躊躇し、規制委が権威主義を振り回し、肝心の電力会社は規制委への資料の提出で不備が続出。この結果、北海道では酷寒期を迎えて人命の危機、中東への依存度増大でエネルギー安保の危機、国富流出でアベノミクスの危機という原発3大危機が到来しかねない状況だ。安倍は特定秘密保護法を乗り切ったはいいが、直面する危機への頬被りは許されない。原発再稼働問題は、去る7月に原子力規制委員会が再稼働申請の受け付けを開始。北海道、関西、四国、九州の電力4社が5原発10基の申請をした。東電も遅れて柏崎刈羽原子力発電所の申請をした。規制委は80人体制で検討に入り、当初は半年程度で第1号の再稼働が実現すると予想されていた。年明けにも一部の原発で審査が終わる見通しだった。ところが、現状は早くても来年の3月、場合によっては夏以降の再稼働となりそうだという。規制委委員長・田中俊一は「事業者の責任だ」と指摘している。各社の提出する資料の不備が多いのがその理由のようだ。しかし、それだけだろうか。東電の柏崎刈羽原発申請に、福島の汚染処理を絡めて難色を示したことが物語るように、どうもこの委員長には権威主義と意図的な遅延の匂いがしてならない。
一方で、電力会社も安易だ。原発再稼働という会社存続の危機に対して、規制委に書類の不備が指摘されるようでは、だらしがない限りだ。これまでしてきたように、再稼働しないツケを料金値上げに回せばよいとでも考えているのか。事実再値上げの動きが見られる。一般家庭や中小企業のあえぎの声はどこ吹く風なのか。政府も、民主党政権の「原発ゼロ」政策を一蹴する「新エネルギー計画」を打ち出すことは打ち出した。原発「ゼロ」から転換して「原発維持」への方針転換をしたのだ。また「必要とされる規模を十分に見極めて、その規模を確保」と明記し、建て替えを含む将来の新増設に含みを持たせた。この方向は総論としては正しいが、問題は再稼働遅延の3大リスクへの対応だ。今そこにある危機を前にして、総論だけでお茶を濁してはいけない。第三者機関である規制委に口を挟むことは避けたいのだろうが、大幅遅延は看過できない。政府、規制委、電力会社で促進策を話し合うくらいのことはしてもおかしくない。
3つの危機を具体的に述べれば、まずエネルギー安保上の危機がある。現在全電力に占める火力発電の割合は、東日本大震災前の約60%から90%に上昇した。輸入燃料で発電している割合は、石油ショック時の74%を上回る。これが何を意味するかと言えば、いったん中東が危機状態に陥れば、過去の石油ショックを上回る危機が日本を襲うのだ。せっかくデフレ脱却の兆しを見せている日本経済が、奈落の底に落ちるのは火を見るより明らかだ。アベノミクスを直撃する危機も生じよう。現在原発停止による中東などへの国富の流出は年間3.8兆円に達している。毎日100億円が化石燃料として燃えてなくなっているのである。家庭の電気料金は実質30%上昇し、企業の生産拠点の海外移転が止まらない。電気料金が最も高い国が安倍の言う「世界で一番企業が活躍しやすい国」になることはない。アベノミクスそのものが長期原発ゼロでは破たんするのだ。
加えて、酷寒期で停電が発生した場合の危機がある。電力会社は電力需要に対して3%以上の供給余力がないと停電の危機にさらされる。北海道の場合、今年6月には120万キロ・ワット近い大規模な電源喪失が起きている。北海道は氷点下30度に冷え込む地域もあり、停電で暖房機器が使えなくなれば、凍死の危険に直面する。凍死に加えて、治療機器が生存のよすがである病人にも深刻な影響が発生する。もしこのような事態になった場合、一体責任はどこが取るのか。政府か、規制委か、電力会社か。責任のたらい回しは許されない。そもそも再稼働が半年遅れれば2兆円の国富が流出するのだ。事態を一刻も放置することは許されない。これらの危機管理がなされないまま放置した場合、最大の責任は安倍内閣に降りかかる問題だ。総論で原発維持を表明しても、現実論を回避してはなんにもならないのだ。ここは政治がリーダーシップを発揮して、1か月でも2か月でも早い再稼働を実現すべきであろう。
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