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(連載2)時間経過と共に日本国が不利となる日中経済関係 ← (連載1)時間経過と共に日本国が不利となる日中経済関係  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-14 11:33 [修正][削除]
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3652/3652
 さらに、日系企業の中国市場における新規事業の拡大についても、二の足を踏まざるを得ないようなマイナス情報に満ちています。毛沢東時代への回帰を志向する習近平独裁体制が強化されて以来、中国共産党による民間企業に対する支配は一段と強化されています。中国では、民間企業と雖も共産党員の配置が法律で義務付けられており、経営に口を出すルートが確保されています。企業統制の強化は、当然に外資系企業や外国企業との合弁会社等にも及びますので、日系企業の‘中国進出’は、中国共産党による‘日本支配’とセットとなっているのです。

 しかも、長期的に見ますと、ここでも日本企業は苦戦を強いられます。今般の日中関係改善については、アメリカが知的財産問題に神経を尖らせる折、同国からの先端技術の入手が困難となった中国側が、「中国製造2025」を実現するための代替供給地として、日本国に白羽の矢を立てたとする説明があります。しかしながら、メディア等の報道によりますと、中国のシリコンバレーとも称される深センを擁する中国の技術力は、既に日本国を上回っており、最早、日本国の技術を必要としていないともされています。この説が正しければ、日本の技術力目的説は疑わしく、中国の対日接近の目的は金融面に絞られており、既に不要となった、あるいは、技術を吸収し尽くした日系企業は、やがて中国企業が構築するサプライチェーンに組み込まれるか、資金力に優る中国企業のM&Aによって買収されるか、あるいは、巨体化した中国企業の直接的な進出によって国内市場のシェアさえ失うこととなりましょう。

 そして、日本経済が中国経済との結びつきを強めますと、時間の経過とともに相手国への依存度は日本国の中国依存へと傾き、それは、中国に対して強力な対日‘経済締め付けカード’を渡すことを意味します。その前例として、韓国において、THAADの配備をめぐって中国との関係が冷却した際に、中国は、中国市場に進出した韓国企業に対して厳しい制裁措置を課しています。経済的威嚇の効果なのか、韓国では親北の文在寅政権が誕生し、北朝鮮、並びに、その背後に控える中国のメッセンジャー役に堕しています。日本経済が中国経済に依存すればするほどに日米同盟も脆くなり、いわば、経済を中国に‘人質’に取られる格好となるのです。

 米中関係については、真珠湾攻撃前夜の日本国に中国を喩える見解も見受けられますが、両国が太平洋戦争の開戦に匹敵する程の緊迫状態にあればこそ、たとえ中国が微笑みを浮かべて近づいてきたとしても、迂闊には応じられないはずです。日本国は、自らの安全をも脅かす非人道的な全体主義国家中国と運命共同体にされる道だけは、決して歩んではならないと思うのです。(おわり)

(連載1)時間経過と共に日本国が不利となる日中経済関係  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-13 12:50  
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3651/3652
 アメリカのペンス副大統領の演説が米中新冷戦の始まりを告げたとも評される中、先の安倍晋三首相の中国公式訪問は経済優先の感があり、その先行きが危ぶまれております。経済的利益が期待される一方で、必ずしも日本経済にプラスに作用するとは限らず、最悪の場合には、アメリカの対中経済制裁に中国経済が耐えられず、日中心中に終わるリスクもあります。そして、それが安全保障上のリスクと背中合わせなだけに、来るべきリスクへの対応は緊急を要します。

 経済分野における日中改善の評価の多くは、短期的な利益予測に基づくものです。首相訪中に帯同した日本企業の中にも、中国市場への参入や中国との共同プロジェクト等のチャンスを得た社も少なくなかったことでしょう。一帯一路構想への間接的、否、裏口からの参加とも目される第三国でのインフラ事業共同融資事業などもこの一例です。先走って‘日中合作時代’の到来を予測する識者もおられますが、日中関係の深化は、時間が経過するにつれ、日本側にとりまして、政治経済の両面において不利な方向に傾斜してゆく可能性は否定できないように思えます。

 例えば、上記の第三国でのインフラ事業に対する共同融資事業にしても、日本国側には長期的な利益となるものは殆ど残りません。途上国に対するインフラ融資とはもとより高い収益性や経済支配ではなく、支援先の経済発展や生活レベルの向上が目的ですので、最悪の場合には融資が焦げ付き、日本国側が事実上の’連帯保証人’として損失を被るリスクもあります。一方、中国にとりましては、一部であれ、一帯一路構想上のプロジェクトが実現するのですから、世界支配に向けて一歩前進したこととなります。

 また、連日の上海市場の株価下落や人民元の為替相場安、そして、米中貿易戦争から予測される外貨準備の減少からしますと、中国の金融市場はもはや安全な投資先ではなく、将来的にも有望な成長市場と判断することも難しいはずです。中国では、起業数が多い分だけ倒産数も多く、今後の景気悪化は後者を増大させますし、成功した稀な企業も、共産党の息のかかったテンセントやアリババに吸収される運命にあります。日中通貨スワップ再開に関する邦銀救済説が事実であれば、日系の金融機関は、参入どころか中国経済の崩壊を見越した撤退の準備を始める時期となりましょう。(つづく)

(連載2)なぜいま中国向けODAを終了したか ← (連載1)なぜいま中国向けODAを終了したか  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-13 12:47 [修正][削除]
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3650/3652
 そのうえ、対中ODAの終了は、中国政府の満足感を引き出すものでもある。ODA終了で、日本が中国を「大国」として承認することになるからである。日本が円借款を終了させた2008年は、中国で北京オリンピックが開催された年だった。これは国内、特に自民党から突き上げられ続けてきた外務省にとっても、中国政府に「中国は名実ともに大国となったのだから、もう大規模なODAは必要ないでしょう」と言いやすいタイミングだった。これに対して、中国側から取り立てて否定的な反応はなかった。

 今回の場合、日本政府はODA終了と入れ違いに、中国政府と開発プロジェクトに関して協議する「開発協力対話」を立ち上げ、アフリカをはじめとする第三国への支援で連携を図る考えだ。その第一号は、タイでの高速鉄道建設になるとみられる。中国政府がタイ東部で進める、450億ドル以上の規模になるとみられるこのプロジェクトに、日本政府は300億ドル以上の円借款、14億ドルの無償資金協力、16億ドルの技術協力を提供する意志を既に示している。これはインフラ輸出を加速させたい日本政府にとってチャンス拡大を意味するが、同時に中国政府にとっては日本から「対等なパートナー」としての認知を公式に得るものである。アメリカのトランプ政権との対立が深刻化する中国にとって、日本との関係が再び重要性を増すなか、「対等のパートナー」と位置づけられることには大きな意味がある。そのため、中国政府もむしろ対中ODA終了を肯定的に評価しており、国内メディアに日本のODAが中国の発展に貢献したことを重視して報じるよう指示している(中日新聞電子版、2018年10月23日)。政府がメディアの論調まで指示することの是非はともかく、ここで重要なことは、中国政府が「貢献者」と日本を表現した点だ。

 日中関係が悪化しつつあった2000年、中国大使を務めていた谷野作太郎氏は中国政府に「『日本の援助が中国の経済発展に役立った』と中国側は日本人に言うべき」と伝え、これに対して楊文昌外務次官(当時)が「日本の円借款が中国の経済建設に果たした役割を高く評価する」と述べた。しかし、自民党内では「『援助』といわず『資金協力』、『円借款』という言葉ばかり使った」、「『感謝』が表明されなかった」(産経新聞、2000年3月28日)と批判が噴出し、日中関係がさらに悪化する原因の一つとなった。「感謝されなかった」と不満を呈することへの賛否はさておき、18年前と比べて今回の中国政府に肯定的な態度が目立つことは確かで、そこには中国政府の対日関係のシフトとともに、日本政府の提案に対する満足感をもうかがえるのである。

 だとすれば、政府は対中ODA終了によって、国内の反中世論の支持を得ながら、同時に「これまでと違う関係を築く」というメッセージを送って中国政府の満足感を引き出す決定をしたことになる。このねじれた方針の対象になっているという意味で、強い反中感情に基づいて今回の決定を支持する人の多くは、一周回って中国政府と同じ立場に立っているともいえる。いずれにせよ、これによって(何度もいうが政府レベルで)日中関係が新たな段階に入りつつあることは間違いなく、トランプ政権の暴走によってアメリカ主導の国際秩序が根底から揺らぐなか、さまざまなリスクヘッジが不可欠であることに鑑みれば、妥当な決定といえる。ただし、中国のペースに合わせ過ぎないこともまた必要であるため、日本政府に微妙なかじ取りが求められることには変化がないといえるだろう。(おわり)

(連載1)なぜいま中国向けODAを終了したか  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-12 16:25  
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3649/3652
 少なくとも政府レベルで日中関係が改善しつつあるこのタイミングで、中国向けの政府開発援助(ODA)を終了させることは、中国に「思い知らせる」ことが目的ではなく、むしろ日本政府は国内の反中感情を満足させつつ、中国政府との協力を軌道に乗せる手段として、この決定に踏み切ったとみられる。10月25日に訪中した安倍首相は、中国向けODAが「歴史的使命を終えた」として、終了する方針を打ち出した。首相訪中直前に明らかになったこの方針は、多くの日本人にとって「遅きに失した」ものかもしれないが、それでも「もはや日本よりGDPが大きく、これまでの経緯からしても、まして中国が軍拡を推し進めていることからも、援助しないのが当たり前」といった反応がネット上には目立ち、総じて肯定的に受け止められているようにみえる。

 日本政府がこういった世論の支持を期待していたことは疑いない。だとすれば、政府の方針は反中世論を味方につける国内政治上のプラスポイントとなる。ただし、中国の経済大国化や軍拡、さらにこれまでの日中関係があったとしても、単に「思い知らせる」ためだけにODAを終了させるなら、尖閣問題の表面化から安倍首相の靖国参拝に至る、日中関係が極度に悪化していた2010年代前半の段階で、その決定をしていてもおかしくなかったはずだ。まして、いくら国民の約8割が中国に親近感を抱いていなくとも、日本政府がただ反中世論に傾いてODAを終了させたとも思えない。そこには以下のポイントがある。

 まず、日本の対中ODAの終了は中国にほとんどダメージがない。日本の対中ODAは、既に大幅に削減されていたからである。1979年にスタートした日本の対中ODAは、1990年代の後半に転機を迎えた。当時、軍拡を進める中国の艦船が日本の排他的経済水域で勝手に調査をするなどしたこともあり、日本の対中感情が悪化。内閣府の世論調査では、中国に「親しみを感じる(「どちらかというと」を含む)」という回答は1980年に78.6パーセントだったが、1996年には48.4パーセントにまで落ち込んで「親しみを感じない(「どちらかというと」を含む)」と同率となり、その後も下落し続けた。この背景のもと、それまで対中ODAの中心だった、鉄道建設や港湾整備などの大規模プロジェクトをローンを組んで行う「有償資金協力(円借款)」が2000年をピークに急激に減少し、2008年を最後に終了した。その後、日本の対中ODAは、職業訓練など、相手に返済義務はないが一件あたりの金額がより小規模の無償援助のみ行われてきた。しかし、それも2015年段階で1億5144万ドル(約150億円)と、現在の中国からみて必ずしも大きな金額ではない。さらに、中国は過去の円借款の返済を続けているため、2008年以降は日本から中国に渡る金額より、その逆の方がはるかに多くなっている。したがって、対中ODAの終了は、中国にとってほぼ全くダメージがない。

 それでは、なぜ日本政府は対中ODAを終了させたのか。ここにきて日中関係は、少なくとも政府レベルでは改善しつつある。2017年12月に日本政府が中国政府の推し進める「一帯一路」構想に部分的ながら協力する方針を打ち出したことは、その象徴だ。なぜ、このタイミングなのか。逆にいえば、なぜ今まで続けてきたのか。ここで重要なことは、これまでの対中ODAには、世論レベルで悪化し続ける両国の関係をかろうじてつなぎ止める役割があったことだ。日本の対中感情が悪化し始めた1990年代の末には既に、自民党のなかで対中ODA見直しの要求が出始めていた。そのなかには、当時まだ中堅議員だった安倍晋三氏もいた。しかし、これと並行して、両国の経済関係は深化し続けた。2000年当時、日本の中国(香港を除く)への輸出額は約303億ドル、輸入額は551億ドルだったが、2010年にはそれぞれ1496億ドル、1533億ドルにまで成長し、中国は最大の貿易相手国となった。この背景のもと、両国でお互いへの反感が募ったとしても、日本政府には中国政府との外交関係を維持する必要があり、ODAは文化交流などとともに、その数少ない手段となっていた。その裏返しで、日中関係が改善しつつあるいま対中ODAを終了させることは、「もはやODAがなくても中国とのパイプに心配はいらない」という日本政府の自信を示す。言い換えると、「少なくとも政府レベルでの両国関係が最悪期を脱した」と判断したからこそ、日本政府は対中ODAを終了できたといえる。(つづく)

(連載2)日中通貨スワップ協定再開の危うさ ← (連載1)日中通貨スワップ協定再開の危うさ  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-09 10:47 [修正][削除]
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3648/3652
 融通枠を10倍にまで拡大させた日中スワップ協定再開の評価については、その目的自体が不明であり、上述したように、事実認識が全く異なる凡そ二通りの擁護論があるのですが、何れの説であっても、日本国側にとりましては、プラス面ばかりを期待できるわけではありません。

 第一の説では、日本国側の短期的な経済利益優先の方針は、アメリカに対する背信行為となり、政治経済両面における日米関係の悪化が懸念されます。日米通商協定交渉にあってもアメリカの態度は硬化し、日本国に対して妥協どころかさらに厳しい要求を突き付けてくるかもしれません。中国市場への進出は果たした日本企業も、中国共産党による厳しい監視下に置かれるのみならず、米中貿易戦争に起因する景気減速の煽りを受けて事業収益は赤字となる可能性もあります。また、目下、上海や深センの株式市場では株価は下落傾向にありますが、欧米諸国の資本が引き上げる中、日本国の金融機関が最後に‘ババ’を引くことにもなりかねないのです。

 第二の擁護論は、凡そ発生が確実視されている損失に対する対処法となりますので、邦銀の損失を最小化、最低限に抑えるための措置に過ぎません。つまり、最初の前提からしてマイナスから始まる説であり、到底、ウィン・ウィン関係として絶賛し得るものではないのです。もっとも、アメリカとの関係については、邦銀等の救済に目的を限定することを条件にアメリカも容認しているともされ、前者よりは、両国間の関係に悪影響を及ぼす度合いは低いかもしれません。

 どちらの説が正しいのかにつきましては、今のところ、的確に判断するだけの十分な情報がないのですが、少なくとも、日中通貨スワップ協定の再開は、両国のルーズ・ルーズ関係に終わるケースも想定されます。日米同盟に安全保障を大きく依存し、経済面においても重要な貿易相手国である米国は、既に中国との間で対中貿易戦争の只中にあり、こうした状況下での日本国の親中路線への転換は、安全保障面のみならず、経済面においても必ずしも日本国側に利益をもたらすとは限らないのではないかと思うのです。(おわり)

(連載1)日中通貨スワップ協定再開の危うさ  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-08 12:47  
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3647/3652
 日本国の首相としては7年ぶりの公式訪問となる安倍首相の訪中の成果については、賛否両論が渦巻いているようです。評価ポイントとして挙げられているのは、(安全保障分野はともかくとしても)対中協力によって日本国側も経済的利益を得ることができるとする点です。しかしながらこの実利論、中国を取り巻く国際環境からしますと、実利どころか日本国側の損失になりかねないリスクが潜んでいるように思えます。

 とりわけ、その評価が分かれるのは日中通貨スワップの再開です。この件については、アメリカが中国を高関税政策で追い詰めたにも拘わらず、同盟国である日本国が敵国に逃げ道を準備するような行為として、ネット上では批判を浴びていました。この批判に関しては、以下の二つの全く正反対の視点からの擁護論があります。

 その一つは、日中両政府の公式の見解であり、それは、アメリカからの対中投資の減少を日本からの投資で補いたい中国の意向と、13億の市場において事業を展開したい民間企業を抱える日本国側の要望が一致したというものです。つまり、凡そ3兆円のスワップ枠は、いわば、同市場で既に融資業務を実施している邦銀を介して政府保証の役割を果たすという説明であり、日本企業の中国進出を金融面から支えるとされています。この説明では、今後、中国経済は、日本国の支援を受けることでアメリカからの経済制裁を凌いで順調に発展する一方で、日本国企業も、中国政府の後ろ盾を得て同市場で事業を拡大させるというものです。この側面だけを切り取れば、確かに、両国間にはウィン・ウィンの関係が成立するようにも見えます。

 それでは、もう一つの擁護論というのは、どのようなものなのでしょうか。それは、「日本国政府は、既に中国経済からの撤退を決意しており、凡そ3兆円の通貨スワップ枠は、中国市場で人民元建パンダ債発行によって現地通貨での融資を実施している邦銀を救済するために準備されている」と言う説です。アメリカの締め付けによって中国経済は程なく崩壊過程に入り、人民元建て債権が回収不能となった邦銀も経営危機に陥るので、今般、スワップ協定を再開すれば、これらの邦銀が中国の中央銀行が日銀に提供する人民元で速やかに手当てできると説明されています。邦銀の融資先は、中国企業のみならず、現地で事業を行っている日本企業も多く、通貨スワップは日本企業救済策となるのです。一方の中国側も、外貨不足によるデフォルト危機を日銀によるハードカレンシーである円の提供で緩和できますので、この説でも、両国間にはウィン・ウィン関係が成立します。(つづく)

疎外されるイタリアのリスク   
投稿者:岡本 裕明 (非居住者カナダ・男性・海外事業経営者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-07 10:51 [修正][削除]
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3646/3652
 イタリアが厳しい立場に追いやられています。6月にポピュリズム政党「五つ星運動」と極右の「同盟」による連立政権に、政治経験ゼロのジュゼッペ・コンテ首相が就任しました。その内閣が作り上げた2019年度予算案は、歳出が2.4%増えるというものであります。ポピュリズム政党ならではの予算案といってよいでしょう。ところがイタリアはEUに加盟する以上、EUのルールに従わねばなりません。それを監視する欧州委員会はこの予算案にいちべつも与えず、否定して差し戻しました。ところが、コンテ首相は「この予算が出来た過程は容易ではない」とし、見直しを拒否したため、欧州委員会との間に明白な断絶が出来てしまいました。

 欧州委員会は、仮にイタリアが言うことを聞かなければ強権でもってさまざまな罰則を科していくことになるのですが、イタリアはそれを黙って受け入れるのでしょうか?かつて世界大戦をした時、一種の疎外感からくる爆発的な反動があったのを思い出してしまいます。国際ルールは世の中を縛り上げ、極めて均一でバランスの取れたものをつくりあげようという立派な理念が先行するため、その理念に達成できない国家は不良化するか、離脱するかの選択をとるしかありません。アメリカが次々と過去の協定や縛り、連携関係を見直し、脱退し、破棄し続けるのは、その縛りが「国家にとってふさわしくない」という強い信念があるからでしょう。

 TPP11が発効に向かい着実に歩を進めています。すでに6カ国が批准し、年内には発効するとみられており、いよいよこの巨大な経済連携がスタートしそうです。しかし、多分ですが、何年か経つと運用上の問題やひずみは必ず生まれてきます。それはスタートの時には同じところに立っていても、時間がたつと必ず差が生まれるためで、「遅れが出た国家は不満を呈する」というのは常套であるといってもよいでしょう。イタリアの場合も、EUという厳しい規律に音を上げているように見えます。ギリシャも苦しい経験をしましたが、イタリアの場合はその経済規模はギリシャの比ではありません。同時に進む英国のEU離脱交渉も含め、連携と歪み、そこからの綻びは避けられないのかもしれません。そう捉えればトランプ大統領が北米の自由貿易協定、NAFTAを破棄し、USMCAという新協定を締結したのは機能不全、ないし、時代にマッチしなくなった内容を見直すという意味で、健全なアプローチだったともいえるのでしょう。

 EUはその金融システムを含め、根本的問題点が多いとされています。しかし、あまりにも巨大な組織と化し、身動きが取れなくなり、システムそのものを見直す余地すらないという、欧州らしい問題を作り上げているとも言えます。欧州の大戦がなぜ起きたのかといえば、独仏英という強大な国家間に生まれた裂け目が広がったことが、その背景にあります。だとすれば、イタリアや英国の動きを見ていると、欧州の危機を予感させるものすらあります。TPP11も追加参加国が出てくる勢いですが、見直し条項を設けておかないと、機能不全に陥るリスクを持ち合わせる可能性が高いと思います。一緒にずっと手をつないで渡れる橋はないのであります。国家は常に理想を高く掲げますが、その崇高さゆえに理想が高ければ高いほど思わぬしっぺ返しが来るといえるでしょう。

(連載2)リーマンショックについて ← (連載1)リーマンショックについて  ツリー表示
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-06 11:14 [修正][削除]
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3645/3652
 一方、視点を日本にのみ移し、日本の国家財政に不安がある中、日本企業の状況について、概観してみます。日本の国内企業の業績は、2007年度を100.0とすると全企業の売上高合計は2017年度で98.8に留まり、リーマンショック前の水準に戻っていないとされています。一方、利益合計は162.0に伸び、売上高と好対照となっています。震災復興や東京五輪に向け好調な建設業、物流が盛り返した運輸業が牽引していると報告されているものです。しかし、詳細を見ると、非上場の小売業は売上高合計・利益合計ともに100.0に戻しておらず、戦後2番目の好景気と言われる中で、少子高齢化による需要減少や大手の寡占化で業績回復はまだら模様となっています。

 尚、これは、東京商工リサーチが保有する国内最大級の企業データベース(約480万社)を活用し、リーマンショック前の2007年度(2007年4月期~2008年3月期)から直近の2017年度(2017年4月期~2018年3月期)まで、11期連続で単体の業績比較が可能な26万5,763社を抽出し、分析した結果を引用しています。そして、全企業の売上高合計は2009年度に84.7まで下落、その後は一度も100.0に回復しておらず、一方、利益合計は2008年度は18.1と極度に落ち込んだものの、2013年度に100.0に回復し、2017年度は162.0まで回復しています。そして、2017年度は上場企業の利益合計が165.6に対し、非上場は158.4に留まり、円安を背景にした上場企業の回復と中小企業のもたつきが鮮明になっています。

 また、全企業の利益合計は2017年度に162.0に回復しましたが、売上高は100.0を下回っており、利益面は技術革新や製品の差別化、生産性効率の向上などが寄与したものの、海外移転に伴うコスト削減、正社員から非正規社員へのシフトなど、人件費抑制や労働分配率の低下も影響していると見られ、労働分配率の低下は、個人消費の落ち込みに直結するだけに、小売業や耐久消費財関連の企業業績への影響が出たとも言われています。

 こうして見ると、社会全体に傷を残しながら、一部企業の業績が回復、そこにまた、個人間のみならず、企業間格差の拡大ももたらしており、これを基にして、「日本の企業業績の回復と言えるのか?デフレからの脱却トレンドにあるのか?」と問われれば、答えは「疑問」とならざるを得ないと思います。こうなると、日本がとるべき対策は、「消費税を含め、増税をせざるを得ない。その増税分の半分を国家負債の返済に明確に当て、これを内外に明確に示す。その増税分の残り半分で最近脆弱となっている国土インフラの再整備、強靭化に向ける。国土インフラの再整備に関しては、地方インフラの再整備をできる限り優先し、地域格差を少しでも少なくする政策的配慮を図る」といった骨太の指針を、日本政府が日本国民に、そして世界に明確に示し、「日本が回復トレンドに入った。」ということを印象付ける政治的行動に出ることが、ベストウェイではないかと私は考えています。(おわり)

(連載1)リーマンショックについて  ツリー表示
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-05 13:47  
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3644/3652
 リーマンショックからちょうど10年が過ぎ、少し興味深いデータが示されています。未曾有の大恐慌から世界経済は回復したのでしょうか。様々な議論や考察がなされていますが、私は、「国際金融筋が主導する弱肉強食型の原始資本主義により発生した、行き過ぎた広義の信用創造によって吐き出された、何の担保もない貨幣の過剰流通により、お金がお金を生む投機世界に過剰資金が流れ込み、その投機性資金の動きによって、世界経済は発展する、しかし、投機に失敗すると世界経済は急落するという、ゼロ・サムのボラティリティの高い経済世界を生み、発展に対する期待と暴落に対する不安を常に抱えながら走っている世界を創出してしまった。」と考えています。そして、これはまた、「お金を持つ者は更にお金を生む機会に恵まれるが余剰資金を持たぬ者は投機の機会を持てず、この結果として、富の格差を拡大する遠因となっている。そして、こうした富の格差が現行世界の社会不安の根源となっている。」とも考えています。

 こうした本題を解決する根源は、「世界に吐き出された過剰資金を回収することから始める。」とすべきでありますが、「過剰資金の回収は少なくとも短期的には、強烈な信用収縮を生み、景気大減速を齎す。よって、その資金回収は、ゆっくりと慎重に行わなければならない。」ということになり、だからこそ、基軸通貨発行国たる米国の金融当局は、徐々に金利を引き上げ、資金回収に入り、世界的に見た通貨供給量を適正水準にしようとしていると私は見ています。

 もう一つの根源的な解決方法は、「資金需要が強い新興国の経済発展を促進し、通貨供給量に合わせた実体経済規模にまで世界のGDPを引き上げる。」という方法がありますが、これを実行すると、「新興国、中国本土やロシア、インド、ブラジルといった英米の世界秩序に対抗する勢力が拡大する懸念もあり、英米を中心とする世界の既得権益層は、これを好まない。」と見られ、こうした結果、私は、「リーマンショックからちょうど10年が過ぎましたが、世界経済の根源的なリスクは解消されていない。まずは一時、苦しくとも、世界的な大恐慌を覚悟してでも、世界にあふれ出た余剰資金を回収すべきである。」と思いますが、「現実との折り合いをつけようとすると、これは難しい。」ということになりましょう。

 そして、実際には、リーマンショック直後、急激な信用収縮によって激減した通貨供給量により、売上高も激減、景気悪化を招く、これを解決すべく、主要各国政府は、「財政出動を伴う景気解決策を取る。」しかし、これら主要国のほとんどは国家財政の赤字傾向に悩んでいたことから、国債発行などを拡大、この結果、今度は民間部門のみならず、公共部門の負債が急拡大する。そして、これに懸念が出たギリシャでは、ギリシャ財政危機が生まれ、その延長線上で、ポルトガル、スペイン、イタリアを巻き込み、欧州財政危機問題を発症、世界経済は今も、こうした、「行き過ぎた広義の信用創造に基づく、バブル経済の突然の破裂不安を抱えたまま、進展している。」と言えましょう。実際に、現行の世界では、リーマンショックが発生した2008年9月当時に比較して、むしろ、世界的な債務の増加を見せています。民間企業の債務残高が増大し、過剰債務問題に関しては、中国本土企業を中心に、多くの国で債務残高が増加しています。そして、今回は、上述したした通り、その民間部門の負債増加に加えて、公的部門の負債増加も見られており、万一、これが破綻をきたすと、リーマンショック以上の悪影響をもたらすものと懸念されます。(つづく)

(連載2)中国はなぜいま少数民族の弾圧を加速させるか ← (連載1)中国はなぜいま少数民族の弾圧を加速させるか  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-02 11:16 [修正][削除]
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3643/3652
 この状況下、再教育キャンプを合法化することは、中国政府にとって「アメリカは人権を政治的に利用している」、「過激派を取り締まる法律を策定する権利はどの国家にも認められているはずなのに、それさえもアメリカは自分が気に入らなければ批判する」、「理不尽なのはアメリカの方だ」というメッセージを世界に発することになる。つまり、再教育キャンプに法的根拠を与えることで、中国は開発途上国での支持を固めようとしたといえる。

 このタイミングで再教育キャンプが合法化された第二の理由は、トルコへの圧力である。中国にとってウイグル問題はイスラーム世界での評判にかかわるアキレス腱だが、なかでもウイグル人と民族的に近いトルコは、中国のウイグル政策を批判し続けてきた。トルコの歴代政権のなかでも現在のエルドアン大統領は、中国によるウイグル弾圧を「大量虐殺」と呼んだことさえある。しかし、そのトルコは現在、四面楚歌の状態にあり、そのなかで中国との関係改善を模索している。NATO加盟国でありながら、国内の人権問題やシリア内戦でのクルド人支援をめぐり、トルコはアメリカとの関係が悪化してきた。また、EUを率いるドイツとは歴史的に関係が深いものの、ドイツ国内のトルコ系移民をめぐり、やはりギクシャクしている。欧米諸国との関係が悪化するなか、トルコはシリア内戦の処理をめぐってロシアやイランとの協力を進めてきたが、シリア反体制派の最後の拠点となっている北西部イドリブ攻撃をめぐり、ロシアとの関係にも隙間風が吹き始めている。そんななか、とどめのようにトランプ政権がトルコ製鉄鋼製品の関税を引き上げたことをきっかけに、トルコ経済は一気に冷却化。その結果、エルドアン政権は「中国との貿易を増やすこと」を掲げ始めたのである。

 米ロの力をそれぞれ利用しながら綱渡りを演じ、実際の国力にそぐわない強気の外交を展開してきたエルドアン大統領だが、各国との関係が怪しくなるなか、中国に接近しようとしているのだ。この状況下、中国はいまだにトルコのラブコールに応えようとせず、むしろ再教育キャンプを合法化することで、ウイグルでの弾圧を正当化している。これに加えて、中国政府はハラル(豚肉やアルコールなどムスリムが避けるべき食材を用いない食品の総称)に反対するキャンペーンをウイグルで強化している。イスラームの食文化の否定は、再教育キャンプに法的根拠を与えることと並んで、新疆ウイグル自治区を漢人の土地にする取り組みの一環といえる。イスラーム世界における中国批判の急先鋒であるトルコが中国への接近を画策するなか、中国政府がこれまでより踏み込んだウイグル弾圧に着手したことは、トルコに対して「もし中国との取り引きを増やしたいのであれば、今後ウイグルの件に口出しするのは控えなければならない」というメッセージになる。つまり、中国は簡単にトルコのラブコールを受け入れるのではなく、この期に乗じてトルコを封じ込めにかかっているのだ。

 これに対して、現在のところ、他のイスラーム諸国と同様、トルコ政府から再教育キャンプの合法化に関する公式のコメントは出ていない。こうしてみたとき、中国政府が新疆ウイグル自治区の再教育キャンプに法的根拠を与えたことは、一見ただイスラーム勢力の取り締まりを強化するもののようでいて、開発途上国、とりわけイスラーム諸国からの批判を出にくくする外交的な試みといえる。これに対して、アメリカやトルコが仮に批判を強めても、ウイグル人のために、外交的非難以上の具体的なアクションを起こすことは想定しにくい。したがって、どう転んでもウイグル人の人権状況が改善する見通しは暗いと言わざるを得ないのである。(おわり)

(連載1)中国はなぜいま少数民族の弾圧を加速させるか  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-11-01 11:16  
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 中国政府は10月10日、これまで存在を否定していた「少数民族ウイグル人を収容する事実上の強制収容所」である「再教育キャンプ」を、社会復帰を促すための「職業訓練センター」として法律に明記したことを明らかにした。少数民族への弾圧が強化されることは習近平体制の強権化を大きな背景にするが、それがこのタイミングで行われたきっかけには、アメリカとの対立やトルコへの圧力といった国際的な要因があげられる。「再教育キャンプ」とは「過激思想にかぶれた」とみなされるウイグル人を拘束し、共産党体制を支持する考えに改めさせる強制収容所で、2018年5月段階で100万人以上が収容されているとみられる。

 約1,100万人のウイグル人は中国の少数民族のうち最も人口が多く、そのほとんどが西部の新疆ウイグル自治区に暮らしている。大多数がムスリムのウイグル人の間には、漢人・共産党支配への反感が根強くあり、1990年代からは分離独立運動やイスラーム過激派の台頭もみられる。これまで中国政府は、「新疆では信仰の自由が守られている」と強調し、分離独立を求める勢力を「テロリスト」と呼んで取り締まりを正当化してきた。歴代の国家主席と比べても習近平国家主席は権力を絶対化しようとしており、その一端として少数民族への取り締まりも強化されている。その結果、「テロ対策」としてウイグル人のDNAや虹彩が採集されるなど、新疆ウイグル自治区は巨大な監獄と化しており、再教育キャンプはその象徴となってきた。

 ただし、中国政府はこれまで再教育キャンプの存在そのものを否定してきた。それが一転して法的根拠を与えたことは、国策としての「反体制的な少数民族の管理」を、これまで以上に進める意志を内外に示す。とはいえ、既に国際的に高まっていた批判を公然と無視するものだ。中国はなぜこのタイミングで再教育キャンプに法的根拠を与えたのか。そこには大きく二つの理由があげられる。第一に、アメリカとの関係悪化だ。貿易戦争だけでなく、中国製スマートフォンに情報漏洩の危険があるとFBIやCIAが注意喚起するなど、米中対立がエスカレートの一途をたどるなか、9月21日にポンペオ国務長官は新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判。これ以来、アメリカはしばしばウイグル問題を取り上げてきた。中国がこのタイミングで再教育キャンプを合法化したのは、アメリカの「人権攻勢」に抵抗するためとみられる。

 なぜ再教育キャンプを合法化することがアメリカへの抵抗になるのか。ここで、やや面倒だが、前提として4点ほど確認する必要がある。(1)アメリカをはじめ欧米諸国の政府は人権や民主主義の重要性を強調するが、外交的に関係の悪い国に対して、そのトーンは特に強くなる(中国、キューバ、イランなどの人権問題は頻繁に取り上げられる一方、インド、コロンビア、サウジアラビアなどでのそれは不問に付されやすい)、(2)友好国の国内問題に口を出さないことは現実の外交の観点から当然かもしれないが、しばしば先進国から「説教される」立場にある大多数の開発途上国の目からみて、それが「先進国のご都合主義」と映っても不思議ではない、(3)さらに、開発途上国には「国家独立のシンボル」でもある法律の策定が外部からの圧力や干渉にさらされることへの警戒が強い、(4)ところで、中国の国際的な支持基盤は、今も昔も開発途上国である。実際、ポンペオ長官の声明以前、「アメリカ第一」のトランプ政権は中国の人権問題に大きな関心をみせていなかった。つまり、トランプ政権は対立が激化する中国の国際的イメージを低下させるためにウイグル問題を強調し始めたわけだが、これは「人権を本心から尊重しているから」というより、露骨に「手段として人権を利用するもの」である。(つづく)

(連載2)アメリカの対中FTA阻止条項要求 ← (連載1)アメリカの対中FTA阻止条項要求  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-30 11:38 [修正][削除]
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 第一の理由は、FTAを締結しますと、様々な移動要素は‘高きから低きへ’と流れますので、価格競争力において有利となるのは中国、並びに、その他のRCEP加盟国です。また、労働コストや不動産価格等の競争力から、製造拠点の流れは日本⇒中国+その他加盟国となりましょうし、資金力の規模の面からすれば、企業買収資金の流れは逆に中国⇒日本となると同時に、日本⇒中国の技術流出の流れが生じましょう。これらの移動が一斉に起きれば、日本国の産業の空洞化が加速され、日本市場は中国の‘草刈り場’となりかねないのです。

 第二に挙げられる点は、共産党支配による中国の政経一致の国家体制です。中国では、近年、企業に対する共産党のコントロールが強化されており、グローバル展開を志向する政府系企業のみならず、民間企業であっても共産党の息がかかっています。日中経済関係が深化すればするほど、様々なルートを介して日本経済にも中国共産党の影響力が及び、その従属下に置かれるリスクが高まります。意に沿わない日本企業に対しては、中国政府は容赦なく制裁を加えることでしょう。しかも、中国では、遵法精神が低く、かつ、法の支配が確立していませんので、たとえ日系企業が不利益を受けたとしても法的救済の手段はありません。現状でさえチャイナ・リスクが懸念されているのですから、仮にRCEPが成立すれば、この傾向に拍車がかかるのは必至です。

 第三の理由は、米中関係のさらなる悪化が予測されることです。‘新冷戦’とも称されるように、米中の対立は、経済分野に限定されているわけではありません。この対立構図からしますと、RCEPとは‘旧冷戦’時代にあってアメリカの同盟国である日本国が仇敵であるソ連邦とFTAを結ぶようなものです。現実には、共産主義国への技術流出を防ぐためにココム規制などがあったのですから、FTAを介して軍事に転用可能な民間技術や情報等が‘敵国’に流出する状態を放置するはずもありません。早かれ遅かれ、上記の‘日米通商協定を選ぶのか、RCEPを選ぶのか’の二者択一は、政治的にも、‘アメリカを選ぶのか、中国を選ぶのか’の選択となるのです。

 中国という国が、自由、民主主義、法の支配、基本権の尊重といった人類普遍とされる諸価値を蔑にし、共産主義イデオロギーの名の下で犯罪や人権侵害行為さえも正当化しています。こうした非人道的な国を加盟国とした広域的な自由貿易圏を形成することは、アメリカからの要請がなくとも、日本国自らの判断として控えるべきことのように思えます。人には状況の変化に対する高い対応能力が備わっているのですから、中国抜きで経済の繁栄を目指すという方向性もあるのではないかと思うのです。(おわり)

(連載1)アメリカの対中FTA阻止条項要求  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-29 14:32  
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 報道に拠りますと、ロス米商務長官は、ロイター通信とのインタヴューの中で、日本国、並びに、EUがアメリカと通商協定を結ぶに際し、中国等を念頭に非市場経済国との間でFTAを禁じる条項を設ける意向を示したそうです。この条項が新たな日米通商協定に盛り込まれるとしますと、日本国は、中国も加盟国となるRCEPを締結することは不可能となります。

 日本国政府は、TPP11に次いでRCEPの成立を急いでおり、年内での大筋合意を目指して交渉を加速させようとしています。アメリカの方針は、いわば、この流れに水を差した格好となりますが、RCEPが内包するリスクを考慮しますと、日本国にとりましては、アメリカの要求はRCEPへと向かう危険な道から引き返すための‘渡りに船’なのではないかと思うのです。

 アメリカの要求は、交渉相手国に対して、自由に通商協定を結ぶ権利に制約を課しているため、一見、極めて傲慢で他国の主権を侵害しているようにも見えます。しかしながら、アメリカにも、自らの政策に沿う国を通商協定の相手国として選ぶ自由がありますので、アメリカが、自国の求める要件を充たしていないことを理由に日本国との新たな通商協定の締結を拒否すれば、‘それまで’ということになります。言い換えますと、同対中FTA阻止条項とは、日本国に対して‘日米通商協定を選ぶのか、RCEPを選ぶのか’の二者択一の決断を迫っていると言っても過言ではないのです。

 これまで、日本国政府は、アメリカと中国との間の巧みに泳ぐような通商政策を展開してきました。しかしながら、ここに来て、終にどちらか一方を選択すべき時期が到来しているようです。それでは、日本国は、アメリカと中国という選択肢の内、どちらを選ぶのでしょうか。この選択については、今やアメリカを抜いて中国が日本国の最大貿易相手国となっていることから、経済界を中心に中国を選ぶべしとする意見もあるかもしれません。しかしながら、以下の理由から、日本国は、迷わずアメリカを選ぶべきです。(つづく)

国際二宮尊徳思想学会曲阜大会に参加して   
投稿者:池尾 愛子 (東京都・女性・早稲田大学教授・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-28 09:37 [修正][削除]
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3639/3652
 10月20-21日に、国際二宮尊徳思想学会第8回大会が中国山東省曲阜(Qufu)で開催された。日本からの参加者たちは青島に飛行機で入り、410キロの道のりをバスで曲阜に向かった。膠州湾大橋を心地よく渡り、特に何もなければ約6時間の旅程である。(豊かな)農業地帯をほぼまっすぐに伸びる道路を走り、立体交差のジャンクションで一度左折するだけだと思う。ただ、交通事故がよく起こっているので、巻き込まれないまでも迂回するとより長い時間がかかる。曲阜は孔子、孟子の生誕地である。文化大革命時代には孔子も迫害され、石碑などが壊されることがあった。それらが修復され、建造物や城壁・門が(明時代のものに)復元され、見事に世界遺産に登録されるまでになり、中国人観光客もたくさん訪れていた。孔子一族は(正妻以外の妻のおかげもあって)今も続いており、現在の子孫は台湾在住であるときいた。

 第8回大会の共通テーマは「『永安社会』の構築をめざして―報徳思想と儒学振興―」であった。儒学が明示的に入ると中国人研究者たちにとっては研究報告しやすくなるようだ。荻生徂徠や王陽明も取り上げられ、学術水準が格段に向上したと感じられた。実践志向の王陽明については中国でも熱心に研究すべき対象であることが確認されたようだ。(王陽明や儒学者の)全部を受け容れる必要はなく、必要なことを拾い出して学ぶことにしてよいことも確認されたようである。もちろん、尊徳の実践的アプローチにちなんだ報告はいつもあり、実践的哲学の重要性が再確認できた。尊徳は実践を通じて理論を構築・改良してきたプラグマティストであった。発表時の議論の他、発表後の情報交換にも大変興味深いものがあった。

 私は、19世紀末にシカゴ大学でJ.デューイ(1859-1952)の指導を受けた田中王堂(1867-1932)の二宮尊徳研究について報告した。経済学者の天野為之(1861-1938)は富田高慶著『報徳記』(1883)等を読み、尊徳の神道的要素に気づき、尊徳の勤労・分度・推譲に近代的な経済学につながる要素を見出していた。それに対して、哲学者の田中王堂は、経済学的解釈を批判しつつ、福住正兄著『二宮翁夜話』(1893)を読み、尊徳に、プラグマティズム(実践、実験を含み、中国語では今でも「実用主義」と訳される)、功利主義(幸福論を含む)、中庸、個人主義、重農主義等を見出した。(王堂は原典の「解釈」はもとより「改釈」でもよいとした。)尊徳に対する哲学的解釈は大会では違和感なく受けとめられたようであった。確かに以前から哲学者や哲学を二次専攻あたりとして取り組んだ研究者がいつも何人か参加している。中国に2年余り滞在したデューイの影響、北京大学の哲学者胡適(1891-1962)から脈々と伝えられる伝統が中国の学問を通底しているようにも感じられた。

 農業実践に関するセッションでは、中国人農業経済学者でなければ行けないような農村についての報告もあった。真冬には凍てつき、夏には衛生上の問題があり、彼らでも冬間近にしか調査に行けない農村があることもわかった。報告後に会議参加者に聞くと、農業経済学者の日中交流はかなり進んでいて、農業がうまくいっている地域と、問題を抱えたままの農村があることがわかった。そして、まだ残っている農村問題の解決に向けては、農村に派遣されている党書記の役割が大きいと認識されていることも伝わってきた。また、一方で環境問題などを解決するためには、倫理を手段として用いるアプローチが有効であると主張する日本人の発表があり、他方で「道具的理性」の役割を強調する中国人の発表もあったので、日中の議論はかなりかみ合ってきたといえる。そして、尊徳学会もようやく岐路に差し掛かっていることが感じられた。中国人研究者たちは、問題解決を目指す実践的アプローチを通じて、もっと広範な研究交流をしてみたいと思っているようにも感じられたのである。

中国本土の覇権と新興国について   
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・60-69歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-26 12:32 [修正][削除]
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 一帯一路構想とアジアインフラ投資銀行(AIIB)のセット商品化により、これを推進、「ユーラシア大陸を席巻しながら、中国本土型標準をこれら地域に定着させ、じわじわと米国との覇権の力の差を詰めていこうとする。」と言う中国本土の国家戦略には周到なるものがあると私は見ています。しかし、一方で、最近では、ハンガリーを除くEU加盟国にこうした中国本土の一帯一路構想に対する警戒感も出てきています。また、15年ぶりに権力の座に復帰したマレーシアのマハティール首相も、「一帯一路」関連の発言で、「マレーシアの東海岸鉄道(ECRL)事業、パイプライン事業など一帯一路関連のプロジェクト3件を中止する。」と表明した上で、中国本土の戦略を、「貧しい開発途上国を債務の罠に陥らせる一帯一路を“新植民地主義”である。」とコメントしています。

 こうした中、中国本土では最近、一帯一路に対する宣伝報道が増えているように思います。習近平首席は一帯一路5周年座談会で、「一帯一路は域内国家がウィンウィンの関係を築き、運命共同体をつくろうとするものであり、各国が中国本土には異なる意図があるとおとしめているが、経済的覇権は追求しない。」と述べ、中国本土の公式メディアはそれを大々的に報じています。また、欧州に警戒感が強まる中、中国本土はアフリカに目を向けようとしているとも見られますが、中国中央テレビ(CCTV)は、「アフリカの発展を支援する一帯一路を新植民地主義と非難するのは荒唐無稽である。」とするボツワナ大統領のインタビューを放映し、公式メディアを動員し、一帯一路構想の正当性を訴えています。

 しかし、こうしたアフリカの既得権益層は、中国本土から利権の一部を甘い汁として与えられている可能性も否定できません。実は、一帯一路はこの5月に行われたマレーシア総選挙で大きな争点であり、中でもECRLは注目されていました。ECRLはマレー半島北東部のタイ国境地域から東海岸の主要都市を経て、西部のマラッカ海峡沿岸にあるクラン港まで延びる総延長688キロメートルの計画であり、経済的に遅れた東海岸地域を開発する狙いでナジブ前首相が推進したもので、2016年には総工費の85%を借り入れる条件で、中国本土国有企業の中国交通建設が工事契約を結び、昨年7月に起工式が行われたものでしたが、そのナジブ前首相は汚職が取り沙汰され、前述したように、中国本土から甘い汁を吸わされていたかもしれないのです。そして、ECRLの最大の問題点は経済性にあり、当初70億米ドル程度と予想されていた総工費は、契約時点で130億ドル以上に膨らみ、最近では隠れた工事費用まで含めると、総工費が200億米ドルに達するとの発表もありました。70億米ドルでも経済性が不透明なのに、総工費が200億米ドルまで膨らめば、返済不能となり、ここで、中国本土が債権者の立場を背景にマレーシアの港などを租借したいなどと言われれば、マレーシアはひとたまりもありません。マレーシアの政府債務は昨年時点で2,400億米ドルであり、国内総生産(GDP)の80%を超えているから更に心配であります。

 また、この一帯一路はアジア、欧州、アフリカにかけ、大規模にインフラを整備し、新シルクロード経済ベルトを構築するプロジェクトであり、習国家主席が力点を置いており、中国本土は韓国をはじめとする80カ国余りを引き入れ、AIIBを設立し、資金調達もしながら推し進めようとしています。しかし、これまで工事全体の89%を中国本土企業が受注するなど、中国本土偏重で推進されており、インフラ整備先の国が過度の負債で財政危機に追い込まれるなど多くの問題が浮上し、債務負担に耐えられなくなったスリランカは、ハンバントタ港の運営権を99年間にわたり中国本土に認めました。中国本土が英国にやられ、香港を99年間租借しなくてはならなくなったとの経験をこうした形で利用しているとも見られる典型的な出来事となりました。また、中国本土は9月初め、アフリカ53カ国の首脳を北京に集め、600億米ドルに達する大規模な経済支援を約束しましたが、中国本土の真意はどこにあるのか?アフリカやその他新興国のリーダーには、目先の利益や私服を肥やすことに目を向けずに客観的、論理的に対応して頂きたいものであります。

(連載2)NAFTA⇒USMCAに思う ← (連載1)NAFTA⇒USMCAに思う  ツリー表示
投稿者:緒方 林太郎 (福岡県・男性・元衆議院議員・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-25 12:24 [修正][削除]
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3637/3652
 自動車の話に戻ります。自動車関連ではサイドレターが付されました。通商法の安全保障条項の発動(セクション232)で25%の関税を課す場合でも、メキシコとカナダはそれぞれ年260万台までは無税で輸出できることになりました。この260万台という水準は、現在のカナダの自動車生産台数(200万台)、メキシコからアメリカへの輸出台数(180万台)のいずれよりも上なので実害はないというのが米紙の論調です。260万台までは関税を掛けない、それ以上は25%という感じですので、この安全保障条項の発動は、何となく「関税割当」の導入や「セーフガード」の設定と似ています。

 公開情報をベースに少しだけ詳し目に書いてみました。何故なら、これが日米FTAの下敷きになりそうだからです。このUSCMAは法的には新協定であり、NAFTA改正ではないと思います。ただ、下敷きはNAFTA+TPPで、それに新チャプターを加えたというイメージで良いでしょう。かなり変更点はありますが、すべてを再交渉したわけではありません。つまり、日米FTAもゼロから交渉するブランド・ニューな協定ではなく、TPPを下敷きにした上で、それに出し入れをしていくイメージを持った方が良いように思います。

 NAFTA⇒USCMAについて盟友、福島伸享さんとやり取りをしていて、「USMCAは自由化の後退だと思うが、WTO協定的にどうなんだ?」という話になりました。WTO協定の基本理念は「自由化を常に前進させる」というものでして、例えば、日本がある品目について譲許税率を上げようとすると、その品目を日本に輸出している関係国に対して、全体としての自由化率を下げないために他の品目で追加的な自由化を要求されます。簡単に言うと、日本がコメの関税を上げようとすると、「では、対価として小麦の関税を下げてください」という(正当な)要求がやって来るというのがWTOの基本的なルールです。(外務省時代、色々な国会議員から「〇〇の関税上げて保護しろ。」という要求がありました。上記の理屈を説明した上で「相手国に提供する対価を探してきていただけるのであれば考えられなくもありませんが。」と言ったら、大体黙っていただけました。)

 しかし、WTO協定の自由貿易協定に関する規定では、「一旦成立したFTA(NAFTA)の自由化が後退したらどうするか。」という規定がありません。そもそもが「関税その他の制限的通商規則がその構成地域の原産の産品の構成地域間における実質上のすべての貿易について廃止」されるものですから、一旦成立した後に自由化が後退する事が想定されていないのです。ただ、こういう事を許していたら、GATT/WTO体制はどんどん崩壊していきます。GATTの前文は「(抜粋)貿易及び経済の分野における締約国間の関係が、生活水準を高め、完全雇用並びに高度のかつ着実に増加する実質所得及び有効需要を確保し、世界の資源の完全な利用を発展させ、並びに貨物の生産及び交換を拡大する方向に向けられるべきであることを認め、関税その他の貿易障害を実質的に軽減し、及び国際通商における差別待遇を廃止するための相互的かつ互恵的な取極を締結することにより、これらの目的に寄与することを希望して」とあります。今回のNAFTA⇒USMCAの動きはこの理念に反していると言えるでしょう。そこは日本を始めとする主要国でアメリカに強く言っていくべきではないかと思います。そういう理念系からスタートする議論を国会には望みたいですね。(おわり)

(連載1)NAFTA⇒USMCAに思う  ツリー表示
投稿者:緒方 林太郎 (福岡県・男性・元衆議院議員・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-24 16:22  
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3636/3652
 トランプ大統領が主導する形で、アメリカ、カナダ、メキシコの新通商協定(USMCA)が合意されました。トランプ大統領の言葉を借りれば「NAFTA修正(NAFTA redone)」ではなく、新協定です。なんとなく、トランプ大統領はムチャクチャやっているように見えるでしょう。しかし、実は今のトランプ大統領のやり方は「元々アメリカは今のような仕組みをある程度志向していた。」と言えると思います。典型的なのは、かつて、ブッシュ父やクリントン政権の時代に有名になった「スーパー301条」です。あれは「他国の貿易慣行を不公正ではないかと思ったら調査に入る。調査の結果、不公正だと認定したら制裁を打つ。」という内容のものでした。大体、当時も「調査」が入る段階でビビって貿易慣行を改めるというのが常でした。トランプ大統領の手法は、それを若干恣意的に運用している事と、脅しが露骨に入ってくる事だけでして、基礎的な構造は昔から同じです。

 さて、今回のUSMCAでは、北米での自動車原産地規則が厳格化された(62.5%⇒75%)、自動車生産の一定割合(40%)は時給16ドル以上の労働者によって作られなくてはならない、といった内容の話が入っています。時給16ドル以上の労働者なんてどうやって確認するのだろうか、個々の自動車について検証できるのだろうか、と私個人としては首を傾げてしまいます(実際、どうやって国内実施法を作るかで連邦議会は悩み始めているようです。)。面白いものとしては、小麦のグレードに関する合意があります。アメリカの小麦農家に言わせると、カナダに輸出すると自動的にアメリカ産は最低価格帯に位置付けられてしまうそうで、これに不満を抱えていました。これを踏まえ、カナダ市場において、アメリカ産とカナダ産は同等に扱う事という内国民待遇の厳格化が盛り込まれていました。面白いなと思いました。

 乳製品が過剰気味なアメリカは、カナダの乳製品市場開放を強く求めて来ました。カナダにおける乳製品問題というのは、酪農の中心地であるフランス語圏のケベック州問題とかなり重なる所があります。乳製品で下手な譲歩をすると、(自分達は普段から英語圏に不利な待遇を押し付けられていると思っている)ケベック州に強い遠心力が働く事になります。なので、昔からカナダは乳製品については、関税引き下げという形での自由化よりも輸入枠の拡大で対応する事が常でした。今回、TPPでの輸入枠を超える枠(市場の3.5%)がアメリカに提供されるそうです(とアメリカは言っています。)。カナダ政府は、不利益を被る酪農農家への補助金を提供すると言っています(カネでの解決)。それ以外にも乳製品のクラス分けでの規制がアメリカに不利になっているので、それを改めさせたようなのですが、私はそこまで乳製品産業に詳しくないのでよく分かりませんでした。

 あとは米加間で「意外に大きいテーマなんだな。」と思ったのは「紛争解決制度」です。カナダは、木材等に対するアメリカのアンチダンピング課税に苦しんでおり、それを公平な立場から解決するNAFTAの制度を維持する事に懸命でした。アメリカの姿勢は完全にジャイアン状態でして、自国の決定をそのまま押し付けられるように紛争解決制度を失くそうとしていました。さすがに結果としては大きな変化は無さそうです。ただ、アメリカがNAFTA協定に規定された紛争解決制度を潰そうとして来た事は記憶に留めておいた方がいいでしょう(実際、メキシコとの間では廃止されたはず)。(つづく)

(連載2)日米貿易摩擦から中国が学んだこと ← (連載1)日米貿易摩擦から中国が学んだこと  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-23 11:06 [修正][削除]
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3635/3652
 これに拍車をかけているとみられるのが、トランプ政権の特徴だ。貿易戦争に限らず、トランプ政権の外交には「自分もリスクがあるなかで敢えて相手に無理難題をふっかけて譲歩を迫る」というパターンがある。これに最もうまく対応してきたのは北朝鮮だといえる(だからといって北朝鮮を擁護するわけではない)。2017年の米朝間の緊張は、もともと北朝鮮が核・ミサイルを開発したことに大きな原因があるが、トランプ政権が全面的な経済制裁だけでなく、軍事力の行使さえも示唆しながら「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」という、北朝鮮が呑めるはずもない要求をしたことでエスカレートした。この際、「北朝鮮が折れる」という楽観的あるいは強気の観測もあった。しかし、実際には、北朝鮮は「一方的な核廃絶には応じない」という姿勢を維持することで、実際には軍事行動に踏み切れないアメリカを立ち往生させ、それと並行して韓国などを巻き込みながら緊張を和らげる方向に転じ、結果的に6月にシンガポールでの「何も決めない」米朝首脳会談に持ち込むことで、身の安全を確保することに成功した。

 この北朝鮮の行動は、世界に「強気で臨んでくるトランプ政権に対処するには、逆に強気で臨んでデッドロックに持ち込むことで、トランプ政権を困った状況に追い込むのが効果的」という一つの解決策を示したことになる(何度も言うが、だからといって北朝鮮を賞賛しているわけではない)。トランプ氏が歴代政権以上に、支持者向けの、わかりやすい「明確な勝利」を設定する傾向が強い以上、圧力を受けても踏ん張り続け、「明確な敗北」にさえならなければ、むしろトランプ政権の方が具合が悪くなりやすいことは、北朝鮮の選択の効果を高めたといえる。

 だとすると、中国の選択も不思議ではない。もともと中国には、人権侵害などに関するアメリカなどからの外圧に対して強気で臨む傾向が強かったが、トランプ政権のこの特徴を踏まえれば、貿易戦争で一歩も引かない対応は合理的ともいえる。もちろん、トランプ政権から圧力をかけられた時、各国がこれに対抗すれば、貿易戦争が世界的に広がり、どの国にとっても貿易から得られる利益が収縮することになる。中国も同様で、貿易戦争を収束させられればそれに越したことはない。その意味で、アメリカからの圧力に張り合うことは、置かれた環境のなかで合理的な判断だったとしても、それが最上の結果を約束するとは限らない。「貿易戦争に勝者はいない」といわれる所以である。とはいえ、トランプ政権から貿易戦争をしかけられた場合、「我が国の企業の進出がアメリカで雇用を生んでいる」などの理性的な呼びかけがポピュリスト相手に無力で、圧力をかわし続けることに限界があり、ましてその要求に一方的に合わせられないのであれば、圧力に譲らないなかで着地点を探すしかない。つまり、勝てないまでも負けない選択が不可欠といえる。

 トランプ氏から次の標的として名指しされている日本にとって、これは他人ごとではない。1980年代と比較して、日本の輸出に占めるアメリカの割合は低下しており(IMFによると2017年段階で19パーセント)、これはリスクヘッジとも呼べるが、政治的な意志によるというより、中国など新興国との取り引きの増加によって生まれた結果にすぎないともいえる。だとすれば、誰より日本自身が、日米貿易摩擦の教訓を見直す時期にきていることになるだろう。(おわり)

(連載1)日米貿易摩擦から中国が学んだこと  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-22 16:09  
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 9月17日、トランプ政権が2000億ドルにおよぶ中国製品の関税引き上げを決定し、貿易戦争を加速させたのに対して、中国は翌18日に報復関税の措置をとると発表した。既に輸出の縮小などの影響を受けているにもかかわらず、引く構えをみせない中国からは、「日本の二の舞を避けたい」という意志をうかがえる。中国系カナダ人で、マスターカードのグローバル・チーフ・エコノミストなどを歴任したユワ・ヘドリック・ウォン博士は、中国政府にとって1980年代の日米貿易摩擦が「アメリカの圧力に譲るな、対米輸出に頼りすぎるな」という教訓になっていると指摘する。1980年代のアメリカでは、市場にあふれかえる日本製品に対する反感が、日本製品に対する関税引き上げや日本の輸入規制緩和を求める世論「ジャパン・バッシング」の台頭を招いた。

 これに対して日本政府は、自動車や家電製品などの輸出の「自粛」を各企業に要請するとともに、在日米軍に対する「思いやり予算」やアメリカ国債購入額の増加、アメリカが求める金融、農産物輸入の規制の緩和などで「アメリカからの圧力を受け流す」ことを優先させた。安全保障面でアメリカの協力が欠かせなかっただけでなく、日本の輸出に占めるアメリカの割合が大きかった(IMFの統計によると1980年代の10年間の平均で30パーセント以上)ことも、この選択を促したといえる。しかし、アメリカとの対決を避け続けたことは、結果的にアメリカの要求をさらにエスカレートさせた。その象徴が1985年のプラザ合意だ。

 プラザ合意では、日米に英、仏、西ドイツを含めた5ヵ国が協調して為替相場に介入し、ドル高を是正することが定められた。ドル高是正はアメリカの輸出競争力の回復を目指すもので、入れ違いに円高をもたらし、日本は輸出に不利な条件を抱えざるを得なかった。その一方で、円高・ドル安が進行したことで、それまで高嶺の花だった輸入品の消費が容易になっただけでなく、折から金融取引の規制が徐々に緩和されたことで、日本では空前の好景気を迎えた。ただし、金融取引の加熱はバブル経済をもたらし、これが1991年にもろくも崩壊した後、日本は長い低成長の時代を迎えた。プラザ合意は、まさに泡のような一時の享楽の後の苦難の入り口になったといえる。

 アメリカへの輸出が日本の経済復興・経済成長の大きな柱になり、アメリカ経済の回復が日本にとっても利益になる状況にあったことから、プラザ合意の受け入れは現実的でもあった。とはいえ、アメリカが自らの購買力を盾に圧力を加えた時、これに抗しきれなかったことが、その後の日本の進路を大きく左右したことは確かだ。バブル時代に膨れあがった、必要性の疑わしいものの多かった公共事業費は、巨額の財政赤字の一部として、今もその影響を残している。これを現代の貿易戦争に照らし合わせると、当時の日本と現在の中国では、政治的な立場も経済構造も異なる。しかし、アメリカと同盟関係になく、当時の日本より輸出に占めるアメリカの割合が低い(IMFによると2017年段階で19パーセント)からこそ、中国にとって日米貿易摩擦の顛末が「アメリカの圧力に譲るな」や「対米輸出に依存しすぎるな」という教訓になっても不思議ではない。(つづく)

英国の末路   
投稿者:岡本 裕明 (非居住者カナダ・男性・海外事業経営者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-10-19 14:59 [修正][削除]
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 英国のEU離脱にむけた状況を見ると目を覆いたくなります。メイ首相の心中やいかに、と慮りたくなりますが、本人の強気発言は英国人のプライドの高さを示しているのか、単に頑固で前にしか進めないウサギのようなリーダーなのでしょうか?ご承知の通り、19年3月で英国はEUから離脱します。その移行期間をスムーズにし、双方がどのような作業、協定締結を行うのかを含めた交渉期間は約2年ありました。そのタイムリミットは10月とされており、すでに実質タイムアップといってよい状況にあります。にもかかわらず、ほとんど何も合意できておらず、終わりの始まりが近づいているようです。報道では11月と12月に開催されるEU首脳会議が本当の最終期限とされますが、12月はクリスマス時期に入るため、機能しないでしょう。よって11月中旬に設定されている首脳会談が全てになると思います。

 現在の状況は最悪と言ってよく、合意なき離脱が現実味を帯びています。もしも政府に代替案があるならそれを示さないと国全体で噂が噂を呼び、大混乱に陥る可能性はあります。ではなぜ「こんな状況になってしまったのか」ですが、個人的には「EU離脱を問う国民投票そのものが間違いだったのではないか」と考えています。近年の選挙は選挙民をいかに引き付け、魅力的なオファーをし、投票してもらうか、あらゆるテクニックを駆使します。その結果、案件に対して360度見渡し、長所短所を理解したうえで判断しているのかといえば、多分それは少数派ではないかと思います。国民の大半は自分で直接的に目で見える生活エリアのことしかわかりません。政治家や専門家が何をどれだけ主張し、説明しても上の空であり、頭に入ってくることはありません。それよりも自分に降りかかってくるかもしれない目先の損得に目を奪われ、それをより刺激するメディアや主張にだけ耳を傾け、明白な結論だけを先に作ってしまいます。そうなると相手の言い分など聞く耳持たずになるのです(典型的な今の選挙戦スタイルです)。EUからの離脱判断は国家の経済、社会システムの大根幹の決定であるのに国民投票が正しい判断手法だったとは思えません。それは恐るべき素人集団が群集心理と声の大きさに惑わされ、洗脳され、扇動されてしまうからであります。そうではなく、市民と状況をコミュニケートできる専門家を全国各地から1000人なり1万人なり選出する選挙(Special Purpose Electionとでも言いましょうか?私の造語です)を行い、十分なる知識を持った人たちが討論をもって与えられた特定案件のみを決議できる被選挙人を設定すべきだったのかもしれません。もちろん、今言っても遅いですが。

 英国に基盤を持つ企業、特に国際企業はここにきて大慌てで代案の具体化を進めています。このところ、トヨタやBMWといった自動車業界からいろいろな声が聞こえてきたのは10月2日にパリ国際自動車ショーで自動車メーカーの首脳らがたまたま集まったためにそんなニュースが数多く流れました。日経によればドーバートンネルを行き来するトラックは1日5000台。この動きがなんらかの形で遅滞すればそれだけでとてつもない経済停滞を引き起こすとされます。先の自動車業界の場合、部品のストックはトヨタで4時間、ホンダで半日分しか持たない究極のジャストインタイム方式ですから、これがあだになる可能性が出ているわけです。

 では国境に入国審査場ができ、カスタム(税関)ができるとすればその施設はどう作るのでしょうか、人はどう採用し、どういうルールを設定するのでしょうか?こういう実務一つとっても何も決まっていないとすれば英国は3月29日午後11時に無法地帯と変わるのかもしれません。もちろん、メイ政権が無策であるとは思っていません。発表こそしていなくとも、いざという準備はしているでしょう。しかし、日本のように何かあった時、一気呵成に達成できるような国家の基礎はありません。EU離脱に伴う実務作業だけで気が遠くなるようなプロセスが待ち構えています。合意なき離脱が生じれば数年間は混沌とした国家になる可能性は否定できませんが、もともと持ち合わせている能力、資産、政治力はあります。どこかで回復してくるとは思いますが、茨の道が待ち受ける公算は相当高まってきたと言わざるを得ない気がします。

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