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誰も信じない財政金融政策の目標   
投稿者:中村  仁 (東京都・男性・元全国紙記者・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-22 10:41 [修正][削除]
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3528/3528
 国家経済の基本は、しっかりした財政金融政策にあります。そのまた基本である財政健全化計画も、日銀の物価目標も、ほとんど信頼されなくなりました。立案した時から実現はとても無理と見られているのに、政府、日銀は数値目標の改ざんともいうべきことをやってのけてきたのです。森友学園関係の文書改ざんは前代未聞の規模なのに、大阪地検特捜部は佐川・前国税庁長官を不起訴にする方針のようです(毎日新聞、読売新聞)。加計学園の獣医学部開設では、ウソだらけのような証言、発言の数々にあきれ返りました。政府、日銀の財政金融政策のいい加減さを拝見していると、モリカケ問題は本当に小さな小細工にすぎないように見えてきます。政府、日銀は「計画や目標を作らないわけにはいかない。達成できなくても、どうにかなるさ、なんとかなるさ」という気持ちで、財政金融政策に臨んでいるとしか思えません。新聞メディアの論説、解説記者たちが怒っても、民放のバラエティ番組はほとんど扱わないので、国民はモリカケ問題のように大騒ぎはしません。本当はこちらの問題のほうがはるかに重大なのです。

 評論家の立花隆氏が『知的ヒントの見つけ方』(文春新書)を出版しました。出版社は売らんかなの商魂から「知の巨人はこんなことを考えている」とのサブタイトルを添えています。日銀のマイナス金利を論じる一節があり、要約すると、「経済がさっぱり上向かない時、どうすればいいのかというと、可能な景気刺激策を片端から試してみるしかないのだ」との海外論評を読んで「何だか分かった」と。「知の巨人」が「景気刺激策を片端から試していると考えてみると、腑に落ちる」というのも無責任ではあります。どれかが正解ならともかく、片端から試しているうちに、日本は誤った財政、金融政策の泥沼にはまり込み、先進国経済の中で最悪、つまり先進国の片端に押しやられつつあるのです。450兆円もの国債を買った日銀の財務状況は先進国最悪の深刻さです。政府、日銀が選んだのは「異次元緩和によるアベノミクス」でした。5年前に新任の黒田総裁が安倍政権と語らって「2年間で2%の消費者物価を実現し、デフレを脱却する」と宣言しました。外れてばかりで、先送りを続けてきたため、目標を誰も信用しなくなりました。黒田総裁はとうとう「今後は2%実現の達成時期に言及しないことにする」と述べ、謝りもしません。

 もう一つは財政健全化目標です。安倍政権は「2020年度に基礎的財政収支を黒字化する」と約束してきました。黒字化どころか、長期国債の発行残高は1000兆円まで増え、目標達成が絶望的(8兆円の赤字見込み)になり、「25年度に黒字化する」と先延ばしする作業に入っています。この「5年先送り」も、トリックを使っていますから、6月に発表する段階で、達成はすでに絶望的でしょう。赤字を減らすには、税収増を図る必要があり、税収を増やすに経済成長率を高くするという前提を置いています。名目成長率を非現実的な3%台という前提です。実際は1%程度の成長を見込むのが無理のないところです。「5年先なら」と、逆算して成長率を設定するからこうなるのです。

 「財政支出を増やして、成長率を上げ、税収を増やし、財政を健全化させることは不可能。発行した国債を回収できるほどの税収が上がらない」というのがまともな経済学者の主張です。過去何十年もの間、理屈をつけては、積極財政をやり、その結果が積もり積もって1000兆円もの国債発行残高です。政権は支持率目当て、選挙目当てに財政資金をばらまきたいのです。与野党問わず、財政健全化は票にならないと思っています。やっと与党の中にも、「財政赤字に鈍感なのは日本が突出している」との危機感が生まれてきました。期待しております。学者や経済評論家の中にも、いい加減な財政論をぶつ人がおります。一例は「最大のウソつきは財務省で、日本の財政は先進国で最悪、だから消費税を上げないと破綻する主張している」という指摘です。債務(借金)ばかりを見ず、資産も調べて、差し引きして考えようというのです。「国は100兆円の米国債を持ち、売ろうと思えば売れる」、「道路も民営化すれば、株を売れる」、「官庁街や、1等地にある公務員住宅も売れる」、「日銀が保有する国債は返済や利払いが不要で、差し引きすれば、財政状態は決して悪くない」、「国債金利がゼロに近く、世界最低なのは、財政が健全である証拠だ」などなど。おかしな議論です。米国債を売ったら、ドル安・円高になります。道路を売ったら、有料道路に変わります。官庁ビルを売ったら、有料で借り戻さねばならなくなります。国債金利がゼロに近いのは、日銀の異次元金融緩和の結果です。いずれ正常化(出口)したら、国債金利が上がり、財政赤字が増大します。それでもいいのですかね。

朝鮮半島の行方と世界   
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-21 10:51 [修正][削除]
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3527/3528
 韓国と北朝鮮が、4月27日、南北首脳会談を予定通り、行いました。そして、韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による「平和宣言」への方向性が示されました。韓国側では、その名とは違い実際は多くの武器を配備されている非武装地帯(DMZ)で、重武装を禁じることを宣言に盛り込む案などが浮上していましたが、その方向性で今回の発表がなされています。但し、真の終戦協定に持ち込む為には、1953年の休戦協定締結当事者となる米中の同意署名が必要ともなります点は留意すべきです。

 しかし、それでも朝鮮半島の南北当事者が終戦、平和宣言を出すことは一気に南北融和を加速させ、国際世論もそれに傾けば、米国とても簡単には朝鮮半島に武力介入が出来なくなります。特に、北朝鮮の金正恩政権としては、そうしたことで先ずは十分であり、6月初旬までに開催が予定されている米朝首脳会談でも主導権を取り、更に米国のトランプ大統領が、功を焦ってくれれば、米国もこの平和宣言に乗ってきてくれる可能性も出てきましょう。そして、トランプ大統領としては、事、こうした形で進めば、一転、オバマ大統領ですら獲得したノーベル平和賞の受賞に関心を示し、更に功を焦る可能性すらありましょう。こうして見ると、今回の南北会談は、一時、窮地に立たされた北朝鮮を一点有利に導いていくことになる一つの大きな契機となったとも見られ、今後の動向をフォローしたいと思います。

 さて、今回の南北会談の主役の一方である朝鮮民主主義人民共和国、通称北朝鮮は人口約2,500万人、面積は約12万平方キロメートルで農業が主産業、そして、世界約200カ国のうち、英独など約160カ国と国交があり、今回の一連の、そして突然の「南北融和」に向けた動きは、「脆弱な国だからこそ、国際世論を味方にして、朝鮮半島問題に関して、米国に簡単に軍事介入されないようにするという、ロシアと北朝鮮の共同作戦によるものである。」と筆者は見ています。

 また、韓国の中央銀行たる韓国銀行の分析では、北朝鮮に対する国際的な制裁が更に強まる前の2016年の北朝鮮の経済成長率は2000年代以降で最高の3.9%となっていますが、1人当たりの年間所得は約15万円と韓国の20分の1とされ、更に都市と農村の格差は大きいと見られ、ここに、「中国本土の経済制裁が加わったことから、経済的疲弊が拡大、格差を背景とした国内動揺が顕在化しつつあると見られ、これらを解消する上からも、上述したような南北融和の雰囲気を国際社会で醸成し、一気に制裁緩和に国際世論を向けるという一挙両得の戦略を打ち出し、ここまではそうした戦略が、ロシアと北朝鮮にとっては順調に推移している。」とも見ています。

(連載2)中国による一帯一路構想擁護論の詭弁 ← (連載1)中国による一帯一路構想擁護論の詭弁  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-18 10:36 [修正][削除]
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3526/3528
 正当化理念の登場によって、一帯一路構想は中国の経済戦略と外交政策が‘有機的’に結合した“経済外交のプラットフォーム”へと転じ、この点について氏は、「経済外交とは、簡潔に言えば、経済のための外交、あるいは外交のための経済…」と述べています。言い換えますと、政治が経済に優先し、「最終的に中国の平和的台頭と(中華)民族の復興に寄与する必要がある。」としているのです。ここでも、中国の露骨なまでの自国中心主義が表明されております。同構想は、“貿易のグローバル化と投資の自由化を促進する新しい手段”とも説明していますが、このメリットも、中国の輸出市場のグローバル大での拡大と人民元圏の形成と読み替えれば、徹頭徹尾、自国優先という意味では主張は一貫しています。

 ここまで読み進めると、先述した(4)中核理念としての「義利観」や、(5)運命共同体を特徴とする発展主導型の地域経済協力メカニズムの意味もおぼろげながら輪郭を表してきます。自由貿易主義の旗手を自認する中国自身でさえ、予定調和的にウィンウィン関係となる古典的な自由貿易理論を信じてはおらず、一帯一路にあっても、沿線国との間の貿易不均衡や貿易摩擦、並びに、運命共同体を名目とした中国による政治的介入に対する反発が起きることを想定しているのでしょう。オンライン記事のタイトルにも“最も重要なのは、正しい「義利観」に則って展開すること”とする副題が添えられていますが、「義利観」とは、こうした問題を解決する鍵として準備されているのです。

 ところが、李院長に依ればこの用語の学術的な定説はないというのです。それでは、誰がどのように“正しい「義利観」”を判断するのかと申しますと、それは、‘政府’であるとしています(おそらく政府=中国政府=中国共産党=習近平国家主席では…)。李院長は、一帯一路構想の外部経済効果(中国以外の諸国の利益…)の重要性を説いていますが、それが沿線国に利益を分け与えること、即ち、中国が利益の配分権を握る事であれば、これぞ、まさに配分を主たる国家機能とする共産主義的体制に他なりません。

 以上に述べたように、李院長の論考は、一帯一路構想の成否と正当性を、‘正しい「義利観」’という概念を持ち出した時点で、自らの正体を暴露してしまった感があります。詭弁に満ちた一帯一路擁護論は、結局は、国際社会や沿線諸国の懸念を払拭するどころか、むしろ、中国の飽くなき野望に対する警戒心を高めることとなるのではないでしょうか。(おわり)

(連載1)中国による一帯一路構想擁護論の詭弁  ツリー表示
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-17 10:30  
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 最近、頓に一帯一路構想に対する風当たりが強くなったためか、中国は、同構想の擁護に躍起になっているようです。5月7日付け日経ビジネスのオンライン版で「一帯一路は中国が世界に提供する公共財だ」と題する中国社会科学院アジア太平洋・グローバル戦略研究院院長である李向陽氏の論考が掲載されておりました。

 中国としては、学術的な立場からの擁護論であれば、国際社会からの批判をスマート、かつ、知的な高みから躱せると考えたのでしょう。しかしながら、この一文、読めば読むほど、その詭弁ぶりに唖然とさせられます。読者を迷路に誘い込んで自らが設けた出口からしか出られないようにする書き方は、中国の御用学者に共通した特徴です。

 さて、李院長によれば、国際社会に拡がっている「中国版マーシャル・プラン」、「新植民地主義」、「新時代の朝貢システム」といった批判的見解の多くは誤解であり、一帯一路構想とは、(1)開放性(特に開発途上国が参加…)(2)インフラ整備による相互連結(3)多元的協力メカニズム(相手国によって協力目的を変える…)(4)中核理念としての「義利観」、(5)運命共同体を特徴とする発展主導型の地域経済協力メカニズムだそうです。しかしながら、(2)のインフラ整備については、軍事的目的であれ、政治的目的であれ、一先ずは実態と一致しているとしても、(1)については中国のみを起点とし、かつ、先進国を暗に排除している点で閉鎖的ですし、中国市場の閉鎖性は米中貿易戦争の経緯からも明らかです。また、(3)に関しても、相手国によって協力分野を変えるのは凡そ全ての諸国に見られる経済戦略ですので、特に新奇性はありません。(4)と(5)に至っては、実質的に、中国による政治的介入を意味することにおいて、一帯一路警戒論をむしろ裏付けているのです。

 ここで、李院長は、中国の経済外交の変遷に話を転じています。同氏は、一帯一路構想の発端が、自国内における東・南部沿岸地域と中・西部内陸地域との開放レベルの差に基づく後者の経済成長の遅れであったと説明し、同構想は、国内問題の解決のために発案されたと述べています。いわば沿線国の利益は二の次であったわけですが、この自国中心主義を解消すべく強調されたのが、2013年に中国指導部が開催した周辺外交活動座談会において習近平国家主席によって提示された周辺外交戦略の理念、「親・誠・恵・容」です(李院長は習主席に阿り、その功績として讃えたかったのでは…)。そして、これらの理念を実現するためにこそ、“新しいプラットフォーム”の構築が必要であると説明しているのです。理念を後付けするこの逆立ちした論理展開には、たとえ“中国の、中国による、中国のための構想”であっても、その理念が沿線国に受け入れられれば歓迎されるはず、とする傲慢な意識が窺えます。(つづく)

(連載2)内部告発者に冷酷な日本 ← (連載1)内部告発者に冷酷な日本  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-15 11:04 [修正][削除]
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3524/3528
 もちろん、これらの国でも内部告発者が常に安全というわけでなく、告発された企業や役所での「犯人捜し」や嫌がらせはあります。だからこそ、内部告発者が不当な扱いを受けた場合に頼るべき窓口を設置したり、その場合の手順を簡便化したりすることは、法律を文面だけに終わらせない意思を感じさせるものといえます。欧米諸国だけでなく、韓国や中国でも内部告発の制度は急速に発展しつつあります。このうち韓国では、2011年に公益通報者保護法が成立。同法は解雇など内部告発者に不利な扱いを行った企業、官庁に対して、罰金や懲役を含む刑罰を定めています。そのうえ、不利な扱いによって発生した経済的損失(裁判費用などを含む)の補てんも含まれます。一方、中国では2016年に内部告発に関する新たな制度が導入されました。そこには米国と同じく内部告発に報奨金(20~50万元)を出すこととともに、内部告発者の保護の強化も含まれます。共産党の中央規律検査委員会が内部告発の窓口となっており、同委員会はスマートフォン向けアプリも導入して内部告発を受け付けています。また、内部告発者への不利な扱いには、行政処分だけでなく、場合によっては刑事罰も適用されることになっています。

 欧米諸国と比べて、日本を含むアジア諸国には全体的に汚職や不透明な行政が目立ちます。とりわけ中国の場合、汚職がひどいことは広く知られています。また、その汚職対策そのものに権力闘争の色彩があることも確かです。しかし、世界全体で透明性が求められるなか、不正がはびこっているからこそ、これら両国は内部告発の制度化に熱心といえます。内部告発が実効性のある制度として確立されることは、「透明性を確保しようとしている」という、一種の品質証明になります。逆に、これを形式的な法令で済ませていることは、「透明性や説明責任に熱心でない」というラベルを貼られることになりかねません。また、海外から企業が進出してくることも当たり前の現代、内部告発の制度化が立ち遅れた国は、不透明なビジネスを行う企業の吹き溜まりにもなりかねません。それはやはり国家の評判を引き落とすものといえます。その意味で、たとえ現状において不正が目立つとしても、内部告発者の保護には、中韓両国の国家的な意思を見出せます。

 ひるがえって日本では、公益通報者保護法が導入された際、イエ観念や忠孝の美徳を強調する人々の間で、「自分の所属する組織の不都合なことを公にすることは日本に合わない」といった議論がありました。その当時の2003年段階の調査では、年長になるほど、職位があがるほど、「内部告発をする者と一緒に働きたくない」と答える傾向が強いと報告されています。この状況は、あまり大きく変わってないかもしれません。とはいえ、ムラ的な規範を重視するあまり、不正の隠蔽がまかり通ることは、日本社会の劣化を促すだけでなく、日本の対外的イメージを損なうことになります。

 2014年に米国で発覚した日系企業へのリコール問題で、日本国内では海外での内部告発を警戒する声があがりました。2018年3月27日付の日経新聞では、米国における内部告発を日本企業にとっての「新たな脅威」と位置づけています。しかし、「脅威」と呼ぶことは「内部告発イコール悪」というイメージを強めるだけです。内部告発をただ警戒するより、告発されて裁判になっても勝てる、という状態を作ることの方が生産的ではないでしょうか。言い換えれば、「何かあれば内部告発があり得る」という想定のもとに、法に照らして身を律するという当たり前の対応が先決で、それがひいては海外における日本企業や製品に対する信頼回復の早道のはずです。むしろ、内部告発を警戒しながら、法令に従わない慣習を続け、それが内部で声があがった時点で処理できずにスキャンダル化するというサイクルがこのまま続けば、日本という国全体が被る損失は、大企業の社長や官庁の責任者たちが(道義的)責任をとって辞職したくらいで購えるものではありません。だとすれば、内部告発者をむしろ優遇するくらいの制度改革がなければ、不祥事と隠蔽が横行する日本の再生は難しいといえるでしょう。(おわり)

(連載1)内部告発者に冷酷な日本  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-14 14:47  
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3523/3528
 フェイスブックから個人情報が流出し、2016年米国大統領選挙だけでなく、同年の英国のEU離脱を問う国民投票にも影響を及ぼしたとみられる問題は、一人の内部告発者によって明るみになりました。内部告発は企業や組織が不当に「私益」を求めることで「公益」が損なわれる状態を改善するための重要な手段であり、そこに関する関心はこれまでになく高まっています。日本でもこの数年、検査データの改ざん、虚偽報告といった不正や、自衛隊の南スーダン日報の隠蔽、加計学園をめぐる内閣府から文科省への働きかけといった事案は、内部告発によって大きく動きました。筆者が片足を突っ込む大学業界でも、研究資金の不正利用などの内部告発は、珍しくなくなっています。ところが、日本は内部告発をした者が解雇や左遷を余儀なくされ、泣き寝入りを強いられやすい国です。内部告発者を守る制度で日本は、欧米諸国はもちろん近隣の中国や韓国と比べても立ち遅れていると言わざるを得ません。内部告発者を出しにくい制度は、問題を隠蔽したい責任者らには好都合でしょうが、より腐敗しやすい環境を生み、ひいては社会全体を劣化させるものといえます。

 日本では2000年代初頭、大手食品メーカーで補助金詐欺などの問題が相次いで発覚。これらを受けて2004年には公益通報者保護法が成立。これにより企業や役所による不正を、内部で声をあげても改善されない場合、それらの組織の内部の者が上位機関やマスメディアに告発することが法的に認められています。同法は多くの企業が「コンプライアンス(法令順守)」を強調するきっかけとなりました。ところが、同法は形式的には内部告発を認めているものの、実際にはそれを困難なものにし続けています。最大の問題は、内部告発をした労働者を保護する仕組みがないことです。同法第3条、第4条、第5条では、内部告発を理由とした解雇、派遣労働者契約の解除、その他の減給、降格といった不利な扱いを無効と定めています。しかし、内部告発された企業などが「犯人捜し」を行い、報復的な人事を行ったとしても、そこに罰則規定はありません。

 その結果、不正を告発した者が閑職に追いやられたり、離職を迫られたりすることは珍しくありません。ところが、これらに対する異議申し立ての専門窓口もありません。さらに、公益通報者保護法はあくまで現役の労働者を想定したもので、退職後の者は保護の対象にさえなりません。そのため、内部告発によって解雇など不当な扱いを受けた人には、裁判に訴えたり、労働組合を通じて抗議したりするなど、手間、時間、資金といったコストの高い道しか残されていません。勇気を奮って内部告発した者に冷たい法律は、「内部告発をしても割に合わない」と思わせるものです。それは結果的に、不正の隠蔽を促す土壌になってきたといえるでしょう。

 一方、海外に目を向けると、世界で最も内部告発の制度が整った国の一つとして米国があげられます。米国では内部告発に報奨金が出されています。ただし、虚偽の内部告発を行った場合には法的に処罰されます。これは賛否の分かれるところで、米国ではそのインセンティブ効果が強調されますが、ヨーロッパ各国では議論にとどまっています。しかし、報奨金はさて置いたとしても、欧米諸国にほぼ共通するのは、内部告発者の保護を実質的なものにする制度があることです。例えば、1989年に内部通報者保護法が成立した米国では、内部告発者が法的に保護されているだけでなく、官庁、軍、民間企業などに、分野ごとにいくつもの専門窓口があり、例えば労働省のもとには環境破壊、労働者の安全、食品の安全などに関する窓口(Whistleblower protection program)があります。ここでは告発だけでなく内部告発による報復人事に関する報告や異議申し立てもできます。また、英国では1998年に公益開示法が成立。やはり、内部告発をきっかけに不利な扱いを受けた労働者が異議申し立てを行う機関として、雇用裁判所(Employment Tribunal)があります。さらに、ヨーロッパ委員会は4月23日、内部告発者の保護に関する、EU全体での新たな法律を提案。ここでは解雇などの不当な扱いを受けた内部告発者が異議申し立てをできる窓口を設置すること、ここでは内部告発者に不当解雇を証明する責任が求められるのではなく、雇用主側に「不当解雇でないこと」を証明する責任があることなどが定められました。(つづく)

モリカケより深刻な日銀の巨大リスク   
投稿者:中村  仁 (東京都・男性・元全国紙記者・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-13 18:39 [修正][削除]
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3522/3528
 国会は森友、加計学園を巡る攻防で明け暮れ、新聞、テレビは反安倍も親安倍も連日、政権の動揺ぶりを報道するのに熱心です。内閣支持率は急落していますから政権は死に物狂いです。責任をもっぱら官僚に押し付け、首相が「膿を出す」といっていれば、逃げ切れるのか、闇が深くなってきました。そんな最中、黒田日銀総裁が再任されました。経済的視点からみれば、森友や加計問題より、はるかに巨大な難題を日銀は背負っております。安倍政権が退場することになれば、モリカケは終息に向かいます。それに対し、異次元緩和の後始末は何十年かかるか分かりません。つまづけば、日本の経済社会に将来にわたり、巨額の負担を押し付けることになります。

 安倍政権の体質、政と官の関係にメスを入れることは、日本の民主政治にとって重要です。一方、経済問題としてみれば、開校した加計学園は総工費200億円、地元自治体の負担100億円ですし、森友学園は開校不能で倒産状態ですから、金額としてみると、極めて小さな規模の問題です。黒田総裁が再任された際の記者会見(日本経済新聞​、​4月10日)を読み返してみました。大きな発見がありました。「出口(異次元緩和からの転換)は検討する段階でない」といいながらも、「出口」という言葉を5回も使っているのです。これまでは、素気なく「検討していない」という応答でした。さらに政府と日銀との「共同声明」(2013年1月)に3回も言及しています。「共同声明」の骨格は、「デフレからの早期脱却の実現、消費者物価の上昇率の2%目標、その早期実現」です。黒田氏が就任(同年3月)直後、「2年で2%を達成する」と言い切ったのは、この「共同声明」を受けてのことです。「出口」や「共同声明」に何度も言及したのは、総裁は本心では「許されるなら出口の準備に取り掛かりたい」、「2%の実現は難しく、達成時期を6回も先送りしている。そろそろその旗を降ろしたい」と思っているからだと、私は推測します。それを黒田氏の一存ではできない構図になっているのに違いありません。安倍首相が「分かった」といわない、いえないからです。

 軽部謙介氏の近著『官僚たちのアベノミクス』によると、安倍氏が首相に復帰することになる2012年暮れの総選挙で、安倍氏は日銀批判を連呼し、「デフレ脱却の目標達成のために、金融を無制限に緩和していく。日銀による国債買い入れを無制限に行う」ことを公約に掲げました。当選後、首相は「2%を早期に実現する。全面的に日銀が責任を負う。政府が変な責任を負わないように工夫してほしい。日銀に達成時期を明示させて、逃げられないようにしてくれ」との指示を官邸の側近に出したとのことです。こうした基本路線が敷かれたところに、黒田氏が総裁を要請され、黒田氏も当初は実現できると思っていたのでしょう。次第にその困難さに気づいていったはずです。問題は、持論にしがみつく安倍首相が在任している限り、「異次元緩和からの出口を考える。2%目標は無理だから、その旗を降ろす」ことは、受け入れられないです。2%目標をいつまでも看板に掲げ、副作用の大きな異次元緩和を続けていけば、取り返しのつかない状況が一段と深刻化していくのです。

 政府税制調査会会長を務めたことのある石弘光・元一橋大学長は黒田氏と親交がありました。ガン闘病中の身で、月刊文芸春秋に「アベノミクスは早く店じまいせよ」という手記を書きました。「黒田氏は外堀を埋められ、身を引くに引けなくなっているのではないか」と、黒田氏に同情しています。「過去の首相は政治生命と引き換えに、消費税の導入や税率アップをしてきたものだ」とも指摘します。モリカケ問題も、日本の将来に禍根を残す異次元緩和も、その発端は安倍政権、その官邸主導にあると思います。長期間、大規模な金融財政支援を受けている限り、既存の産業は現状に満足し、次代を作る新しい産業、企業が生まれてきません。その一方で、日銀が購入した国債や株が巨額になり、市場機能はマヒし、財政運営は緊張感をなくし、財政赤字が積みあがる。ここからの大転換は政権交代がない限り難しいでしょう。

(連載4)尖閣諸島を守るための基本方策 ← (連載3)尖閣諸島を守るための基本方策  ツリー表示
投稿者:佐藤 有一 (静岡県・男性・軍事評論家・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-10 11:39 [修正][削除]
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3521/3528
 (6)世論啓発::2017年の内閣府による世論調査によれば、「尖閣諸島に関心がある」とする人の割合は62.2%でした、2014年に実施された同じ世論調査では74.5%でしたので、3年間で12.3%減少したことになります。この間に尖閣諸島をめぐる争いが緩和した訳ではないので、この「尖閣諸島に関心がある」とする人が減少したことは、理解できないことです。同じ領土の争いである「北方領土」に関する、2013年の内閣府の世論調査では、「北方領土問題の内容を知っている」とする人の割合は81.5%でした。これと比較して「尖閣諸島に関心がある」とする人が少ない原因は、次のように分析することができます。「北方領土」は、もともと日本人が住んでいた土地を取り返すという攻めの行動であり、主体となる政治団体も多く、広報される機会も多いのに対して、「尖閣諸島」は日本の領土を奪おうとする中国に対する守りの行動であり、支援する政治団体も少なく、広報されることも少ないということです。

 尖閣諸島に関する国民の理解と支持は、世論調査の結果に現れているように、必ずしも高いものではありません。従って、さらなる世論啓発が必要であり、その内容を工夫すべきです。尖閣諸島に接近した中国公船のニュースを映像を含めて広報することが、国民が尖閣諸島を知る基本です。インターネットで、このニュースを時系列で漏れなく見ることができるサイトを構築すべきです。海上保安庁の巡視船の活躍を連続ドラマ仕立てで制作して、テレビ放映するのも面白いかもしれません。教育分野での啓発も望まれます。特に中学校の社会科で、領土と国の問題、国の安全保障についての教育を充実すべきです。2017年に行われた日本と中国における同時世論調査で、「中国に対して良くない印象を持っている」とする人の割合は88.3%でした。これは私達の日常意識からすると、意外に高いと感じる人が多いと思います。ところが、2006年の同じ世論調査では、この割合は36.4%でした。この年以降、その比率がほぼ連続して上昇し、現在に至っているのです。2017年の世論調査での理由の内訳は、56.7%が「尖閣諸島周辺の侵犯」で、39.8%が「共産党の一党支配という政治体制」でした。この両者とも変化させることは簡単ではありません。それでも、少しでも前に進めることができないでしょうか。日本国内に「中国に対して良くない印象を持つ」ように仕向ける作意が存在していなければよいのですが。というのも「中国に対して良くない印象を持つ」ことが、尖閣諸島をめぐる争いを解決するためには、何の役にも立たないと思うからです。これは中国側においても言えることです。互いの国民が良くない印象を抱いていては、尖閣諸島をめぐる争いを解決するための交渉は進展するはずがありません。

 (7)政治主導::「戦争は政治の延長である」とする考え方は、よく知られた戦略思想です。尖閣諸島をめぐる争いにも、この命題は当てはまると思います。従って、尖閣諸島を守るための行動は、政治が主導しなければならないのです。政治が主導することによって、日本の安全保障に必要な防衛予算を重視した政策が可能になります。わが国の国家予算の総額は約100兆円です。この内の約5兆円が防衛予算で、ここ数年間は増加傾向にありますが、まだまだ充分とは言えません。日本の安全保障のための防衛予算は、他の予算とは別枠で考えるべきです。防衛予算が不足した状態が継続して日本の安全保障が損なわれると、国の存亡にかかわる事態になりかねません。それに対処するためには、その何倍もの莫大な費用が必要になるでしょう。また、政治主導で必要な防衛予算を確保することが、日本政府による「尖閣諸島を守る」という意思を、中国さらには国際社会に示すことにもなるのです。

 尖閣諸島をめぐる争いでは、日本と中国が政治主導で動かないと、意に反した衝突が起こる恐れがあります。それぞれの国内には利害が相反する組織・団体が存在し、政治交渉を進める障害になるのが普通です。その国内の障害を突き破って政治交渉を進めることができるのが、政治主導です。また、政治交渉で双方の軍事行動を規制することを決めても、どちらかの軍隊が政治主導で動かず、軍部の事情だけで行動すれば、その政治交渉の結果は簡単に覆されてしまいます。日本と中国の外交関係が悪化した状況にあっても、尖閣諸島をめぐる意図せざる戦争を防止するための方法について考えてみました。これらは政治主導によって実現できる筈です。最初は「軍事ホットラインの構築」です。偶発的な事故や判断ミスが軍事衝突に至らないように回避するための連絡メカニズムです。次が「戦力の引き離し」です。尖閣諸島の周囲に、互いに軍事力を配置しない領域を設け、日本と中国の軍隊はその外側でのみ行動するように協定するものです。戦力が引き離された海域では、警察力のみで対処することになります。最後が「自衛隊と中国軍の共同訓練」です。防災訓練・テロ対策訓練などの実現しやすい共同訓練を実施して、互いの理解を深めます。尖閣諸島をめぐって、日本と中国の相互不信が原因で戦争になることは避けていかなければなりません。(おわり)

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投稿者:佐藤 有一 (静岡県・男性・軍事評論家・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-09 11:29  
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 (4)領空警戒::尖閣諸島周辺の日本領空に接近した中国軍の航空機に対して、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進する事態が繰り返されています。現在の自衛隊では、緊急発進した戦闘機は領空侵犯した航空機に対して、警告することで領域外への退去を促すだけで、撃墜を含む強制処置を行うことはしていません。これは、領空侵犯に対する処置が警察権での対応に制限されているためです。強制的な対処は、正当防衛か緊急避難の場合にしかできないのです。しかしながら、国際法では警告や威嚇射撃を行っても領空から退去しなければ、撃墜することが認められています。自衛隊法84条(領空侵犯に対する処置)でも、領空侵犯した外国の航空機に対して、これを着陸させ又は領空から退去させるための必要な処置を講じることができると定められています。ところが日本政府は国会において、84条の解釈として「平時の警察活動である」と答弁しているために、強制処置が実施できなくなっているのです。従って、領空侵犯した外国の航空機に対して強制的な行動ができるようにするためには、自衛隊法84条の解釈を、撃墜に至るまでの強制処置を行えるように変更すればよいのです。穏健な国際関係を願って自らに制約を課している状況を、逆に利用して高圧的な対応をしてくる相手に対しては、その制約を取り外すことを考えるのは当然のことです。

 尖閣諸島周辺の領空侵犯に対処する航空自衛隊の飛行隊(F-15J戦闘機約20機)は、2個飛行隊が那覇基地に配備されています。中国軍機に対する緊急発進の回数が増加することにより、航空自衛隊が同居している那覇空港の民間機の離発着に支障が出てきています。これを解消するため、1個飛行隊を石垣島空港に移駐させ、必要な施設を整えて石垣島基地とすることが計画されているようです。もちろん、沖縄県と石垣市の同意がなければ実現し得ないと思います。政府は沖縄県と石垣市の負担軽減のために最大限の努力をしなければなりません。石垣島基地が実現して、2箇所の航空基地で領空侵犯に対処できるようになれば、那覇空港の負担が軽減され、基地防衛の面からも強化されることになります。今後さらなる飛行隊の増設が必要になった時にも対応できるようになるでしょう。石垣島から尖閣諸島までの距離は、沖縄本島からの半分以下ですから、より迅速な領空侵犯対処が可能になります。

 (5)領土防衛::尖閣諸島をめぐる争いが緊迫化しています。いつ武力衝突が起きても不思議ではない状態です。「グレーゾーン事態」がきっかけになるのか、偶発的な衝突からなのか、あるいは意図的な侵攻になるのかはわかりませんが、日本と中国の間で尖閣諸島の周辺で軍事衝突が起こることを想定して、対応するための準備はしておくべきです。日本として最優先で事前に準備しておくべきことは、航空自衛隊の航空基地を完璧に防御するための地対空ミサイルの配備です。これは、どのような作戦でも航空優勢が大前提になるからです。中国が軍事行動を開始する時には、航空優勢を確保するために、最初に航空自衛隊の航空基地を攻撃してくるはずです。巡航ミサイルや弾道ミサイルなどが使用されるでしょう。これを地対空ミサイルで迎撃して、航空優勢を確保するためのF-15J戦闘機を守るのです。また、空母型護衛艦に垂直離着陸ができるF-35B戦闘機を艦載することも、航空自衛隊の航空基地を補完して航空優勢を確保するために有効と思います。航空優勢が確保されていない状況では、陸上自衛隊の水陸機動団による尖閣諸島への上陸作戦も、海上自衛隊の護衛艦による海上優勢のための作戦も、中国軍機による航空攻撃に阻まれて遂行することはできないのです。

 尖閣諸島周辺の海域に航空優勢が確保されていれば、海上自衛隊の護衛艦を出動させて、中国軍の艦艇を排除することになります。この時、同じ海域に海上自衛隊の潜水艦を潜航配備します。この潜水艦が中国軍に与える脅威は、護衛艦よりもはるかに大きいと考えられます。潜水艦が潜航しているだけで、その海域に敵艦は侵入できなくなることはよく知られています。海上自衛隊の潜水艦の優れた隠密性と中国海軍の対潜能力の低さから判断して、尖閣諸島周辺海域における日本の潜水艦の優位性は確保されると思います。このような状況を「海中優勢」と呼んで、中国に対する抑止力としてアピールすることはできないでしょうか。陸上自衛隊に水陸機動団が新しく編成されて、よく話題に昇ります。占拠された尖閣諸島の奪還に活躍することでしょうが、運用上でひとつ注意すべきことがあります。それは「グレーゾーン事態」がエスカレートして自衛隊が対処するようになった場合に、偽装漁民などへの銃砲撃やミサイル攻撃が過剰な武器使用とみなされる恐れがあることです。このような場合に限り、水陸機動団の行動に警察権に類似した制約を課さざるを得ません。同じように、上陸した中国の正規軍に対しても、戦闘機の攻撃によって撃滅することが、政治的な配慮からできない時があると考えておくべきです。この場合は、水陸機動団が出動することになりますが、この水陸機動団の攻撃レベルは、相手の戦力に対応して慎重に決められなければなりません。(つづく)

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投稿者:佐藤 有一 (静岡県・男性・軍事評論家・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-08 11:15  
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 (2)外交戦略::中国の海警局の公船による尖閣諸島周辺の接続水域での航行、領海への侵入が繰り返されています。このような力まかせの行動を繰り返せば、「中国は力まかせで強権的な国である」という認識が、日本国民に根付いていくことでしょう。これが日中関係に好い影響を及ぼすことはあり得ません。外交は国民世論の制約を受けることを忘れてはなりません。日本は民主主義国家であり、国民の意思は世論として形成され、日本の国家としての強固な意志となって外交に反映されていくのです。しかしながら、尖閣諸島に関する争いがあるにしても、日本と中国の間には、貿易や投資の拡大による緊密な経済関係があり、訪日する中国人の数も増加しています。このような経済的な交流は、日本と中国の外交関係を改善させるきっかけになるでしょう。また日本政府が最近、中国の「一帯一路」構想と連携する姿勢を示していることも、中国との信頼関係構築に役立つと言えます。日本と中国の官・民を含めた各分野の交流によって、日中関係の改善と発展を進めることができると思います。それが日本と中国の領土の争いを部分的にでも緩和させる可能性はあります。

 東南アジアの海域においては、中国と領土問題を抱えている国々との友好的な外交関係を築くことが望まれます。これらの国々に、日本の海上保安庁で使用していた巡視船や航空機を供与して、それを運用するための教育・訓練を提供することが、日本とそれぞれの国の海上保安機関との協力・連携関係を強化することになります。また、海上保安庁の巡視船を派遣して、これらの国の海上保安機関と共同訓練を行い、海上警備能力の向上を支援することもできます。これは「巡視船外交」と呼ばれているようですが、中国に対抗した外交を前向きに進めようとしている日本の外交姿勢を、うまく表現しています。「日米安全保障条約第5条」は米国による日本の防衛義務を定めています。日本政府は機会がある度に、米国の大統領や国務長官に尖閣諸島が「日米安全保障条約第5条」の適用対象となることの確認を求めてきました。このような日本政府の姿勢は米国に頼りすぎと思いますが、それが中国の尖閣諸島への侵攻を抑止することに役立っていることは確かでしょう。しかし懸念されることは、「日米安全保障条約第5条」の適用範囲は「日本国の施政下にある領域」となっていることです。従って、中国が尖閣諸島に侵攻して占領してしまうと、日本の施政下にある状態でなくなるので「日米安全保障条約第5条」は適用されなくなるのかもしれません。そのような事態にならないように、何としても中国の侵攻から尖閣諸島を守らなければなりません。いずれにしても、日米同盟を強固にしていくことが、日本にとって死活的に重要であることは間違いないので、それが日本の外交戦略の最優先事項になるのです。

 (3)海上保安::中国の公船による尖閣諸島周辺の接続水域・領海への侵入には、海上保安庁が石垣島の基地に「尖閣領海警備専従体制」を整備して対処しています。今後も引き続き、中国側の攻勢に対応していくしかありません。漁船に偽装した中国船が、武装して尖閣諸島に上陸した時に、海上保安庁では能力的に対応できない状況いわゆる「グレーゾーン事態」になったならば、自衛隊が出動できるように法改正しようとする動きがあります。この場合出動した自衛隊の行動は、警察権に基づいた行動に制約されるとのことです。しかし、自衛隊の行動を警察権限のみに制限したとしても、自衛隊の出動そのものが、中国に人民解放軍を投入する口実を与えることになります。大砲とミサイルを搭載した自衛隊の護衛艦が、警察権のみを行使すると宣言しても、中国がそれを素直に受け入れるはずがありません。中国は即座に人民解放軍を投入してくるのは明らかです。従って、尖閣諸島における「グレーゾーン事態」への対応は、基本的に海上保安庁のみで実施すべきです。

 「グレーゾーン事態」に対処できる能力を持った特殊警備隊を乗船させた巡視船を、石垣島に配備することを提案します。特殊警備隊は海上テロ、海上犯罪に対処する目的で編成された、海上保安庁における最精鋭部隊です。この巡視船は速力30ノット以上の高速機動ができる船体とし、大口径の機関砲、偵察器材、上陸用ゴムボート、監視用無人ヘリコプターを搭載します。偽装漁民などが乗る中国船が尖閣諸島に近づく状況になったならば、ただちに出動させます。石垣島から尖閣諸島への所要時間は3時間ほどてす。偽装漁民などが尖閣諸島に上陸したならば、特殊警備隊はただちに偵察活動を行い、特殊警備隊で対処が可能であれば、すみやかに国内法に基ずいた法執行を行います。対処が無理であれば、それを政府の対策本部に報告します。対策本部は政治判断をして、海上警備行動あるいは防衛出動を発令して、自衛隊を出動させることになります。その場合は、中国は人民解放軍を投入してくると覚悟しなければなりません。(つづく)

朝鮮戦争・核ミサイル問題分離論のメリット   
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-07 18:27 [修正][削除]
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 米朝首脳会談については、南北首脳会談の勢いから、今月中の開催もあり得る様相を呈してきました。トランプ大統領も積極的な姿勢を示しており、開催地の候補に板門店の名も挙げています。こうした中、先の南北首脳会談における両国間の主要議題が、朝鮮戦争の終結と朝鮮半島の平和体制の構築に置かれていたことから、国際社会における最大の関心事である核・ミサイル問題の解決は、米朝首脳会談に委ねられているとする見解も見受けられるようになりました。いわば、朝鮮戦争問題と核・ミサイル問題の分離論であり、両者を別々の問題として解決しようとする立場です。

 南北首脳会談が実現した背景には、中国を後ろ盾とした南北両国が、敢えてこの時期に平和を演出することで米軍による軍事制裁を回避する意図があったとも指摘されております。中国並びに南北両国としては、恰も一次方程式を二次方程式にアップするかの如く、朝鮮戦争の終結問題と核・ミサイル問題を混合して事態を複雑化することで、後者の問題に対する一種の目くらましを意図したものとも推測されるのです。乃ち、朝鮮戦争の終結を前面に打ち出し、“平和”を強調すれば、アメリカも、核・ミサイル問題において妥協をせざるを得ず、軍事制裁には踏み切りづらくなると読んだのでしょう。イランの核問題とは、この点、決定的な違いがあります。8世紀、唐の時代、玄宗皇帝が囲碁で負けそうになった際に、傍に控えて勝負の行方を見ていた楊貴妃が、機転を利かせて抱いていた子犬を碁盤の上に放って碁盤の石をめちゃくちゃにし、勝敗を分からなくしてしまったとする故事があります。中国大陸や朝鮮半島では、古来、窮地に陥った際に意図的に混乱を起こすという攪乱戦法があるのです。

 となりますと、このままでは南北両国、並びに、マスメディアの共同演出に乗せられ、アメリカが妥協の余地を見せるや北朝鮮側は要求条件を高くし、リビア式の“完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)”から遠のくシナリオも予測されます。そこで、こうした展開を避けるためには、むしろ、南北両国が、米軍の軍事制裁を怖れるばかりに核・ミサイル問題を“付けたし”程度に扱った点を逆手にとり、米朝首脳会談の席では、朝鮮戦争の終結問題を抜きにした核・ミサイル問題の解決に特化する方法も考えられます。

 核・ミサイル問題のみを取り出せば、そこには、北朝鮮による違法な核開発という現実が浮かび上がります。両問題を切り離せば、アメリカは、朝鮮戦争終結問題を考慮することなく、国連憲章、核兵器不拡散条約(NPT)、並びに、安保理制裁決議に対する違反を理由とした軍事制裁を北朝鮮に科すことができるのです。北朝鮮の金正恩委員長については、マキャベリズムの申し子として国際規範からの逸脱を容認し、むしろ、交渉術の成熟さとして評価する見解も聞かれますが、マキャベリが生きたのは今から凡そ500年も前の時代です。無法国家と化した北朝鮮を国際法秩序に従わせることこそ、現代を生きる人類の課題なのではないでしょうか。

(連載1)尖閣諸島を守るための基本方策  ツリー表示
投稿者:佐藤 有一 (静岡県・男性・軍事評論家・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-05-07 10:16  
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3517/3528
 沖縄本島の西410kmの位置に尖閣諸島があります。5っの無人島と3っの岩礁から構成されている日本の領土で、日本が実行支配しています。尖閣諸島は日本の領土ですから日本が実行支配しているのは当然ですが、あえてそれを明言しなければならないのは、中国と台湾が尖閣諸島の領有権を主張しているからです。2010年に中国漁船による海上保安庁の巡視船への衝突事件とその後の中国国内の日本企業に対する破壊行動やレアアース資源の輸出禁止などの不当な処置が行われました。そして現在に至るまで、中国海警局の公船による尖閣諸島周辺の接続水域での航行、領海への侵入が繰り返されています。これは尖閣諸島の領有権を主張するために、実行支配しているという実績を無理矢理つくろうとする行動と見なすことができます。しかもその背後には中国海軍の軍艦が控えています。尖閣諸島付近の日本領空に中国軍の航空機が接近したために、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進する事態も頻繁に発生しています。また、これらの中国軍の行動が中国の流動的な国内情勢によって変化し、尖閣諸島への侵攻にエスカレートすることも懸念されるところです。このような中国の挑発的な行動に対応するためには、いくつかの分野に分けた議論が必要と思われます。そこで、尖閣諸島を守るための基本的な方策を分野別にまとめてみましたので、ここに提言いたします。

 (1)歴史認識::尖閣諸島が日本の領土であるという証拠は歴史に刻まれています。領土に関する歴史認識は、どの国でも自国に有利な解釈がされていることでしょう。尖閣諸島に関する歴史認識も、日本と同様に中国にも自国の立場からの歴史認識があっても不思議ではありません。そのことは認めて、互いの歴史認識を議論していく中で、日本の歴史認識の正当性を主張していかなければなりません。1895年1月に日本政府は尖閣諸島を正式に日本の領土に編入しました。これは国際法上の領有権を取得することを認めた「先占の要件」に合致するものです。その後、日本政府の許可により、民間人が現地で水産事業を営みました。これは尖閣諸島に対する有効支配を示すものです。1968年に国連の調査報告で、尖閣諸島の周辺に石油埋蔵の可能性があると指摘されると、1971年に中国と台湾は尖閣諸島の領有権を主張しはじめました。1971年までは中国と台湾は尖閣諸島の領有権を主張していなかったのですから、それまでは日本の領土であることを認めていたことになります。このような中国と台湾の領有権の主張は、石油資源の取得を目的とした身勝手な主張であることは明白であり、日本としては到底認めることはできません。

 1972年5月に米国との間で沖縄返還協定が発効、尖閣諸島も含めて沖縄が日本に返還されました。1972年7月の日中国交正常化交渉で、中国側より「尖閣諸島領土の棚上げ」が提案されました。日本側は特に反論はしませんでしたが、正式に合意した訳ではないので、それについて記述した外交文書は存在していません。ところが、1992年2月に中国は尖閣諸島を中国領土とする国内法を勝手に制定しました。それ以降、尖閣諸島周辺の日本の領海に、中国の公船を繰返し侵入させるなど、中国自らが提案した「棚上げ」を否定するような行動をしてきました。この時点で、中国からの「棚上げ」提案は消滅したと見做さざるを得ません。2012年9月に日本政府は尖閣諸島を国有化しました。個人が所有していた島を日本政府が購入したものです。尖閣諸島は日本の領土ですから、これを国有化することに何の不都合もありません。中国は、この日本による国有化が「棚上げ」の一方的な破棄と非難しましたが、すでに中国側から「棚上げ」を否定しているのですから、矛盾した主張と言わざるを得ません。

 このように、中国は日本の立場からは受け入れることができない歴史認識を根拠にして、尖閣諸島の領有権を主張しています。これからも、中国側からの歴史認識を有利に展開しようとして新しい歴史認識が主張されることがあるでしょうが、日本としてはその都度それに反論していかなければなりません。しかしながら日本国内でも、尖閣諸島の領有権については様々な意見があるようです。もし、貴方が日本側の歴史認識に疑問を感じたとすれば、それを指摘すると同時に、それを修正あるいは代替するための対案を提示すべきです。それをせずに批判のみに終始すれば、中国側に利用されるだけの存在になってしまいます。あらゆる機会をとらえて、国際社会に日本としての歴史認識が正しいことを発信し続けることが肝要です。(つづく)

(連載2)義を以って生きる真の大国を望む ← (連載1)義を以って生きる真の大国を望む  ツリー表示
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-27 10:54 [修正][削除]
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3516/3528
 この対中批判の詳細を更に見ると、「一帯一路は中国本土政府による無制限の補助金を受け取った中国本土企業だけが利益を独占するだけで、欧州企業は同等の機会を得られない事業である。これはEUの自由貿易プロセスを損ね、欧州を束縛するものである。一帯一路プロジェクトはEU28カ国に分裂の火種をまいている。」との懸念を示すものとなっている。そして、こうした大使らの発言は、今年7月のEU・中国本土首脳会合を控え、EUレベルで取りまとめられたもので、EU加盟国ではハンガリーの大使だけが加わらなかったとされている。尚、ハンガリーがこの署名を拒否したのは、東欧の鉄道、高速鉄道、発電所などの建設に大規模投資を行っている中国本土の影響力を示すものであると見られており、こうしたことを見ても、筆者が上述したように、「中国本土の影響力を背景にして、中国本土は力技で相手国をねじ伏せ、軍門に下るようにしている。」と言う様子が示されたものであると見ている。

 更に、インフラ整備の遅れで中国本土による投資を求める一部EU国家が中国本土の人権問題、南シナ海の領有権問題でEUの決議案に加わることを拒むなど、欧州団結にもひびが生じていることなども見られており、事態は深刻である中での連名抗議となったものと筆者は見る。

 そして、EUの大使らは、中国本土が自国を開放せず、相手国に開放を強要する中国本土のダブルスタンダードについても言及しており、「欧州の政治家は中国本土訪問するために『一帯一路』に加入するという署名に応じるよう、中国本土側の圧力を受けている。こうした圧力は中国本土が悪用する可能性が高い力のアンバランスに繋がる。中国本土は知的財産権保護の分野で世界貿易機関(WTO)のルールの曖昧さを悪用し、ルールに違反しても全くお構いなしである。交渉のテーブルでそうした問題を取り上げれば、同意するような姿勢を見せるが、現実は何も変わっていない。中国本土は、グローバル化を自国の利益に合わせて変形している。一帯一路は中国本土国内の生産過剰を解消し、新たな輸出市場を創出し、原材料を安定的に確保しようという中国本土の目標を追求する手段である。」と筆者が上述した中国本土のダブルスタンダードを厳しく批判しており、筆者としては、やっとここに来て、「義のある対中批判が行われ始めた。」と溜飲を下げている。

 尚、英国の影響もあり、アジアインフラ投資銀行(AIIB)には加盟したインドも最近、一帯一路への参加を求める中国本土側の提案を拒否しているが、インドは、北京で開かれた第5回インド・中国経済戦略対話で、「現在一帯一路の代表的事業として進む中国本土・パキスタン経済回廊の建設は、インドとパキスタンの領土紛争地域であるカシミール地方を通過するため、インドの主権を侵害する。」とし、一帯一路の反対の意向を表明しているものと見られる。中国本土は今も尚、「力技で世界を席巻していくことに自信を示している。」と見られるが、こうした、義のない強者の論理は断固阻止しなくてはならず、そうした意味で筆者は、「世界各国は、世界各国から資金を集め、その資金をこの一帯一路構想に流そうとしている中国本土の政策を具現化する可能性の高いAIIBに対しても、改めて批判をし、加盟の見直しを図るべきである。」とも考えている。世界に影響力のある米国や中国本土には、「真の大国」として義を以て生きる品格高き国家となって戴きたいと筆者は考えている。(おわり)

(連載1)義を以って生きる真の大国を望む  ツリー表示
投稿者:真田 幸光 (埼玉県・男性・大学教員・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-26 17:43  
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3515/3528
 世界の中核的な国家となる国の指導者には、義を大切にし、真理を求めて、人間社会はよくリードしていかなくてはならない。然るに、現行の世界の大国たる米国と中国本土の国家動向を見ると、こうした点に疑問を感ぜざるを得ない。以下に、米国、そして中国本土の、利を優先し大国の論理を世界に押し付けている様をご報告したい。

 先ずは、米国に関してである。米国は世界の軍事支出の4割弱を占め、名実共に軍事大国である。また、トランプ大統領の掲げる米国国内の雇用を守りつつ、米国経済を発展する上からは、「宇宙・航空産業とその延長線上にある防衛産業の生産と共に販売を拡大していくことは政策効果が高い。」と考えられているものと思われる。こうした中、トランプ大統領は、米国製の武器を海外に売却する手続きを簡素化することを定めた大統領令に署名した。海外への武器輸出を促進し、国内雇用の創出や貿易赤字の削減につなげる狙いがあると見られている。こうしたことを露骨に進める米国は、「死の商人」と言われても仕方なく、また、例えば、米国はよく、「北朝鮮は、核開発をし、核兵器も含む武器輸出をして外貨を稼ぎ、世界の脅威となっている。」との論調を掲げるが、トランプ政権がこうした武器輸出拡大政策を取れば、北朝鮮を始め、世界の武器生産、販売を念頭に置く国家に対する示しがつかなくなり、結果として、それらの国に、米国自身が譲歩せざるを得なくなるのではないだろうか。トランプ大統領の言動には、義がなく、利に捉われるものが多く、一貫性もないと筆者は見ており、世界は更に混沌を深める危険性を感じる。

 次に中国本土に関してである。筆者は中国本土が展開する、「一帯一路構想とAIIBの運営」はセット戦略であると見ており、これが、中国本土の経済外交戦略の下で粛々と展開されていくと、経済発展を優先したい新興国諸国を中心とする各国はこうした中国本土の戦略にはまり、更に、「中国本土の掌中に収まっていく。」と見ている。しかし、筆者は、こうした中国本土の戦略は、都合の良い部分では、「共産主義、社会主義の標準を掲げ、中国本土の国益を守りつつ。」しかし、一方で、「国際化の進む世界に対しては、自らの利益を鑑み、現行の自由主義体制における世界標準を巧みに利用する。」と言う、所謂、「ダブルスタンダードを利用した発展を続けようとしている。」と見られ、アンフェアであり、「中国本土は、利を優先、義のない国」となっていると筆者は見ている。しかし、こうした批判に対し、中国本土は、「その影響力の強さを背景に、力技で世界を押し切り、中国本土の世界的影響力の強さを既成事実化している。」とも見られ、傲慢にすら映る。

 さて、こうした中、中国本土に駐在する欧州連合(EU)28カ国の大使のうち27人が連名で、習近平政権が提唱する現代版シルクロード“一帯一路”構想を強く批判すると言う現象が見られ、筆者としては、やっと、中国本土の影響力に対する対抗姿勢が表面的に見られたと見ている。このように、外国大使が連名で駐在国の政策を批判するのは極めて異例であり、それだけ、中国本土の影響力拡大に対して危惧している。しかし、一国、あるいは数カ国でこれを批判しても中国本土の影響力に飲まれ、むしろ、批判した後は中国本土に阻害される危険性もあることから、27カ国連名と言う、「集団批判」となったものと思われる。(つづく)

太平洋を包囲し始めた中国   
投稿者:倉西 雅子 (神奈川県・女性・政治学者・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-25 10:26 [修正][削除]
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3514/3528
 北朝鮮危機やシリア問題に国際社会の関心が集中している間、中国による南シナ海の軍事拠点化は完了間近の段階に達しているそうです。一帯一路構想を国家戦略として掲げる中国の勢いは止まらず、南太平洋のバヌアツとの間で軍事拠点建設に関する協議が開始されたとも報じられています。世界地図を眺めますと、中国の海洋進出の戦略は一目瞭然です。南シナ海に歩を進めた中国が、次なる目標として、太平洋へと向かう東方向に進路を定めたことは疑い得ません。しかも、バヌアツは南太平洋に位置するのみならず、軍事同盟関係にあるアメリカとオーストラリアとの連携を分断する地政学上の要所でもあります。米豪関係に楔を打ち込むことができれば、全世界的な海洋支配を目論む中国にとりましては(アフリカでは既にジブチに軍事拠点を確保…)、これ程好都合な協定はないのです。

 1980年7月30日に英仏共同統治から独立したバヌアツは、現在、人口24万人余りに過ぎず、GDP(PPP)も10億ドルで世界ランキングにあっては170位台で推移しています。潤沢なチャイナ・マネーをもってすれば、同国が易々と“籠絡”されることはあり得る事態であり、実際に、中国から多額のインフラ開発資金が流入しているそうです。そして、この一件から、中国は、国際社会に対して以下のような変化、否、脅威をもたらしているように思えます。

 それは、第1に、中国は、最早、太平洋への進出に際して、アメリカの承認を求めていないと言う点です。かつて、中国の習近平国家主席は、アメリカのオバマ前大統領に対して太平洋米中二分論を持ちかけました。太平洋には、中国を受け入れるに十分な広さがある、と…。しかしながら、今般の中国の行動を見ますと、バヌアツとの協定締結に先立って米中合意を模索した形跡は現状ではみられず、実力主義に徹しているのです。乃ち、共産革命よろしく、自らの目標達成には実行あるのみであり、“中国の夢”を力でもぎ取る意欲を見せつけているのです。第2の点は、中国の海洋進出の基本的な戦略は、拠点獲得型であることです。バヌアツの対中接近は、旧宗主国であるイギリスやフランスの影響は薄れ、アメリカの意向さえ考慮することなく、同国が独自の対外政策を展開している現状を示しています。このことは、全世界を見渡して要所となりえる国に拠点を設けることで海洋支配のネットワークを構築したい中国にとりましては、最適環境とも言えます。狙いを定めた国に集中的な投資を行い、親中国家に鞍替えさせればよいのですから。国際法に基づく既存の海洋秩序は、今やチャイナ・マネーによって蝕まれつつあるのです。以上の2点から推測し得る第3の点は、中国の太平洋進出は、太平洋を南方から囲い込む形で進められる可能性です。これまで、同国の太平洋進出に対しては、台湾から東シナ海、並びに、日本列島全域を押さえていれば、同ラインが天然の防壁となって阻止できると考えられてきました。しかしながら、今日の中国は、日本列島のラインを迂回し、南シナ海・南太平洋のラインから北方に向けて、サラミ作戦の如く、太平洋への進出ルートを確保する動きを見せているのです。

 今後、中国は、南太平洋から北太平洋へと徐々に勢力圏を広げるのでしょうが、この行動が続けば、当然に、近い将来、対米関係において決定的な局面を迎えることでしょう。中国の海洋進出が新たな段階に至った今日、日本国への影響も重大であり、日米同盟、並びに、国際社会は、中国による海洋支配という脅威に対応し得る態勢の整備を急ぐべきなのではないかと思うのです。

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投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-24 10:52 [修正][削除]
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 第二に、ロシアに一矢報いることです。シリア内戦での米ロの綱引きは、ロシア有利の状況にあります。ロシアが支援するアサド政権は、「イスラーム国」(IS)の残党やクルド人勢力などの反体制派を攻撃しながら、ほとんどの地域を制圧。東グータは反体制派にとって残り少ない拠点の一つでしたが、4月12日にロシアはシリア軍が東グータも制圧したと宣言しています。一方、IS掃討とともにアサド政権の打倒を目指してきた米国は、クルド人を主体とするシリア民主軍(SDF)を支援して駐留していましたが、旗色は悪いといわざるを得ません。この背景のもと、4月3日にトランプ氏は「ISがほぼ崩壊した」として、米軍の早期撤退を希望すると発言しています(これに対して国防総省は早期撤退に消極的といわれる)。

 この状況でのミサイル攻撃は、いわばロシア主導で終結に向かうシリア情勢に米国の印象を残し、その事後処理において米国の最低限の発言力を確保しようとする試みといえます。言い換えると、ロシアが大幅にミサイル防衛システムを増強し、米国に譲歩を迫る状況のなか、トランプ大統領が敢えてこれを押し切ったことは、プーチン大統領に「侮られないようにする」ものだったとみられます。ただし、マティス国防長官が懸念したように、これは結果的に米ロの緊張や対立をエスカレートさせることも確かです。

 第三に、国内へのアピールです。クリミア危機などでみられた、プーチン大統領の強硬な外交・安全保障政策を背景に、米国では反ロ感情が広がっており、2017年の調査では「ロシアの力と影響力は我が国にとって主な脅威である」という回答は、米国市民の47パーセントにのぼりました(世界平均は31パーセント)。のみならず、2016年大統領選挙での「ロシア疑惑」をめぐり、トランプ大統領は守勢に立たされています。4月10日にホワイトハウスは、この問題を調査するムラー特別検察官を解任する権限が大統領にあると明言。しかし、実際にそれをすれば、疑惑をさらに深め、トランプ氏の支持をこれまで以上に危うくしかねません。その意味で、中間選挙を控え、公約の多くを実現できていないトランプ大統領にとって「ロシアと対抗する」ことは、支持を獲得する有効な手段といえます。その効果は、「アサド政権による化学兵器の使用」という、保守とリベラルを越えた支持を得やすい大義があることで、さらに大きくなるとみられます。

 こうしてみたとき、「化学兵器の使用は認められない」という人道上の大義に基づくミサイル攻撃は、いくつかの伏線のうえに成り立っているといえます。トランプ政権にとってそれらの目標が首尾よく達成できるかは不透明ですが、少なくともそれらと引き換えに行われたミサイル攻撃の余波は、北朝鮮情勢を含め各国に及ぶとみられます。なかでも、今回の攻撃がロシアとの緊張をこれまでになく高めたことは確かです。プーチン大統領はこの攻撃を「国家の主権の侵害で国連憲章に違反する」と非難。米英仏はロシア軍の施設を回避して攻撃した模様ですが、それでも双方の軍事行動がこれまでにない近距離で行われています。これは第二次世界大戦後、米ロが最悪の緊張状態に突入したことを象徴しており、今後も各国は予断なく注視する必要があるといえるでしょう。(おわり)

(連載1)シリア攻撃で米国が得たもの  ツリー表示
投稿者:六辻 彰二 (神奈川県・男性・横浜市立大学講師・40-49歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-23 11:30  
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 現地時間の4月13日、トランプ大統領はシリアへのミサイル攻撃を命令。東グータで化学兵器が使用された疑惑に関して、米国政府はこれがシリア軍によるものである証拠をもっていると強調し、英仏もこれに呼応するなかでの攻撃でした。米国は約1年前の2017年4月7日にもシリアを59発の巡航ミサイルトマホークで攻撃していますが、その時と同様、今回も「アサド政権による化学兵器の使用を止めさせること」を大義とします。ただし、それだけでなく、トランプ政権には今回の攻撃に、内政、外交ともにいくつかの目的があったとみられます。東グータで化学兵器が使用された疑惑が浮上して以来、トランプ大統領はシリアのアサド政権やその支持者であるロシアを強く非難し、ミサイル攻撃を示唆。しかし、実際に行われるかには疑念も広がっていました。その最大の理由は、ロシアとの対立がエスカレートする危険性でした。

 シリア内戦において、ロシアは一貫してアサド政権を支持し、米国主導の有志連合とも対立してきました。昨年の米軍によるミサイル攻撃の場合、まさにいきなりの攻撃だったため、シリア軍だけでなくロシアもほぼ全く反応できませんでした。しかし、その後ロシアはシリアでのミサイル防衛を強化してきました。もともと2016年末の段階でシリアにはロシア製ミサイル迎撃システムS-400が配備されていましたが、2017年5月にロシアは、これに加えて早期警戒管制機A-50Uを配備。さらに今年1月にはS-400が増派。飛来するミサイルを迎撃する能力は向上しています。つまり、米国がトマホークを放てば、そのいくつかはS-400に撃墜されるのであり、それは米ロの対立が今までなかった段階に足を踏み入れることを意味します。

 女性や子どもを含む非戦闘員に犠牲を出す化学兵器の使用が、とりわけ欧米諸国で強く批判されていたことは確かです。とはいえ、「非人道的な状況」があれば欧米諸国が常に軍事行動を起こすわけでもありません。今回の場合、シリアの化学兵器は(北朝鮮の核兵器と異なり)米国を標的としていません。そのうえ、ロシアとの対立が抜き差しならないレベルに達する恐れがあることは、米国による攻撃が実際にあるかを疑問視させる大きな要因だったといえます。「狂犬」と呼ばれ、強硬派で知られるマティス国防長官が再三、ミサイル攻撃に反対していたことは、この見方を後押しするものでした。そのなかで行われたミサイル攻撃には、公式に強調される「化学兵器の使用に対する制裁」以外に、トランプ大統領にとっていくつかの意味を見出すことができます。

 第一に、北朝鮮との関係です。昨年4月のシリア攻撃の直後、ティラーソン国務長官(当時)はこれが核・ミサイル開発を進める北朝鮮を念頭においたものだったと示唆。つまり、「米国は大量破壊兵器の使用を認めない」というメッセージを伝えることが、昨年のシリア攻撃の別の側面としてありました。今回の場合も、基本的には同じことがいえます。韓国の働きかけを通じて、5月には米朝首脳協議が開催される予定です。米国はあくまで朝鮮半島から核兵器を一掃することを求めており、「核実験の停止」や「ミサイル発射の中止」などでは済まさないという立場を維持しています。強硬派として知られ、次期国務長官に指名されているポンぺオCIA長官が、4月12日に「北朝鮮の体制の維持」を公言したことは、「大量破壊兵器をめぐる問題では譲歩しない」という姿勢の裏返しといえます。つまり、シリアでの化学兵器の使用を認めないことは、北朝鮮への威圧につながるのです。ただし、その強気のメッセージが北朝鮮情勢で奏功するかは、現段階で不透明です。昨年のシリア攻撃は、その後の米朝間の緊張を高めるきっかけとなりました。(つづく)

(連載2)自由放任のネットテレビの公共性 ← (連載1)自由放任のネットテレビの公共性  ツリー表示
投稿者:中村  仁 (東京都・男性・元全国紙記者・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-20 12:28 [修正][削除]
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3511/3528
 ネット事業者が参入してくると、「テレビ番組の質の低下を招く」と、社説で警鐘を鳴らす新聞もあります。どうでしょう。民放の番組の質はすでに低下しており、この批判はあたりません。それより最大の問題点は、「政治的公平性」が柱になっている放送法第4条の削除です。政治は政権批判が厳しいと、「政治的公平性に欠ける」として、報道番組に介入してきたことが少なくなく、民放ばかりでなく、NHKとのあつれきもありました。規制緩和論者からは「4条がなくなれば、自由な政治的主張ができるようになるから喜ぶべきだ」との主張を聞きます。どうなのでしょうか。第4条の削除に対し、「政治的権力を持つ側が自分たちに有利な番組を作成して、視聴者に提供できるようにするのが狙い」、「政権批判ばかりしていると、ネット事業者の参入を促すぞ。政権批判をほどほどにしておけ」、「政権側は本気ではない。政治的な脅しに過ぎない」、「新聞、テレビも観ず、ネット依存の無党派層を取り込む」など、様々な見方ができます。とにかく、少なくとも「政治的公平性に欠けると言ってきた政権が、第4条を削除するなんて、明らかに政治的思惑が潜んでいる」と、考えるべきなのでしょう。もう一つ。規制を緩やかにするからといっても、電波には公共性があり、信頼性を低下させるわけにはいきません。

 参入する事業者の考え方を知りたいですね。「公共性や信頼性とは何であり、どうやってその基準を決めるのか」という問題があります。参入してくる事業者には「ネットの世界に通用しない考え方だ。公共性や信頼性に欠ける事業者は視聴者から見放され、淘汰されていく原理、原則に任せるしかない」と片づけるのだとしたら、それは利害関係者が決めることではなく、利用者が決めることです。

 ネットの世界は玉石混交で、だめなものは見放され、淘汰されるという原理に任せる。「利用者が公共性や信頼性を求めているのなら、そうした努力をしている事業者は生き残るはずだ」という考え方ですね。新聞には新聞法があるわけではないのに、信頼性を高める自己努力をしています。それでも記事のねつ造、誤報事件が起きます。その結果、淘汰されるかどうかは、読者の選択に任せる。新聞の場合はそれでいいのでしょう。

 放送事業も同じ扱いをするしかないというのなら、それは事業者が決めるべきではありません。今回の方針を打ち出しているのは、政府の規制改革推進会議です。利害関係者が中心の集まりでしょう。広く国民の声を集めるべきです。(おわり)

(連載1)自由放任のネットテレビの公共性  ツリー表示
投稿者:中村  仁 (東京都・男性・元全国紙記者・70-79歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-19 18:56  
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3510/3528
 安倍政権が検討している放送事業の見直しに対し、テレビ局、親会社にあたる新聞社から猛烈な批判が巻き起こっています。論点が多岐にわたり、何を重視するかはそれぞれの利害で異なります。今後、放送と通信の垣根がなくなるといっても、放送法の第一条の「公共の福祉(利益の意味)に適合するように規律し、その健全な発展を図る」という精神をどう継続させるかを私は重視します。テレビ、新聞側の反論は新聞紙面などで知ることできるのに対し、放送業務に参入したいネット事業者が「公共の福祉」、「善良な風俗を害しない」、「事実を曲げない」などをどう考えているのか、考えていくのか、もっと知りたいですね。

 放送業務と通信事業が一体となった新しい法律、新しい事業が生まれてくる、発展していくとしても、放送業務の社会的責任、公共性を自覚することは今後も変えてはいけないと思います。ネットの世界は、情報の広場、雑踏というか、情報の群衆のようなものでしょう。伝統的なメディア、政府や民間一般の機関などが発信源になっているものもあれば、群衆の流れのようにとらえどころがないものもあります。従ってネット全体に政府規制、法律的な規制をかけることは物理的に不可能です。ただし、電波を使った放送事業は公共財です。利害関係者が集まって方向性を決めるのでなく、利用者、視聴者の考え方を重視すべきでしょう。

 見直しの原案にある「民放の放送設備部門と番組制作部門を分離」が実現できれば、ネット事業者は自分たちの番組(ソフト、コンテンツ)を「放送設備会社」の設備を借りて社会に送ることができるようになります。電力事業における発電(番組)と送電(放送設備)の分離に似た姿でしょうか。ここに新規参入したネット事業者には社会的責任、公共性を守る責任が生じるのだと思います。「これからのネット時代は規制はそぐわない」ではすまされません。

 すでに「Abema TV」のように、地上波テレビと同じように、ニュース、ドラマ、アニメ、バラエティなどの番組を見られるネットテレビが存在します。地上波の設備を借りることができるようになれば、もっと事業を拡大できると考えているのでしょう。現在の民放テレビの番組はどの局も似たり寄ったりで、同じタレントがいくつもの局の番組に登場し、同じようなことを言う。飽きますね。民放の番組作成力が落ちていますから、新しいアイディアを持ったネット事業者が参入すれば、活性化するし、テレビ離れが進む若い世代を引き付けることができるかもしれません。既得権を守ってきた垣根を取り払う効果はあるでしょう。(つづく)

(連載2)世界秩序の枢軸のユーラシア回帰は何をもたらすか ← (連載1)世界秩序の枢軸のユーラシア回帰は何をもたらすか  ツリー表示
投稿者:宇山 智彦 (北海道・男性・北海道大学教授・50-59歳)  [投稿履歴]
投稿日時:2018-04-19 11:00 [修正][削除]
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3509/3528
 今日の権威主義体制はかなり洗練されており、20世紀の粗野で暴力的な権威主義体制とは性質を異にしています。ある程度ガバナンスも高め、それぞれの国民の間で実際にかなり人気があります。そしてさまざまな国の権威主義的指導者は、互いの経験を学び合い、協力し合っています。特に中国は、開発途上国の独裁的指導者にとって、魅力的なモデルとなっています。政治的な自由化・民主化をしなくても経済発展が可能であることを示しているからです。中国はまた、途上国に対する投資と経済的援助を極めて活発に、しかも民主諸国が作ったルールに縛られずに行っています。このような状況は、中国とロシアが国内の権威主義体制を国際政治のアセット、資産として使うことを可能にしています。

 第3に、大国間の競争の激化はユーラシアの小国にリスクとチャンスの両方を与えています。一般に大国間の競争はより小さな国の主権を損なう可能性があります。クリミアを併合することによって、ロシアは大国がより小さい国の領土を奪うという危険な前例を作りました。同時に大国間の競争は、そこから利益を得ようとする小国にとっての交渉、バーゲニングの余地を増やす可能性があります。例えば東南アジアや中央アジアの各国は、中国、日本、韓国、ロシア、欧米諸国などからの援助や投資のオファーを天秤にかけることができます。いずれにしても、ユーラシアにおける国際関係は、国力の違いを問わない平等なパートナーシップという理想からますます遠ざかっています。中国は「国際関係の民主化」を主張していますが、これは実際には、中国とアメリカの関係を対等なものにせよということを意味しており、他の小国と中国の関係を対等なものにするという意味ではありません。国連を根本的に改革するなど、新たなグローバル・メカニズムを確立しなければ、大国と小国の間の平等な関係は保証できないでしょう。

 言うまでもなく、世界政治が権威主義と大国間競争に傾いていく現在の流れがいつまで続くかは誰も予測できません。短命で終わったり、方向を変えたりするかもしれませんし、長く続くかもしれません。日本では、「既存の世界秩序」、すなわち米国中心の世界秩序を維持することが重要だと考える傾向がありますが、もしもアメリカ自体が予測不能で攻撃的な国になったら、その秩序を守ることにどういう意味があるのでしょうか。また、中国を封じ込めよという意見も時に聞かれますが、覇権の歴史が教えているのは、台頭する勢力を無理に封じ込める試みは、侵略者に対する無分別な宥和政策と同じくらい危険になり得るものであり、しばしば悲惨な戦争につながるということです。

 ですから重要なのは、大国間の競争を煽るのではなく、諸大国の攻撃性を減らし、平和的な共存を保つことです。そして、特に強調したいのですが、自由民主主義国家が世界の指導者たり続けなければならないということを証明するためには、自由民主主義国家のほうが、権威主義国家よりも発展途上国を助け民主的国際秩序を構築する能力があるということを示さなければなりません。武力よりも実例で示す、模範の力が重要なのです。(おわり)

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