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2014-01-22 00:00
安重根で中韓「反日心理戦」同盟
杉浦 正章
政治評論家
中国が安重根(アンジュングン)の記念館を中国・ハルビン駅に開館したことが意味するものは、国家主席・習近平が韓国大統領・朴槿恵を完全に取り込んだことを意味する。その狙いは、これまで独自に展開してきた「反日心理戦」を中韓「反日心理戦」同盟にまで発展させるところにある。この習近平戦略は、北朝鮮と対峙する米国の極東戦略にくさびを打ち込む結果となり得る。米国はことの深刻さを理解する必要がある。朴槿恵に度の過ぎた反日路線は自らの安全保障を危うくするものであることを気付かせる必要があり、米政府は早期に朴の“対中大接近”を戒める必要がある。日本政府もこれ以上の中韓「反日心理戦」拡大を阻止しなければならない。もはや場当たり的対応をしているときではない。記念館開館は昨年6月の習に対する朴の「言いつけと懇願」が成功した結果となった。それも、要請した安重根の肖像ばかりではなく、記念館の開設という朴にとって願ってもないプレゼントとなった。かねてから中国政府内部には安重根がテロリストであり、これを祭ることはテロリスト礼賛となり、国内の不穏な動きを増幅するという慎重論があった。それにもかかわらず習が格上げの開館に踏み切った背景は、いうまでもなく首相・安倍晋三の靖国参拝に対する報復である。
これに加えて、習には極東戦略を念頭に置いた深い思惑がある。それは膠着状態に陥っている尖閣をめぐる日中のせめぎあいを心理戦で日本を追い込むことによって打開を図ろうという戦術である。ロシアのスパイが東京や北京において日中戦争の可能性に探りを入れていることは常識だが、そのロシアの軍事専門家の間では、日中戦争が勃発すれば日本単独でも中国に勝つという見方が強いという。兵器の質と自衛隊の練度が違うというのだ。ましてや中国が日米同盟を相手に戦争することになれば「屈辱的な敗北になる」というのがロシア軍事専門家の分析である。また対日戦争を引き起こせば、これを機に抑圧された少数民族が各地で反乱を起こし、中国国内は内乱状態に陥るという見方も有力だ。ロシア革命の中国版となりかねないのだ。
このため習は現在のところもっぱら心理戦で日本を追い込む選択しか方法がないのである。その大きな布石が一方的な防空識別圏の設定である。海からの公船の領海侵犯でゆさぶり、識別圏では空からの侵入で日本を追い込む。これで領土問題は「存在しない」としている日本政府を「存在している」に方向転換させることを狙うのだ。もう一つが、外交安保の常識を全く知らない朴の接近を飛んで火に入る夏の虫のごとく“活用”することにある。幸いにも朴の「反日」は徹底しており、中国とは歴史認識において共通する部分が多い。極東の戦略地図を読めば38度線で米国と対峙しているのは北朝鮮ばかりではなく中国でもあるのが常識である。中国は米国と国境を接して、対峙することを何が何でも避けたいのであり、北のクッションは必要不可欠の存在である。しかし米韓同盟と日米同盟の圧力をひしひしと感じないわけにはいかない。この日米韓のトライアングルにくさびを打ち込めるかどうかが最大のポイントなのだが、朴の存在はまさに地殻変動を生じさせているのだ。
朴の対中接近の度が強まれば強まるほど、相対的にトライアングルの結束は弱まるのであり、安重根記念館は習のくさびが見事に成功したことを意味するのだ。国家間の心理戦とは情報の計画的な活用・操作・宣伝などの行為により、政治的目的あるいは軍事的な目標の達成に寄与することを狙った戦術の形態である。心理戦における主要な手段は政治的なプロパガンダであり、日本はプロパガンダ戦において、常に受け身の態勢となっている。米国が小泉純一郎の靖国参拝に異を唱えなかったのに、首相・安倍晋三の参拝に「失望」を表明したのは、小泉以後8年間でいかに中韓の対米ロビー工作とプロパガンダが利いたかを物語っている。両国ともロビー工作に莫大(ばくだい)なカネを注ぎ込んでおり、逆に日本は外相・田中真紀子の誤判断で縮んでしまったままだ。中韓の攻勢に対して、日本はせいぜい大使が講演するか、現地紙に反論を投稿するかくらいだが、もはや中韓「反日心理戦」同盟に対しては、そのような場当たり的な対応では対処しきれなくなっている。まさに国家安全保障会議(NSC)マターとして、統合的に対処すべき段階に入った。米国も「失望した」などと言っているときではない。極東戦略が朴を中国に取り込まれて危うくなっているのだ。スーダンで自衛隊が善意の弾薬譲渡を韓国軍に対して行ったにもかかわらず、韓国は謝意も表さずに突っ返してきたが、これでは極東の安全保障は維持できない。朴はいつ発生するか分からない北の軍事攻勢に日本の支援がなくて勝てるとでも思っているに違いない。まさに習近平の思うつぼにはまってしまった朴を、引き戻すには米国が警告するしかないのだ。
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