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2014-08-29 00:00
消費増税延期の判断は早いほうがいい
杉浦 正章
政治評論家
歴代政権で消費増税をした二人の首相の末路はあわれだが、首相・安倍晋三だけはなんと50%前後の高い支持率を維持している。しかし10%への再引き上げでこの支持率が維持できるかというと、無理だ。出来ないだろう。政治論から言えば、1政権で2度の消費増税などという選択はあり得ないのだ。支持率の高さは何と言っても経済運営の好調にある。首相・安倍晋三には、アベノミクスの成功とデフレ脱却という大義名分がある。「来年10月実施」の消費税法などにとらわれることなく、同法付則に基づき早期に増税大幅延期を決断して、景気回復に専念すべきである。
「空にゃ今日もアドバルーン」ではないが、バロンデッセは普通一人が揚げるものなのに、4-6月のGDP落ち込みを理由に、安倍側近が続続と再増税延期の観測気球を上げている。まず側近中の側近の経産相・甘利明が「来年10月の引き上げを延期する場合、無期限延期はあり得ない」と発言した。閣僚が誰も延期を言っていないときに延期を言うのは、延期したくてしょうがない安倍の本音を代弁しているのだろう。側近学者に到っては、競うように延期論だ。ブレーンで内閣官房参与の本田悦朗(静岡県立大教授)は産経に「今の日本経済に再増税はリスクが大きい。現時点では上げるべきではない」「増税を延期する場合、いつまで延期するかなど財政再建を行う意志をきちんと説明すれば、日本が国際的な信認を失うことはあり得ない」と断言。内閣官房参与・浜田宏一(米エール大学名誉教授)もウォール・ストリート・ジャーナル紙に消費税の5%から8%への引き上げは「消費者に大きな打撃」を与えたと指摘、「7-9月期のGDPがあまりに低調であれば、2度目の増税を延期するか、段階的増税を導入するかになるだろう」と述べている。
安倍側近らが語らった上での発言かどうかは別として、一致して安倍の延期の選択の先導役を果たそうとしているとしかみえない。確かに冒頭述べたように、政治論としては1政権で2度の消費増税は過酷だ。過去の「増税首相」は実施派と挫折派に別れる。実施派は竹下登、村山富市、橋本龍太郎だ。このうち村山は3%を4%にしたが人柄の良さと社会党の首相とあって野党の反対も少なく増税が原因では倒れなかった。しかし最初に導入した竹下は支持率が増税率と同じ3%まで下がって、半年後に政権を手放した。橋本も人気が悪いのに輪をかけた支持率低下で1年で辞任。挫折派は一般消費税の大平正芳、売上税の中曽根康弘、国民福祉税の細川護煕、消費税の菅直人といずれもやろうとして失敗した。
要するに増税は、歴代政権にとって鬼門なのであり、実施すれば倒れ、やろうとしても出来ないのがフツーなのだ。いくら法律に書いてあるからと言って、2度の引き上げなど無謀の極みだ。消費税法付則18条には「景気条項」がある。何と書かれているかと言えば、消費増税を判断する時点で、景気が目標の成長水準に達していない場合は、増税凍結も含めた見直しを行うことができるというものだ。世論調査もガバナビリティのある国民性を反映して、1回目の増税に関しては「評価する」が朝日で51%、読売で53%と過半数だった。しかし同じ調査で、再引き上げは朝日で63%が反対だ。日経の最新の調査でも63%が反対だ。それでは政局の日程から展望して、増税が入りうるかと言えば、これも難しい。来年春の統一地方選挙、集団的自衛権立法をめぐる与野党激突で来年通常国会末の解散の可能性、再来年夏の衆参同日選挙の可能性など重要政局課題があり、その前の増税はまず不可能と言ってよい。唯一可能性があるのが、1年延期すれば再来年の10月の10%実施となり、これはダブル選挙の後となるから比較的やりやすい。しかし増税が必至となればダブル選挙にマイナスに作用することは否めない。
さらに重要なのは増税がせっかく景気回復への道筋を開いたアベノミクスを直撃することである。誰でも分かる事だが、財政再建には相反する2つの道筋がある。1つは増税であり、他の1つは景気回復による税収増である。現状では2つ一緒にやることなど不可能であり、これに加えて安倍政権にはデフレ脱却という大きな使命が課されている。今増税をすれば、アベノミクスの好循環が絶たれるのは一目瞭然であり、こうした状況を勘案すれば、誰がどう見ても増税先延ばししかないだろう。その判断を安倍は7-9月の経済指標を見た上で年末に行う姿勢だが、政治判断は官僚判断と異なり、洞察力と勘が重要だ。どうせ先送りするなら、閣議決定は年末にするにしても、早く表明してほしいというのが、企業や国民の期待であろう。また安倍は1年延期する場合には、実施時期を明示せずに「1年後に様子を見る」くらいの形での延期が好ましい。それよりも一挙に3年くらい延期してフリーハンドをを確保した方がよい。長期政権なら“最後のご奉公”で増税をやって退陣すれば良いのだ。その力が残っていればの話だが。
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