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2014-10-07 00:00
「テロの逆流」は喫緊の課題となった
杉浦 正章
政治評論家
久しぶりに警視庁公安部が動くと社会に緊張が走る。それも一大テロリスト集団に成長したイスラム国絡みだから気になる。「ここは地の果て」と歌われた中東で、跳ね上がりや異常者が死ぬのは勝手だが、問題はテロの逆流だ。オーストラリアでは辛うじて未然に防いだが、日本が狙われないとは限らない。テロ戦闘員の流入阻止は喫緊の課題であり、対岸の火災視していたら、大やけどする。今回の事件の場合、当面は北大休学中の学生の聴取が焦点だが、学生はきょうトルコ経由でシリアに向け出発する寸前であった。大学生を巡っては怪しげな雰囲気も出ている。各新聞は秋葉原の古書店に「勤務地シリア。詳細店番まで」の求人広告が出ていたことまでは報じているが、毎日は張り紙は外部関係者から依頼されたものであると報じている。その関係者について、朝日だけが怪しげな元大学教授の存在を書いている。求人にかかわった古書店関係者が「イスラム法学が専門の元大学教授に渡航希望者数人を紹介した」と話していると報じている。古書店関係者はその元大学教授から「自分を介せば、シリアに入れる」と聞き、渡航希望者を紹介したという。
古書店関係者は何人が実際に渡航したのかは分からないとしている。これから推察すると複数の人間が渡航した可能性がある。しかし、店に公然と求人広告を出せば、いずれは警察に伝わることが分からないのは、あまりに“稚拙”というか、大胆というか、本格的な秘密組織としては考えられない素人っぽい行動ではある。これに対して、オーストラリアの場合はテロ逆流を目指した全くの確信犯であった。イスラム国のオーストラリア人幹部からの指示で、無差別にシドニーとブリスベンで市民を拉致して、首を切断して殺害し、その映像をイスラム国を通じて公表するという身の毛もよだつ計画であった。同国史上最大規模の対テロ捜査が行われ、15人が拘束され、2人が起訴された。首相ハニー・アボットはニューヨークに飛んで、米連邦捜査局(FBI) との会合に臨み、イスラム国のテロ活動についてブリーフィングを受け、対策を話し合っている。
大統領オバマによるとイスラム国には1万5千人の若者が戦闘員として集結している。アジアからは千人が参加しているという。地域別ではヨーロッパに多いが、根底には根強い移民差別がある。初代の移民は、差別についてこんなものかというあきらめがあるが、二世となると根底から異なる。息子たちは、社会のあらゆる場面で差別を受け、それが憤まんとなってうっ積する。これに対してネットを見れば、イスラム国が救いの手を差し伸べているように見えるのだ。イスラム国の宣伝活動も巧みだ。反米を軸に欧米民主主義政治システムを完全否定して、若者が民主主義体制では救われることがないことを強調し、厳格なイスラム法国家のみが救いであると訴えるのだ。これが主に二世移民らをイスラム国へと駆り立てるのだ。幸いなことに、この構図は日本には事実上ないといってよい。アジアからは約2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアや圧政を受けている中国・新疆ウイグル自治区などからの参加が多いといわれている。
国連は事態を極めて憂慮、安保理事会は法整備などイスラム国のテロに対抗する措置を各国に義務付ける決議を採択している。イギリスやフランスは過激派の旅券剥奪などの措置を取っている。注目されるのはフランス下院がイスラム国などテロを正当化するウェブサイトの閲覧を制限するテロ対策法案を可決したことだ。確かに邪悪なるウェブサイトを閲覧禁止にすることは一定の効果を発揮するかも知れない。日本の場合今回の事件を極めて珍しい刑法93条の私戦予備罪・私戦陰謀罪の規定で対処した。外国に対して私的な戦争行為をする目的でその準備または陰謀をしたものを罰する規定だ。政府はテロ組織への資金の流れを遮断する新法も制定する方向で調整している。日本でも、テロリストの動きは何が何でも封じなければならないのであり、油断禁物であることは言うまでもない。
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