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2014-11-21 00:00
政治の詭道を選んだアベノミクス解散
杉浦 正章
政治評論家
朝日川柳に「国民にアベノリクツを無理強いし」とあったが、言い得て妙だ。解散を命名するなら本来ならこの「アベノリクツ解散」がよいところだが、解散史には「アベノミクス解散」と残るだろう。最大の争点がアベノミクスとその成功を期するための消費増税延期問題となるからだ。首相・安倍晋三もそこに照準を合わせる選挙にしたいのであろう。しかし、有権者の反応は総じて「なんで今なのか」である。戦後の解散を大別すれば「打って出る解散」と「追い込まれ解散」に分けられるが、安倍の場合は「打って出る」と「過剰防衛」が同居した解散だ。内情が明らかになるにしたがって、川柳の通りに無理矢理に安倍が理屈づけをしている匂いがふんぷんとしてくる。国民の直感は鋭い。「なんで今なのか」の背景にある“策略性”を見逃さないのだ。歴代首相にとって最大の仕事は解散のチャンスを見定めることである。政権党にとっていつが有利かの判断である。そこに党利党略があるのは当然であり、政権延命のための個利個略があってもおかしくない。しかし、最初からその策略を見破られてはどうしようもないし、その実態が策略が全てであってはなるまい。
今日の解散はそういう解散だ。朝日の世論調査では安倍の挙げた「アベノミクスの成否を問う」という解散理由になんと65%が「納得しない」で、「納得する」は25%にとどまった。安倍の支持率も支持39%、不支持40%でついに逆転した。国民は直感で何のための解散かが分かるのだ。国民をだませると思ってはいけない。そもそも、解散風が吹きだした当初から永田町には「今後支持率を悪化させる問題がひしめいている。支持率が高いうちにやった方がよい」という説が飛び回った。原発再稼働や集団的自衛権の法制化などで支持率が落ちるという判断である。しかしその発生源がどこなのかが分からなかったが、元朝日新聞政治部記者で桜美林大教授・早野透が朝日デジタルのコラムで「そういえば思い出した。渡邉恒雄読売新聞グループ本社会長兼主筆がある席で『いま、解散のチャンスなんじゃないか。これから先、安倍政権もいいことはあまりない。いまなら勝てる。いまのうち解散だよ』と言っていたのを聞いた」と書いている。どうやら発生源はナベツネらしい。早野は続けて「ナベツネさんとよばれる古い政治記者、読売新聞のトップのこの話が安倍首相に伝わったかどうかは知るところではないが、果たして11月9日、読売新聞に初めて『解散』を予測する記事がでた。解散風はそこから始まったのである」と述べている。ここまで書けば玄人はナベツネの進言で安倍が踏み切ったと捉える。
謀略に明け暮れた戦争直後の政治混乱の中で、政治記者を長く務めたナベツネらしい「今のうち解散」の発想だが、解散の大義にまで頭が回らなかったのは、ブンヤの親玉の限界だろうか。誰の進言かはともかくとして、とにかく安倍は「今のうち解散」論に乗ったのである。解散の動機がまるで不純である。700億円の血税を「今のうち解散」のために使うのは、遠山金四郎ではないが「やいやいてめえら、 お天道様はお見通しだい」と言いたくなる。
安倍が勝敗分岐点について「自民、公明の連立与党で過半数を維持できなければ、アベノミクスを進めていくことはできない。過半数を得られなければ、私は退陣します」と、自民党が208議席まで86議席も減らしても退陣しないと言明したが、この発言も選挙の先頭に立つものの言葉ではない。初めから負けを宣言しているのがどうもふに落ちなかったが、やはり師匠の小泉純一郎の郵政解散の請け売りであった。朝日が「この表現は、小泉純一郎元首相が2005年郵政解散での記者会見で語った『自民党と公明党が国民の審判によって過半数の議席を獲得することができなかったら、私は退陣する』という表現に酷似する」と看破している。朝日は「退陣という言葉で、覚悟や潔さを強調する狙いがある」と分析しているが、見事だ。
さすがに自民党も、安倍の勝敗設定を訂正せざるを得なかった。公明党と合わせて絶対安定多数を上回る270議席としたが、それでも公明が取るであろう30議席を引けば240議席だ。295議席から55議席も失っても「勝ち」であろうか。野党の体たらくは依然「低水準」にあり、まだ勝ち負けは予断できないが、安倍の策略が前面に出た「今のうち解散」は、議席減が前提なのである。議席確保は政局運営の要であり、わざわざ議席を減らす「何のため解散」は、せっかく自民党を圧勝させた国民の気持ちを裏切り、政局の詭道を歩むものに他ならない。
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