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2015-05-14 00:00
橋下との協力体制への思い入れが強い官邸
杉浦 正章
政治評論家
女性というものはつくづく現実的な物の見方をするものだと思う。5月17日の大阪都構想をめぐる住民投票でも、自民党筋によると「区役所が遠くなる」という反対論が1番効いているそうだ。確かに市内の24行政区が5特別区に再編されるのだから「遠くなる」わけだ。産経の調査では、男性が賛否拮抗しているのに対して、女性は賛成34.2%、反対50%と大差がついている。どの社の調査も同様の傾向を示しており、どうも大阪都構想は女性が勝負のカギを握っているようだ。危機感を感じた維新の党は12日、「都構想対策本部」(本部長・松木謙公)を立ち上げ、1000人規模の人員を大阪に派遣することを決めたが、選挙直前になって「対策本部」でもあるまい。おそらく焼け石に水で効果は上がるまい。
そこで敗北した場合にどうなるかだが、大阪市長・橋下徹は政治家を辞めると公言している。テレビで「住民の皆さんの気持ちをくむのが政治家の仕事なわけだから、ここまで5年間精力かけてやってきたことが、大阪市民の皆さんに否定されるということは、政治家としてまったく能力がないということ。早々に政治家辞めないと、危なくてしょうがない。運転能力のない者がハンドル握るようなもんでね、早く辞めなきゃダメですよ」と政治家引退を表明した。しかし「早々に辞める」がいつなのかは、なお不透明だ。1月にも負けた場合の引退を表明しているが、その際は「12月の市長の任期満了で引退し、国政転身もしない」という考えであった。橋下は大阪府知事選の際も「絶対出馬しない」と述べておきながら、一転出馬している。
ここで注目されるのは、中央政界の思惑だ。もともと首相・安倍晋三と橋下の関係は良好だ。橋下は安倍が在野のころに、新党の党首になることを打診したと言われるほどだ。したがって首相官邸は橋下の都構想を応援している。官房長官・菅義偉は「大阪の二重行政は、効率化を図るために大改革を進める必要がある」ともろ手を挙げて都構想に賛成だ。安倍も1月のテレビ番組では、「大阪都構想の意義はある」と述べたが、橋下は「うれしくてしょうがない」と応じている。安倍は国会対策上も維新の必要を痛感しているようであり、時には公明党にかける比重を維新に移したりしてきた。現在も安保法制閣議決定の直前であり、自公の連立与党だけで突っ走るのでなく、維新の手も借りたいという戦略がある。与党だけで強行突破すれば出来ないこともないが、維新の主張も取り入れて一部修正すれば、世間体もよいのだ。
しかし、自民党内は、共産党とすら手を組んでいる大阪府連からの突き上げで、一見官邸と党執行部との間で亀裂が走っているように見える。総務会長・二階俊博は「私自身、都構想に賛成や協力する気は毛頭ない」と述べるに至っている。ただこの政府・与党の姿勢には“役割分担”の側面がありありと感じられる。安定政権の場合は、その芝居が可能となるケースが多いのだ。国対委員長・佐藤勉が記者会見で「いろんな意見があるが、齟齬(そご)をきたしている状況にはない。片方が突出すれば片方がいさめる。非常にいいやり取りだ」と述べているが、その通りだ。
そこで、橋下が直ちに「政界引退」することになった場合だが、支柱を失って維新には遠心力が働く可能性が強い。分裂すれば、国会運営への首相官邸の思惑が通用しなくなる恐れもあるのだ。したがって官邸の思惑としては、橋下が直ちに市長辞任に踏み切らずにいてくれることが一番よいのだ。少なくとも年末までの任期を全うし、来年の参院選挙への橋下出馬へとつなげられれば、最良であろう。その場合は「憲法改正は絶対必要。安倍首相しかできない。できることはなんでもする」と述べている橋下の力を借りて、憲法改正の発議に必用な衆参両院の3分の2以上の賛成が可能となり得るのだ。短期戦略では安保法制、長期戦略では憲法改正での協力体制を整えるには、橋下に簡単に政界を引退してもらっては困るのだ。
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