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2020-07-13 00:00
「コロナ禍」での東京オリンピック開催の論理
渡邊 啓貴
GFJ有識者世話人/帝京大学教授
都知事選で論点となったのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策とオリンピック開催の是非をめぐる議論であった。とくに後者は是々非々論となったが、小池知事再選で開催のためにベストを尽くすという方針が継続された。筆者はそれに正面から反対するものではないが、何かしっくりいかないものがある。それはあらためて言うまでもないことだが、知事の発言が「五輪開催はだれのものか。何のためのものか」という初歩的な問いに対する答えではないように思うからである。
それは国際イベントの目的と手段、そしてその背景にある日本外交の立ち位置をめぐる問いでもある。20世紀半ばの東京五輪とは歴史的位置づけが違うとはいえ、それがスポーツ(文化イベント)を通した国威発揚と景気浮揚の一助になるという点についてはだれしも反対しないであろう。しかし以前の戦後復興と世界の仲間入りを印象付けるための東京五輪とは、今回は趣を異にし、文化・スポーツの祭典を通してアジア屈指の大国日本が3.11東日本大震災からの復興し世界の安全と平和の実現を願う象徴的行事という点にその意義はある。だとすれば、新型コロナウイルスが世界に蔓延している今の状況下で、五輪開催実現に戦々恐々とした印象を世界に与えるのではなく、もっと別な形で世界に発信すべきことがあるのではないか。今世界が五輪で日本に注目していることは日本外交発信の千載一遇のチャンスであるだけになおさらそう思う。
小池知事は「コロナに打ち勝って五輪を成功させよう」というスローガンを強調した。五輪開催是非の議論の中では一つのスタンスだ。しかしそれは国際的に強いアピールになるだろうか。世界の多くの国々は五輪どころではないのではないか。アメリカ・ブラジル・インド、そしてひところではないまでも依然として感染者が出ている欧州事情を考えても五輪開催に前向きの姿勢を世界に要請できる状況であろうか。五輪は開催国日本で感染が亡くなれば実現するものではないだろう。世界的なコロナ禍の終了が大前提だからだ。筆者自身日本人の一人として断腸の思いではあるが、「五輪開催はコロナ禍落ち着いてからみんなで実施しましょう。それまで待ちます」というのがアジアと世界のリーダー国としての見識ではないか。筆者は広報文化外交の成功には、「メッセージの概念化」、「文脈化(ストーリー化)」、「継続性」、そして「ネットワーク」が不可欠と考えている。とくにメッセージ発信にはタイミングや発信の背景・反応に対する一連のストーリー(文脈)がとても重要だと考えている。
これはわが国の外交ではあまり意識されてこなかったことだ。世界の平和を祈念し、それを文化・スポーツで実現する日本という国のメッセージを送る絶好の機会が目前にある。これまでの五輪準備に従事した方々には痛恨の決断だが、日本の外交としてはかつての「エコノミックアニマル」を彷彿させるような姿勢は厳に慎んだほうがよい。自ら中止という必要はない。しかし周囲の事態が東京五輪は中止だという雰囲気が形成されてから、後追いした意思決定よりも、苦衷の選択ながら自ら世界の平和を最優先するという姿勢を示すことが「グローバル・プレイヤー」としての日本外交の胆力を示すことになるのではないか。良い評価が得られればその後また別の道も開かれるであろう。日本のブランド力に繋がるのではないか。それは一刻でも早いほうが良い。
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