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2025-10-26 00:00
(連載3)令和からみた『新・戦争論』再考: 多極時代における日本の外交・安全保障の羅針盤
高畑 洋平
日本国際フォーラム上席研究員・常務理事/慶応義塾大学SFC研究所上席所員/グローバル・フォーラム世話人事務局長
2.日本外交を拡げ・接続するということ
(1)日本外交の光と影
戦後日本外交は、軍事的制約を前提としつつも、独自の資産を積み重ねてきた。第一に「調整力外交」である。冷戦期には東南アジア諸国との経済協力を通じて非同盟諸国との接点を模索し、冷戦後にはアジア太平洋の多国間協力枠組みに積極的に関与してきた。力による均衡ではなく、利害対立の調停を通じて合意形成を促す姿勢は、日本が大国的制約を逆に強みに変えてきた典型である。
第二に「人間の安全保障」外交がある。国内紛争や脆弱国家が増えるなかで、個人の尊厳を外交理念の中心に据えた発想は、国際社会に新たな規範的資源を提供した。国連や開発援助の現場において、日本の主導は高く評価され、規範外交の一翼を担ってきた。
第三に「ODA外交」の蓄積である。アジア諸国のインフラ整備、教育・保健分野支援、環境協力などを通じて、日本の援助は単なる資金提供を超え、地域秩序の安定と信頼醸成を支える基盤となった。中国の一帯一路に押され相対的な優位は低下したが、「質の高い援助」と「現場に根差す協力」の伝統は依然として大きな外交資源である。
その一方で、日本外交は構造的制約を免れない点も指摘しなければならない。
第一に人口減少と経済停滞である。経済基盤の縮小は国際的影響力の土台を侵食し、外交資源の制約をもたらす。
第二に軍事的制約である。自衛隊は近代化を進めつつも集団的自衛権の限定的行使にとどまり、大国外交に比すれば制約は明白である。
第三に世論の制約がある。海外派兵や武力行使に慎重な国民意識は、外交を「安全志向」に傾斜させる。
さらに近時注目すべきは「短命政権」という制度的制約である。日本の歴代政権の多くは、その短命さゆえに実務的成果を残すには至らなかったものの、「日本外交が持続性を欠きやすい」という構造的問題を浮かび上がらせた点で無視できない。
(2)制約を強みに転じる方途とその意義
しかしながら、制約は必ずしも弱点にとどまらない。日本外交の本質的資産は、むしろ制約の中で磨かれてきた。軍事力を欠いたからこそ、調整力外交や人間の安全保障といった理念外交が発展した。さらに近年では、日本の「WPS」への取組みにも注目が集まる。日本は「WPS決議」が採択されて以降、3次にわたって「行動計画」を策定し、決議履行のため積極的な措置を実施している。例えば、紛争関連の事態をはじめ、自然災害・気候変動への対応、さらにはWPS普及に向けた人材育成など、その取り組みは多岐にわたる。今後仮に、日本の経済的地位が相対的に低下しても、「質の高い援助」や「信頼構築外交」の柔軟性は揺るがない。
また、短命政権の問題も、逆説的には「制度に依存しない外交資産」の重要性を照らし出す。官僚機構、学術界、市民社会、国際機関とのネットワークを基盤とする外交は、政権の寿命を超えて継承可能である。日本外交の課題は、制約を認識したうえで、それを織り込んだ「持続可能な外交アーキテクチャ」を構築することにある。
そのなかで日本外交の意義は、強みと制約を二分法的に捉えるのではなく、それらを統合的に戦略化する点にある。調整力を伴う外交は制約を前提にするからこそ国際的に評価され、短命政権の脆弱性も制度外の資産を積み重ねることで補強できる。すなわち日本の独自性は「制約を資源に転化する能力」にこそ見出される。そして日本は、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)構想の延長線上に、グローバルサウスとの協働的対話の場を設け、「価値共有」と「制度的包摂」を両立させる新たな外交戦略を模索しなければならない。
大国含め国家間の圧力に挟まれながらも、制約を逆用して主体性を確立する国家の戦略は、まさに今日の日本外交に当てはまる。著者が拙稿「『ユーラシア外交』という日本の選択」(中央公論新社、2022年)で強調したとおり、日本の使命は、変容する国際秩序を受動的に追随することではなく、自らの強みと制約を戦略資源として活かし、流動的国際秩序において、主体的外交(能動的役割)を果たすことにある。(つづく)
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