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2026-01-23 00:00
「勢⼒圏」抗争に舵を切った⽶国─トランプとキープレーヤーたち
鈴木 美勝
日本国際フォーラム上席研究員
トランプ第2次政権が誕⽣して2年⽬。1⽉3⽇未明の⽶軍によるベネズエラ攻撃は、世界の政治⾵景をガラリと変えた。国際秩序を突き崩す、⼒による⼀⽅的現状変更─それは、⺠主主義陣営のリーダーだったはずの⽶国が、中国・ロシアとの「勢⼒圏」抗争に向けて舵(かじ)を切ったことを意味する。次なる標的として、パナマ運河の管理権の完全奪還に加えて、キューバ、デンマーク⾃治領 グリーンランドまでをも⽀配下に置こうとする⽶⼤統領ドナルド・トランプ。そこには、「⼒による平和」と「利益の体系」を⾏動原理とする19世紀的世界への回帰による帝国化の意思とパワー論があり、その実現に向けて神輿(みこし)を担いだホワイトハウス4⼈のキープレーヤーがいる。
◇「明⽩なる天命」を追い求めて
「トランプ2.0」は、1年前の25年1⽉20⽇に始動。第47代⼤統領トランプは就任演説で「今、⽶国の⻩⾦時代が始まる」として、独⾃の世界観を前⾯に押し出した。いわく「天性の実業家」第25代⼤統領W・マッキンリーは、⽶国を関税とその才能を通じて裕福にし、続く第26代T・ルーズベルトにパナマ運河などの事業資⾦を提供した。莫⼤な資⾦が投⼊され、多⼤な⼈的犠牲が払われたが、パナマ運河は中国の⼿に落ちた。今こそ「運河を取り戻そう」─勇気と活⼒、歴史の最も偉⼤な⽂明の⽣命⼒をもって「再び⾏動する時が来た」。「勝利と成功の新たな⾼みへとこの国を導こう、ひるむことはない」。⽶国再興への檄(げき)。富を増⼤し、領⼟を拡⼤、「国旗を新しく美しい地平に掲げる国家」として「われわれのマニフェスト・デスティニー(明⽩なる天命)を星々の中へと追い求めよう─我が宇宙⾶⾏⼠を⽕星に送り込み、そこに星条旗を⽴てさせよう」─。トランプは、歴代⼤統領の就任演説には⾒られなかった⾔葉「マニフェスト・デスティニー」を、この時初めて使った。その真意は奈辺にあったのか。
◇モンロー主義の変遷―拡張のツールに
19世紀、欧州との「相互不⼲渉」などを原則とする⽶外交の起点となったのは、第5代J・モンローの年次教書演説(1823年)での「宣⾔」、その「モンロー主義」を「マニフェスト・デスティニー」に融合させたのは、第11代J・ポークだった。旧⼤陸(ヨーロッパ)から新⼤陸(アメリカ)を「防御」するためのドクトリンは、ここで「領⼟拡張」のツールに読み換えられた。再定義された「モンロー主義」(1845年)は、テキサス併合や⽶墨戦争の⼤義名分となったものの、⻄漸運動は「フロンティア消滅」(1890年)をもって終焉(しゅうえん)の時を迎えた。しかし、世紀末に就任したマッキンリーは「(国内産業を守る)保護関税」「(新市場開拓の)海外膨張」「(⾏動制約されないための)主権保護」という「三位⼀体」外交でニューフロンティアを開拓。マッキンリーが暗殺者の凶弾に倒れると、T・ルーズベルトは「モンロー主義」を、⽂明国家として、アジア、中南⽶への軍事介⼊を「正当化する」攻撃的ドクトリンに転換させた。「モンロー主義」は紆余(うよ)曲折をたどったが、アメリカ建国250周年を控えた今年、「⽶国第⼀主義」を掲げるトランプ政権下で「ドンロー主義」としてよみがえった。12⽉4⽇公表されたトランプ政権初 の「国家安全保障戦略(NSS)」が1⽉3⽇未明のベネズエラへの軍事介⼊に適⽤されたのだ。「ドンロー主義」とは、就任演説でトランプが提⽰した世界観を踏まえて「⻄半球における⽶国の絶対的な覇権確⽴」を宣⾔にまとめたものだ。トランプ政権は「国境」を脅かす域外勢⼒の侵⼊を拒絶し、武⼒⾏使してでも「⻄半球」の資源や市場へのアクセスを⽶国の国益のために確保する姿勢を鮮明にした。
◇「⼤統領権限に制約なし」
NSS公表の1カ⽉後、世界中に衝撃が⾛った。トランプ政権によるベネズエラへの軍事介⼊「絶対的な決意作戦」が発動されたのだ。⼤統領マドゥロと妻フローレスの拘束―ニューヨークへの移送を⽬的に軍事⾏動が電光⽯⽕で⾏われ、数時間後に終了した。特殊部隊が投⼊され、⽶軍からは1⼈の犠牲者も出さずに完了した軍事作戦。トランプは意気揚々と記者会⾒に臨んだ。「私の命令で⽶軍がベネズエラの⾸都で前例のない軍事作戦を実施した」 昨年6⽉のイラン空爆に続くサクセス・ストーリー。⾃信満々のトランプの会⾒は延々続き、⾃分は無敵であるとの全能感を漂わせた、その⾃信はどこから来たのか。思い当たることと⾔えば、ペンシルベニア州バトラーでの⼤統領選挙集会中に発⽣したトランプ暗殺未遂事 件(2024年7⽉13⽇)の体験だ。事件半年後の就任演説でトランプは告⽩した。「暗殺者の凶弾は私の⽿を引き裂いたが、私は再びアメリカを偉⼤にするため、神によって救われた」─「明⽩なる天命」体験に憑(つ)かれたような⾔葉だった。ベネズエラ攻撃が国際法違反であるのは明々⽩々だが、トランプは、⾃⾝を拘束する法的規範など持っていない。軍事介⼊の数⽇後、ニューヨーク・タイムズ紙(1⽉8⽇付)の独占インタビューで答えた。「⼤統領権限にも制約があるのではないか」の問いに、「⼀つある。私⾃⾝の道徳⼼、私⾃⾝の考えだ。私を⽌められる唯⼀のものは、それだけだ」。国際法との関係については「私に国際法は必要ない」─。
◇トランプ⽀える新世代エリート
確かに、NSSの戦略論に沿うならば、ベネズエラからの中ロ両国の影響⼒排除が狙いにあったのは事実。だが、トランプの外交原則は、「⼒による平和」と、「利益の体系」に根差した「私益」を絡めた「⼤国益」だ。そのため、今回の介⼊直後の記者会⾒で⼝を突いて出たのは、独裁者追放に続く⺠主的な国家再建ではなく、⽯油施設に⼤規模投資するビジネスを最優先する姿勢だ。⽶国の⽯油企業が参⼊して⽯油インフラを復旧し「われわれがこの国を運営する」と強調した。⽯油権益の確保―ここで⾒えてくるのは、トランプの真の狙いが秋の中間選挙にあることだ。すなわち、世界最⼤の原油埋蔵量を誇るベネズエラで⽯油権益を押さえて、⽶経済に好影響をもたらす。併せて、「強い⼤統領」を演出することで国⺠世論にアピールし、期待感を⾼めるためのだ。ベネズエラ介⼊は、トランプとっての最優先事項をオブラートに包むように実⾏に移された。その最終決断に向けて、準備・調整・環境整備を⾏ったのが、ホワイトハウスの4⼈のキープレーヤーだ。 国務⻑官で⼤統領補佐官(国家安全保障担当、代⾏)を兼務するマルコ・ルビオ、⼤統領次席補佐官でトランプ最側近のスティーブン・ミラー、副⼤統領でトランプの政治的基盤MAGAの代表格J.D.バンス、そのバンスの上院議員時代から安全保障担当顧問を務め、今では国家安全保障担当⼤統領副補佐官に昇格したアンディ・ベイカーが、ベネズエラ作戦のキーマン4⼈衆だった。
第2次トランプ政権(2025年〜)で外交安保政策を⽀える4⼈は、第1次政権(2017〜21年)で主要ポストに就いた経験豊富な年⻑者(以下、いずれも発⾜当初の陣容=副⼤統領マイク・ペンス、国務⻑官レックス・ティラーソン、国防⻑官ジェームズ・マティス、国家安全保障担当⼤統領補佐官マイケル・フリン)と⽐較すると、⾏動的な新世代エリートたちだ。4⼈に共通するのは(1)反「ワシントニアン」(2)1950年代前後⽣まれで伝統的な同盟関係を重視するベビーブーマー世代と違って、90年代に⻘少年期を過ごし、⽶国の圧倒的な強さを信じる世代(3)フリン後の⼤統領補佐官ハーバート・マクマスターやジョン・ボルトンら「⼤⼈たち」への反感(4)トランプへの忠誠⼼と改⾰スピリットを持ち、「⼒による平和」の信奉者―という点だ。
◇ベネズエラ介⼊と4⼈衆の役割分担
「⻄半球」最重視の⽅針を公式に打ち出し、ベネズエラ介⼊の裏付けとなったNSS作成を巡る舞台裏は、実に興味深い。原案は、マイケル・アントン(国務省政策企画局⻑)が主導して書き上げた。8⽉末か9⽉に公表するはずだったが、予定より3カ⽉も遅れた。この間、何が起こったか。各種報道や関係筋の情報を総合すると、アントンのNSS案は、ミラーとベイカーのイデオロギー思想を基に⼤幅に修正された。具体的には、「国境・薬物対策を国家安全保障政策の核⼼」に据えるため、「⼤国間競争に集中すべき」とするアントンの伝統的な国家安全保障観「⾮介⼊主義」案は否定された。当のアントンは、NSSが公表された11⽇後、12⽉15⽇付で政権を去った。ベネズエラ介⼊に当たってのルビオ、バンスを含めた4⼈の⽴ち位置はと⾔えば、実際はそれぞれの⽴場と思惑に、微妙な違いがあった。しかし、各⼈が役割分担しつつ意思統⼀を図り、それをトランプが承認したものだった。 介⼊に最も積極的だったのは、キューバ移⺠の⼦のルビオで、マドゥロを「カストロ主義の落とし⼦」と厳しく批判してきた最強硬派だ。軍事介⼊やマドゥロ拘束後の⽶国としての関与―暫定⼤統領ロドリゲスとの交渉、⽯油セクター再編、⽶議会への説明―を主導している。イデオロギー「⽶国第⼀主義」の番⼈としてトラ ンプを⾄近距離で⽀えるミラーは、「不法移⺠対策」の延⻑線上に今回の軍事介⼊を位置付けた。ルビオと密接に連携、マドゥロ追放後のシナリオを策定した。ミラーの関⼼事は「国境と⽯油」。第1次政権で移⺠政策を主導、今回の作戦では、介⼊後の混乱によって難⺠が流⼊しないよう万全の措置を取る⼀⽅、⽯油権益を⽶国の⽀配下に置くため、介⼊正当化の論拠を案出した。バンスの役割は、⽶国の対外介⼊に慎重なMAGA層への説明だ。ベネズエラへの介⼊が「なぜ不必要でないのか」を、国益の観点から説得する役回りだ。トランプ政権が「国防上の最優先課題」と位置付ける合成⿇薬フェンタニルの流⼊阻⽌と「もともと、⽶国の物であった⽯油資産の回収」、そして、中ロなど「域外勢⼒」をベネズエラから排除するためには⻄半球防衛が不可⽋で、軍事介⼊には戦略的必然があると説いた。新世代の戦略家ベイカーは側近としてバンスの影に徹した。その意向を踏まえつつ国益の最⼤化を図るため、軍との連絡を含めて実務的調整役を担った。作戦を主導したルビオとの関係で⾔えば、ベイカーは、ルビオのようなネオコン的発想―積極拡張・深⼊り路線―には懐疑的。ベネズエラ介⼊も「限定的かつ外科⼿術的な介⼊」にとどめるよう主張した。ベイカーは、ウクライナ⽀援にも同様の⽴場から消極的だ。ここからは、ポスト・トランプ候補のライバル、バンス対ルビオを意識したポジション取りが浮かび上がる。今回の介⼊については、⾃制的なポジション取りで、政権内の均衡を図ったと⾒るべきだろう。
◇「限定介⼊」で済まぬリスク
⽶国の伝統的外交イデオロギー「モンロー主義」を「トランプ2.0」時代に合わせて読み換えた「ドンロー主義」は、次代に向けてトランプの起爆⼒を最⼤限に引き出すため、新世代のエリート、特にミラーとベイカーが「⽶国第⼀主義」の枠組みとして概念化したものだ。このため、「国境」問題を中⼼に⽶国の脅威となる治安レベルの危機ありと判断すれば、「限定的な軍事介⼊」はいつでもあり得るというロジックがNSSの核⼼に在る。ただ、「明⽩なる天命」に憑かれた当のトランプは、まっとうな戦略観を持たない最⾼権⼒者だけに、⼀度介⼊すれば⻭⽌めが利かなくなるリスクを孕(はら)む。前述した介⼊直後の記者会⾒で、マドゥロ後のベネズエラは「⽶国が運営する」と発⾔、泥沼化を恐れるルビオらが慌てて修正した⼀幕は、「ドンロー主義」の危うさを象徴している。(敬称略)(時事通信【外交傍目八目】2026/1/16配信より)
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