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2026-07-05 00:00
(連載2)ロシアにおける体制派と反体制派の認知戦
宇田川 敬介
作家・ジャーナリスト
陰謀論的なアプローチにおいて最も重視されるのは、全く異なる立場にあるはずのグループが、なぜか全く同じロジックや特定のキーワードを使って特定の政治勢力を攻撃しているという奇妙な一致です。例えば、特定の政権や特定の政治家を非難する言説において、隣国の国営メディアが発信する批判のロジックと、日本国内の特定の活動家やデモ隊が掲げる主張が、翻訳したかのように一致することがあります。この視点に立てば、これは偶然ではなく、背後で情報工作のシナリオを書いている司令塔が同一であることの決定的な証拠(スモーキング・ガン)として解釈されます。
この論理では、日本国内でロシアの行動を擁護する声や、逆に過剰に危機感を煽って国内の団結を乱そうとする声も、すべては日本人の防衛意識を削ぎ落とし、社会を内側から崩壊させるためにあらかじめ設計されたプログラムであると考えます。ネット上で一見すると自発的に議論しているように見える一般のユーザーも、実はその多くが工作員によって作られた大量のアカウント(ボットネットワーク)によって流行を捏造された情報に躍らされているか、あるいは無自覚に敵国の「便利な存在」として利用されているに過ぎない、という結論に至ります。
しかし、この事態を国家安全保障や情報戦の専門家が分析する場合、すべてを「一から十まで仕組まれた陰謀」と切り捨てるのではなく、もう一歩踏み込んだ現実的な「認知戦の技術」として捉えます。専門的な知見から見ると、ロシアや中国の工作の本質は、全く無の状態から新しい思想を日本人に植え付けることではありません。そうではなく、日本社会がもともと抱えている「保守と革新の対立」「政権への不満」「将来への不安」といった既存のヒビ割れを見つけ出し、そこにピンポイントで油を注ぎ込んで溝を深める手法をとります。つまり、デモを行っている人々やネットで発信している日本人の多くは、誰かに直接お金で雇われた工作員ではなく、本当に自分の信念に基づいて行動しているケースが大半です。認知戦を仕掛ける側は、彼らが喜びそうな情報や、敵対陣営への憎しみを煽るようなニュースをネット上にそっと配置するだけで済みます。人間は自分の信じたい情報を自ら進んで拡散する習性があるため、工作員が最前線に立たずとも、日本人が日本人を攻撃し合う「自給自足の分断」が自然発生的に完成します。
このように考えると、すべてを巨大な悪の陰謀と捉える視点は、一見すると敵の邪悪さを浮き彫りにするように見えて、実は「日本人は簡単に騙される愚かな存在である」という極端な人間観に陥りかねない側面を持っています。今、日本が直面している本当の脅威は、誰かが裏で糸を引いていることそのものよりも、他国からの情報的な揺さぶりに対して、私たちが過剰に反応し合い、お互いを「敵の工作員だ」「陰謀論者だ」とレッテルを貼り合って社会の信頼関係を自ら壊してしまう、その脆さにあると言えます。(おわり)
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