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2009-04-19 08:20

(連載)アフガン・パキスタン支援で試される日本外交(2)

若林 秀樹  グローバル・フォーラム常任世話人
 そのアメリカだが、先日オバマ大統領は、米軍のイラクからの撤退政策に続く「アフガニスタン・パキスタン包括戦略」を発表し、大統領選挙時の最優先公約であったアフガニスタン政策の実行段階に入った。イラクに続いてアフガンで失敗すれば、アメリカ外交の威信は完全に失墜し、オバマの支持基盤が大きく揺らぎかねないばかりか、今後の米国の外交戦略と国際社会の安定に大きな影響を与えることも必至である。その意味において、アフガニスタンの安定は、米国のみならず、日本を含む国際社会全体のテロ対策の試金石と言っても過言ではない。オバマが「新たな関係国」として協力を求めたロシア、インド、中国等も、傍観者にとどまることは許されまい。
 
 オバマがイラク戦争から学んだことは、(1)軍事力だけではテロとの戦いに勝てず、結果としてその国・地域の安定化にはつながらない、(2)テロ対策には、アメリカを中心とする同盟国だけではなく、出来る限り広く国際社会に理解を求め、全体で取り組むことが重要である、という2点であるとされているが、この「アフガニスタン・パキスタン包括戦略」は、見事にこれらの点を包含している。すなわち、オバマ政権は、広く国際社会に協力を要請し、軍事力によるテロ勢力の一掃や治安維持だけではなく、アフガニスタンの軍や警察の育成、インフラの構築、教育・保健分野を含む様々な民生支援等、総合的な取り組みによりテロの撲滅、アフガンの安定を目指そうとしている。

 すなわち、この戦略は、パキスタンの安定がアフガンの復興・安定に決定的な役割を果たすと考えており、アフガンの西側に接するイランをはじめ、周辺国を地域一体として取り組むことが重要であるとしている。そこで日本の役割は何かが問われるわけだが、確かに日本はアフガニスタンに隣接している地理的に重要な周辺国ではないが、「アフガニスタン復興支援国会議」以降は20億ドルの支援を行い、米、英に次ぐ支援国であることはあまり知られていない。クリントン国務長官も2月の来日時に日本のアフガン支援を非常に高く評価していたのである。

 イラクへの自衛隊派遣は、アメリカを支持する同盟国のシンボリックな行動として政治的効果は大であったが、実質的な復興面での効果としては微々たるものであった。しかし今度は、日本が得意とするインフラ構築、農業・農村開発などの分野の支援が中心であり、米国も日本がアフガンの復興に実質的な効果のある支援を行なうことに期待している。自衛隊派遣が重要ではないとは言わないが、日本が得意とする分野でアフガンの復興が事実上進めば、結果として同盟国のアメリカも助かることになる。そもそも国によって得意分野が違うからこそ協力関係がなりたつのであり、同盟国日本としての協力は、お金だけ出して評価されなかった「湾岸戦争」のトラウマを越え、自信を持ってこの地域の安定化につながる支援を精一杯行うことが重要である。その意味において、このアフガニスタン・パキスタン支援は、今後の日本外交のあり方を占うと同時に、日米協力、日米関係の重大な試金石になることは間違いない。(おわり)
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