国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-04-22 08:28

(連載)攻守所を変えて泥沼化するタイのデモ (3)

関山 健  東京財団研究員
 4月16日現在、首相府を包囲していたタクシン派「反独裁民主同盟」の反政府デモ隊は撤収し、首都バンコクは落ち着きを取り戻したかのように見える。しかし、同幹部は「決して負けたわけではなく、再び帰ってくる」と行動再開を明言している。政府もバンコクと近県に出した非常事態宣言を当面解除しない方針だ。昨年10月以来攻守所を変えて続く一連のデモ騒動は、今後も当面沈静化が見込めないのではないか、と筆者は危惧する。まず、一連のデモは単なる少数派の跳ね返りではなく、地方の農民や都市の貧困層を支持者とするタクシン派と、バンコクの中間層や官僚などのエリートを中心とする反タクシン派との間の、地域格差・階級格差の対立という様相を呈しており、度重なる混乱と死傷者発生の結果、その溝は一層深まっていると見られるからだ。

 また、治安回復を担うはずの軍や警察が、一枚岩ではないのも問題だ。タクシン派も反タクシン派も、それぞれが治安当局の一部を味方につけていると信じており、それが事態を一層複雑化させている。さらに、最大の懸念は、本来なら仲裁役を担うべきはずのプミポン国王が、騒動の一方の側の立場(すなわち王室擁護を掲げる反タクシン派の立場)に近すぎることだ。タイは過去に何度もクーデターを経験してきたが、そのたびに国民の尊敬を集める国王が事態を収拾してきた。

 しかし、今回は、王室に対する立場の違いが争点の一つになっている。タクシン元首相は、3月27日、海外からのビデオ演説において「自分を追い落とした2006年9月のクーデターの黒幕はプレム枢密院議長だ」と名指しした。プレム議長はプミポン国王の側近中の側近とされる元陸軍司令官であり、彼を黒幕として名指しで批判するということは、クーデターを仕掛けたのが王室であると言っているに等しい。実際、反タクシン派はタクシン元首相の発言を「議長を批判する形をとった王室批判だ」として激しく反発している。

 こうした状況にあっては、国王としても仲裁に乗り気でないか、そもそも仲裁に乗り出しても事態を収拾しきれない可能性すらある。日系企業が東アジアで築き上げてきたサプライ・チェーンの要であるタイで政情の不安定が続けば、日本においても「対岸の火事」と涼しい顔はしていられない。デモ合戦泥沼化の可能性にも備えておかねばなるまい。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム