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2009-05-27 09:55

(連載)オバマ大統領の医療制度改革(2)

若林 秀樹  元参議院議員(民主党)
 米国が使っている医療費は全体で約150兆円と言われ、絶対額では圧倒的に他国を上回り、GDPに占める医療費の割合でも先進国の中で相対的に高い方だ。医療費としては膨大な額を使いながら、国民全体にそのサービスが行きわたらないということを考えれば、政策的に欠陥があることは明らかだ。では何故、医療改革が進まないのか。その改革にブレーキをかけている最大の要因は、高齢者や低所得者向けの公的医療保険に対する政府の財政負担である。アメリカは、過去最大の財政赤字の状態にあるが、金融・経済危機への一時的な対応を除けば、「永続的な財政への最大の脅威は、伸び続ける医療コストである」と、オルスザグ行政管理予算局長も、ウォール・ストリート・ジャーナルに最近、論説を発表したところである。

 かつてクリントン政権の1期目に、大統領夫人であった現国務長官が国民皆保険制度を導入しようとして、議会の反対で頓挫した。今回はオバマ大統領が「ヘルスケア改革」を大統領選の公約として前面に打ち出し、5月11日、その「改革案」を具体的な関連予算として盛り込んだ2010年度予算教書を発表した。しかし党派を超えて支持が得られる公的医療保険にも、未だに一部議員の根強い抵抗があり、高い支持率を保持しているオバマ大統領といえども、改革が順調に進むとは全く断定できないのである。

 反対の背景には、国家が運営する皆保険制度を設置すれば、国の財政負担に加え、民間保険会社の事業を圧迫するという理由がある。オバマ大統領は、この2点の問題に現実的に対応すべく、新たな公的保険プランをつくって、国民の保険加入者を増大させる包括的な医療保険改革法の制定を発表した。すなわち医療改革のための大増税を避けるために、「改革案」を医療費の大幅な削減等によって財政中立的なものに仕上げ、皆保険制度といえども、減税などによって個人が民間保険を選択する余地を残している。

 財政的裏付けとしては、(1)ヘルスケア・コストの削減(3160億ドル、5月11日発表の予算教書では2,670億)、(2)年収25万ドル超の高所得者の寄付金控除に対する適用税率の引き下げを通じて、2019年度までに6,340億ドルの改革準備金を設置する内容になっている。オバマ大統領は、選挙公約の中で、もっとも実現が難しいとされるヘルスケア改革に最初に着手するという大きな賭けに出た。年末までにこの包括的な医療保険改革法の制定を目指しているが、ヘルスケアは社会的には待ったなしの領域であり、国民の高い支持を背景に、果たして成果がどこまで挙げられるのか、オバマ大統領の手腕が問われるところだ。(おわり)
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