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2009-06-23 07:41

「枡添首相」では憲政の常道に反する

杉浦正章  政治評論家
 首相・麻生太郎自身と民主党首脳が、その発言において「自民党総裁選挙前倒し反対」で一致してしまっている。思惑は全く異なるが、奇妙な現象だ。こうした中で“溺れる者”がつかもうとしている“わら”のひとつが厚生労働相・舛添要一かもしれない。自民党総裁候補に擬せられている。年金、インフルエンザで露出度が高く、一部マスコミの世論調査で首相にしたい政治家ナンバーワンとなった。しかし本当に総裁候補たり得るかというと首をかしげる。法的には問題ないが、議院内閣制の趣旨に反するからだ。しょせん、わらはわらでしかない。氏名を公表していないから数字は全く信用できないが、山本拓によると総裁選挙前倒しの署名で108人が集まったという。前倒し実施に必要な216人の半数に達したことになる。総裁選候補もいろいろ取りざたされているが、枡添を担ぎ出そうとする動きが出てくるかも知れない。

 とにかく最近の枡添は、政府・与党の意気消沈ぶりに反比例するかのように、やる気満々だ。6月22日の記者会見でほとんどの閣僚が総裁選挙前倒しに反対意見を表明しているのに対して、「党がどうするかは、党のご判断だ」と前向き姿勢。首相にしたい政治家の1位になったことにも、「高い評価をいただくのは大変ありがたい」と述べた。立候補に意欲的と受け取られている。枡添は以前からマスコミへの露出度が高く、民放テレビでは自民党批判の花形であった。親の介護の帰郷というプライバシーもカメラに取らせ、家のゴミ出しをしてまで映像化を狙っている。映像の効果を枡添ほど知る政治家は少ない。福田政権末期に後期高齢者医療制度見直しで麻生に取り入り、見事閣僚留任を成し遂げ、猟官批判が党内に台頭したのは記憶に新しい。

 確かに「選挙向けの顔」の人気度から言えば、麻生よりはましかもしれない。しかし、最近は民主党代表・鳩山由紀夫も含めて、国民が正体を知らなければ知らないほど政治家の支持率が上がり、首相になって幻滅を味わい、急速に下がるパターンを繰り返している。枡添は「知らない」から人気が生じているのであろう。ただ憲政の常道から言って、致命的な欠陥がある。それは枡添が参議院議員であることだ。昨年の総裁選挙では、山本一太が手を挙げた。参議院議員の自民党総裁選立候補表明は初めてだったが、推薦人が集まらず、立候補できなかった。もちろん参議院議員の首相については、憲法67条1項に「国会議員の中から」との規定があり、「国会議員」は衆参両院の議員を指すから、法令上の制限はない。「慣例として」衆議院議員から選出されているだけである。だが議院内閣制をまっとうする以上、問題が生ずる。議院内閣制は衆院多数派が内閣を組織し、国会と国民に責任を負う仕組みだ。参院はこれに対する「チェック機関」「再考の府」であり、首相が参院出身では議院内閣制の趣旨は貫徹できなくなる恐れがある。

 解散のない参議院出身の首相によって解散権が行使されるのも無理がある。憲法学者の多くが改正すべき点として67条を挙げ、首相候補を衆議院議員に限定すべきだとしているのも、それが理由だ。かって宮沢喜一が67年に衆議院に鞍替えしたのも、首相・池田勇人からの忠告があってのことだった。翻って現実政治の場面を想定すると、枡添はたとえ衆議院本会議では首相に任命され得ても、参議院では野党多数で否決される。参議院出身の首相候補が参議院で否決されて、衆議院優位で首相になるという奇妙な現象が生ずるのだ。その首相が直ちに衆議院を解散することになる。空想するだに噴飯もので楽しい。それほど無理をして、憲政の常道に反する首相を自民党が選出して、総選挙に勝てるだろうか。麻生による選挙とたいして変わらない結果となるのがオチだ。
 
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