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2009-07-23 10:24

(連載)宇宙空間と国際政治(1)

矢野 卓也  日本国際フォーラム研究員
 さる7月20日は、人類が初めて月面に足跡を残してから、ちょうど40周年にあたった。1969年の同日、米国の有人宇宙飛行計画アポロ11号の一環として、月面着陸船「イーグル」の船長ニール・アームストロングと操縦士バズ・オルドリンは月の「静かの海」に降り立ち、およそ2時間半に及ぶ船外活動を行うという人類的偉業を成し遂げたのだ。冷戦さなかの1957年、いわゆるスプートニク・ショックで、宇宙開発における国際的首位の座をソ連に脅かされた米国は、翌58年に国立航空宇宙局(NASA)を設立し、本格的に宇宙開発に梃入れしたが、その10年後に早くも月面有人探査を成し遂げたことになる。冷戦には、東西両体制の比較優位をめぐる「文明の総力戦」とでも呼ぶべき側面があったが、米国は、このアポロ計画によって、西側の文明的優位性を世界に向けて発信することができた。

 それから40年。歴史はおおいなる変貌を遂げ、それに伴い国際社会と宇宙との関わりも着実に変化している。今後の宇宙開発のあり方はどのようなものとなるのだろうか。周知のとおり、アポロ計画のような巨大宇宙開発プロジェクトは、冷戦の終焉に伴い、その歴史的使命を終え、その後は衛星打ち上げや無人探査など、より安価で安全な宇宙開発へと重点が移されるようになった。そして米ソ中心に展開されていた宇宙開発は、もはや両国の独占物ではなくなり、アジア諸国やEUを交えつつ、国際協力関係を強めながら今日に至っている。たしかに、宇宙開発に投じられる予算を国別に比較すれば、依然、米国が突出しており、ロシアでもソ連崩壊後一時は停滞していた宇宙開発がにわかに復活の兆しをみせている。

 しかし、この分野で近年、目を見張る成長を遂げているのが、中国やインドなどのアジア勢であり、宇宙開発に投じられている国家予算はいずれも毎年2桁の上昇を示している。中国にいたっては、月と火星に有人探査機を送り込むという長期計画を発表してもいる。EUも、衛星打ち上げロケットや衛星測位システムの開発に力を入れ、独自に宇宙開発を強化しつつある。このように「多極化」が進む宇宙開発であるが、この分野では、先にも述べたように国際協力が進んでおり、宇宙空間を舞台とした「スターウォーズ」さながらの国際紛争が起こる可能性は、予見しうる将来において、きわめて低い。理由はいくつかある。

 宇宙空間における戦闘行為自体、途方もない経費がかさむという予算上の問題、あるいは人工衛星を互いに攻撃しあった場合、爆破された衛星の破片(スペース・デブリ)が、そのまま敵・味方かまわず危険な障害物となってしまうという技術的な問題などがそうである。しかし、それよりも何よりも重要なことは、宇宙空間とて所詮、地上の延長であり、国際政治の鏡でしかない、という事実である。いうまでもないが、核兵器、通常兵器を問わず、武力の存在自体が国際政治のあり方を一義的に定めるのではなく、各国の思惑、戦略が幾重にもからまって、国際政治の現状は規定されている。その意味において、宇宙空間の論理もまた地上の論理が反映されるのであり、開発の推進自体が宇宙空間をきな臭くするわけではない。(つづく)
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