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2009-07-28 07:52

重大な欠陥を抱えた民主党マニフェスト

杉浦正章  政治評論家
 民主党のマニフェストは、政治機構改革、財源、外交・安保において大きな欠陥を抱えたものとなった。社説など全国紙の論調もこれを指摘する傾向が強いが、なぜか28日付の朝日新聞社説だけは、これらの問題点に一切触れず、礼賛型社説を貫いている。マニフェストの問題点を分かりやすく説明するために同社社説から説き起こすこととする。焦点の財源問題について朝日は「800兆円を優に超す財政赤字が将来世代の負担として積み上がった。この半世紀というもの、自民党政権が当たり前のように続けてきた税金の分配システムである。これを抜本的に組み替えることで、公約実現を図る」と、逆に自民党に切り返している。公約実現は意思決定の仕組みを変えればできるとの判断に同調している。これを同社編集委員が27日のテレビで「財源が問題と言うが、自民党は10年間で300兆円の借金を増やしている。ひとのことを言えたものではない」と発言していることと考え合わせると、実に興味深い。

 朝日の社論は、「財源批判には、歴代自民党政権の累積赤字で切り返す」ことで統一されたのだろう。同紙は財源問題で、これまで「どこをどう節約するのか。それでも足りない分は国債に頼るのか。そこがあいまいでは、有権者は納得できまい」(23日付)と主張してきたが、あきらかに“マニフェスト納得型”に転換したのだ。記事で「ばらまき感、色濃く残す」と指摘しているのとも食い違う。しかし朝日の社説・論調には致命的な欠陥がある。マニフェストが消費税にほとんど言及していない点を無視していることだ。その800兆をどうするかについて、少なくとも自民党は消費税の導入を打ち出しているが、民主党は4年間引き上げない点を強調している。

 いわば民主党は、800兆のうえにあぐらをかいて、“ばらまき”政策を実行しようとしているのだ。消費税導入なしで、いかに財政再建を成し遂げるのかに言及がない。これに対して読売は「国の総予算207兆円の組み替えで巨額の財源を本当に確保できるか、との疑念が依然残る」。毎日も「財源をムダ削減や埋蔵金の活用などでひねり出すとの説明には、より裏付けが必要だ。特に消費税に関しては、鳩山代表の4年間引き上げしない方針すら記されなかった。これで責任政党とは言い難い」と手厳しい。要するに、朝日はここまで民主党を有利にもってきた以上、責任政党論などは棚上げにして、“落ちた犬”である自民党を叩き続けようと言うこととしか思えない。不偏不党の標ぼうにもかかわらずである。

 更にマニフェストの問題点としては、事務次官会議の廃止がある。毎日は「各省次官が政策を事前調整し、閣議の形骸(けいがい)化をもたらす事務次官会議の見直しは評価できる」と単純に賛成しているが、これは理解度が足りない。膨大な政治機構が抱える問題を事務次官会議が“ろ過”して、政治の効率を高めていることを忘れている。何も知らない政治家が閣議で“知らぬ同士のちゃんちきおけさ”に陥らないための、重要な役割である。官邸詰め記者を12年やった経験から言って、事務次官会議がなかったら、閣議は一日かかっても時間的に足りないだろう。問題は官僚の積み上げた問題を判断する目が政治家の側にあるかどうかなのだ。いずれにしても事務次官会議なしでやってみると面白い。閣議は早晩パンクする。名前を変えた事務次官会議がすぐに登場する。

 外交・安保では重要な問題を避けている。反対していたインド洋での海上自衛隊の給油活動やソマリア沖での海賊対策に言及しなかった。当面は継続する方針を幹部が明言しながらである。あまりにも憶面もない政策転換に、文字にするのが恥ずかしいのだろうか。それとも党内左派と社民党への配慮か。このように民主党マニフェストは、重要案件で欠陥、盲点が目立つものとなったが、いまの有権者にそれを説得しても無駄かも知れない。小泉郵政選挙と同様にムードにおされた結果、判断が民放テレビが音頭を取った“民主党ええじゃないか”に陥っている。江戸末期に民衆が囃子言葉の「ええじゃないか」を連呼しながら、集団で町々を巡って熱狂的に踊ったあの“ええじゃないか”である。
 

 
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