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2009-08-04 09:40

(連載)理解に苦しむ日本政府の対露政策(2)

袴田 茂樹  青山学院大学教授
 昨年11月にリマで麻生首相は、経済関係のみが発展して平和条約交渉が進展していないことに強い不満を述べた。ここで理解に苦しむのは、日本政府の対露アプローチである。経済関係と平和条約交渉がバランスを欠いていると強い不満を述べながら、今年5月にプーチン首相が訪日したときも、日本は大目玉の原子力協力をはじめとして、またもや盛りだくさんの経済協力協定を結んだ。これで日本側は、平和条約交渉のための対露カードを使い切ったとさえ言える。この日本側のアプローチにより、ロシア側はひとつの明確な結論を下した。「領土問題に関する日本政府の主張は、国内向けの建前で、本音はロシアとの経済協力にある」と。

 ロシアのマスメディアはプーチン訪日後一斉に「日露間で領土問題はすでになくなった」という意味の報道を行った。「理解に苦しむ」と述べたが、政府の一見矛盾した不可解な行動の背景は、じつは明確だ。政府は「型にはまらないアプローチを」と述べたメドベージェフ大統領が、7月のイタリアでの首脳会談で1956年宣言を超える新たな提案をするとの期待を抱いたのである。これは日本側の一方的な思い込みであった。ロシア側が「型にはまらないアプローチを」と述べたとき、それは日本側に求めたのであって、ロシア側がプーチン提案(つまり1956年宣言の強調)を超えるアプローチをするつもりは一切なかったのである。

 大統領、首相いずれの周辺においても、そのような具体策を検討したという気配は一切存在しない。「現在は、平和条約解決の絶好の機会である」というのは、日本政府の一方的な思い込みに過ぎない。ロシア関係の情報では、日本政府はその楽観的な期待に添う情報のみを、意図的に流してきた。北方領土を日本固有の領土であるとした北方領土問題等解決促進特別措置法(北特法)の改正案が国会決議として採択されたこととか、麻生首相が国会で北方領土が不法に占拠されていると述べたことが、ロシアの態度を硬化させたので、そのためにイタリアでの日露首脳会談が失敗した、というのは全くの間違いである。これらの発言や決議の内容は、日本側がこれまで公式に一貫して述べてきたことだからである。

 実際、これらの発言、決議が出る前から、ロシア側には新たな解決案提示の動きは一切なかった。北特法は単に口実として利用されただけである。日露間の関係が、バランスを欠いているというのであれば、日本側がしなければならないことは、そのバランスをさらに崩すことではなく、そのバランスを是正するためにできることをするアプローチである。北方領土問題に関して大切なことは、日本側がこの問題を日本の主権に対する侵害として真剣に臨んでいるということを、ロシア側にしっかり理解させることである。北方領土問題に関して、日本側の気を持たせるロシア側の発言が、経済協力を進展させるための「馬の前の人参」であることに、日本政府はそろそろ気づくべきである。(おわり)
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