国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-09-05 09:52

(連載)自民党に明日はあるのか(3)

水野 勝康  特定社会保険労務士
 それでは、衆議院119、参議院81という巨大野党は何処へ行くのか。まさか、このまま旧社会党のように万年野党になることを望むわけもない。そうすると、次期総選挙での政権奪取を狙うのが当然と言える。衆議院の119議席は決して少ない数ではない。2003年の衆議院議員総選挙で民主党が獲得した議席は177議席、2005年が113議席であった。最近の総選挙では、小選挙区制の特質が反映されて、議席数が大きく変動することが多い。現行の小選挙区比例代表並立制が維持される限り、再度の政権交代は可能であろう。問題は、どのような戦術で政権復帰を狙うかと言うことである。ここでは、郵政選挙で敗北した後の民主党のように、候補者に徹底的などぶ板運動をさせるということが考えられる。

 鳩山次期首相は「4年間解散しない」と言っているし、実際308議席もあるのに任期途中で解散して、議席を減らすというのは考えにくい。郵政選挙に勝利した自民党も、解散を任期満了近くまで引き伸ばしている。次の選挙までほぼ4年間あることになるので、自民党の候補者が今からどぶ板活動をはじめれば、民主党の現職議員にとっては大きな脅威となるだろう。実際、今回の総選挙で民主党候補が勝利した原因のひとつは、小沢流のどぶ板選挙を候補者が実践したことにあると言われている。どぶ板戦術は、小沢一郎代表代行の師である田中角栄元首相に遡る古い戦術だが、現代においても有効であることが証明された。田中元首相は実力者になった後は選挙区にほとんど帰らず、脳梗塞で倒れた後の最後の選挙では本人は全く顔を出さなかったが、若い頃は車も通らないような雪深い山奥の村を徒歩や馬でまわり支持を訴えていたという。

 問題は、自民党の候補者がどぶ板選挙をやれるかということである。昨日まで「先生」と呼ばれて、官僚や秘書にかしずかれていた人が、どぶ板をやるのは簡単ではない。何より、自民党がいつ次期総選挙の候補者を決めるのかが、はっきりしていない。自民党の公認は、地元の地方議員らの同意を経て決定されることが多いから、党本部が決めて落下傘で送り込んでいる民主党に比べると、決定に時間がかかる。候補者が決まらないまま時間だけが過ぎていくということになれば、選挙前に十分な活動をするのは難しくなる。民主党の当選者を見ると、2003年と2005年の総選挙に落選し、三度目の正直で当選した議員が散見される。長い人は6年以上活動を続けてきたわけだ。浸透するにはそれなりの期間が必要だ、と言うことだろう。また、民主党としてもどぶ板選挙の有効性を認識している以上、特に初当選した新人議員に対しては、今後も地元に張り付くことを指示するのではないかと思われる。実際、岡田克也幹事長は当選した新人に対して「上京を自粛し、地元でお礼参りをするように」と指示している。

 1997年にイギリスでは労働党が保守党から政権を奪還したが、労働党の新人議員は当選後も地元に張り付き、ブースロイド下院議長から「議員の使命は国会、次の選挙で勝つことではない」と苦言を呈されたことがあった。それでもどぶ板は続けられ、議長の苦言は効果が無かったと言われている。日本では同じ議院内閣制を採用していることもあって、アメリカと並んでイギリスも選挙制度改革でモデルにされたが、そのイギリスでもどぶ板は当たり前のことになっているのである。1997年当時のイギリス労働党の一年生議員のうち、「選挙区の仕事が最重要」と考える議員は9割を超えていたそうである。いきおい外交や安全保障は「票にならない」ということで、敬遠されることになった。日本でも同じことになる可能性が高いのではないかと思われる。

 自民党がこれからどぶ板をはじめても、民主党に勝つのは簡単ではないが、他に取り得る手はないように見える。もともと、政策的には自民党は民主党と大きな政策の違いはない上に、自民党が現実への妥協を重ねたように、民主党もまた現実への妥協をせざるを得ないであろう事は容易に想像できる。一方で自民党が極端な理想主義に走るとは考え難い。そうすると、今後も自民党と民主党の政策に大きな違いは生じないと思われる。与党である間は「権力の分配」ができたが、野党になればそれも不可能だ。そうすると、やはり地道な活動が政権奪還への一番の近道になるのではないか。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム