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2009-11-18 19:08

アジア外交演説に見るオバマ大統領のしたたかさ

関山 健  東京財団研究員
 11月14日、来日したオバマ大統領が東京サントリーホールで行ったアジア外交演説は、無駄のないしたたかさを感じさせるものであった。まず日本やアジアとの個人的つながりへの言及で話を起こし、日米関係を持ち上げたうえで、日本、韓国、オーストラリアなどの伝統的パートナーとの協力や、中国などの新興国の取り込み、さらにはASEANや東アジア・サミットなど地域内の多国間枠組みとの連携について、その重要性を指摘し、取り組むべき課題として貿易自由化、気候変動対策、核不拡散などを挙げた。すなわち、アジア太平洋地域の各国と共に国際課題解決に取り組んでいきたいとの姿勢を鮮明にした内容である。

 その背景には、金融経済安定、気候変動対策、核不拡散といった米国の優先的国際課題の解決に向けて、日本も、中国も、東南アジアも、APECのような多国間枠組みも、使えるカードは全て使いたいという意図が読み取れる。特に、これらの課題解決に中国の協力は不可欠だ。この点、オバマ大統領が、中国に言及した部分でも、域内の人権問題に言及した部分でも、中国国内の人権問題には一切触れなかったことは興味深い。これは、オバマ政権は同じ民主党のクリントン政権などとは異なり、中国の人権問題を殊更に批判するようなことはせず、むしろ協力パートナーとして密接な関係を築いていきたいという考えの表れだ。

 ただし、日本の頭越しに拙速な米中関係強化へ走れば、ジャパン・パッシングを危惧する日本の協力を得にくくする。この点でも、オバマ政権はクリントン政権とは異なり、日本への配慮を欠かさない。実際、オバマ大統領は就任以来一貫して日本重視の姿勢を鮮明にしてきた。演説の中でも言及したとおり、クリントン国務長官の最初の訪問国として日本を選んだり、その直後にオバマ大統領がホワイトハウスに招く最初の外国要人として麻生総理を受け入れたりと、日本を安心させるパフォーマンスをく繰り返してきている。今回の東京演説の中でも、日米同盟の重要性を強調し、北朝鮮の拉致被害者問題にも配慮を見せるなど、日本への配慮がにじむ。

 そもそも今回、短い滞在日程になろうとも日本からアジア外遊を始め、就任後初のアジア外交演説を東京で行うパフォーマンスにも、オバマ大統領のしたたかな戦略を感ぜざるをえない。アメリカが、多くの国際課題の解決において日本の協力も中国の協力も不可欠だと考えているのであるから、日本も、アメリカや中国のどちらか一方に肩入れするのではなく、いずれとも冷静で良好な関係を維持したうえで、必要に応じてアメリカ、中国、さらにはASEANやEUなどの間で距離感を調整しながら、日本自身の利害を踏まえた協力や妥協を引き出していく戦略が望まれるところだ。
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