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2009-11-27 20:28

9・11テロは、戦争なのか、犯罪なのか

茂田 宏  元在イスラエル大使
 11月13日、米司法長官エリック・ホルダーは、9・11テロの主犯とされるハリド・シェイク・ムハンマドと共犯者4名をニューヨーク連邦地裁で裁判にかけることを発表した。この決定は、9・11テロ犯をどう考えるか、アルカイダとの戦いを戦争と考えるか否かについて、ブッシュ政権とオバマ政権を明確に区別する決定である。9・11テロが戦争行為であれば、それを企画・実行した者は刑事被告人というより、戦争における敵対者である。戦争における敵対者は、敵国の兵士であれば、そのことだけを理由に殺害してよい対象になる。生きて捕らえられた兵士は、捕虜になる。しかし捕虜であるためには、要件がある。敵国の正規兵として戦闘に従事していること、あるいはレジスタンス兵であれば武器を携行し、戦闘員であるとの標識を帯びていることなど、ジュネーブ条約で定められている。戦争犯罪を犯した者は裁判にかけられるが、これも通常の刑事裁判ではない。

 他方、刑事被告人は、被告人としての人権を保障されたうえで、証拠についても、より厳格な規則が適用される。ブッシュ政権は、キューバのグアンタナモ基地にシェイク・ムハンマドなどを拘禁、敵性交戦者として取り扱い、彼らを裁くために軍事法廷を作ってきた。オバマ政権の今次決定は、シェイク・ムハンマドを刑事被告人として通常の刑事裁判で裁くとの決定であり、9・11テロを戦争行為としてではなく、犯罪として取り扱うと言うことでになる。国際法は、9・11テロのような行為にどう対応するかについて、明確な規則を有していない。ブッシュ政権のような考え方も、オバマ政権のような考え方も、共に成り立つ。しかし国際法上、こういう事態にどう対応すべきかについての規則の欠如やあいまいさは、今後、是正に向け、検討されるべき課題であろう。

 シェイク・ムハンマドとその仲間は、ブッシュ政権時代に9・11テロの企画者・共犯者であることを認め、自白する用意がある、早く軍事裁判を開き、死刑にして欲しいとの要望を提出したことがある。それにより殉教者として神に召されることを望んだとされている。シェイク・ムハンマドがニューヨーク連邦地裁でも同じ態度に出れば、裁判は順調に進み、1年以内には判決が出るだろう。しかしシェイク・ムハンマドその他が、裁判をアルカイダの思想の宣伝に使うために法廷闘争をするという決断をすると、話は複雑になる。9・11犯行に加わるべく準備をしていたが、実際には加わらなかったムサウニ(20人目のハイジャック犯と呼ばれた)は、まさにそういう法廷闘争をした。

 なぜならば、刑事手続きとしては、シェイク・ムハンマドがこれまでの取り扱いについて多くの苦情を言いうる立場にあるからである。水責めを拷問と言えるし、パキスタンでの拘束自体の合法性を争いうる。更に証拠の開示を求め、米の情報機関がどういう情報収集をしているかを、オサマ・ビンラーデンなどに最後の奉公として知らしめることを試みるかもしれない。不正に入手したものとして、多くの証拠が証拠能力を失うこともありうる。そういうことになると、オバマ政権は国民から強い批判を受ける恐れがある。この裁判はアルカイダのテロは犯罪なのか、戦争なのかの問題を、今一度原点に返って考える材料を提供するだろう。同時に、米のこれまでのグアンタナモでの対応も、弁護側の出方によっては、精査の対象になるだろう。
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