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2010-03-19 21:44

第二次大戦後体制の矛盾を突くイラン

石川 純一  フリージャーナリスト
 イランが濃縮度20%のウラン濃縮に成功し、国際原子力機関(IAEA)がイランの核兵器獲得の危険性を初めて公式に認めた。21世紀の今の世界で果たして核が抑止力を持ち得るのかどうかはなはだ疑問だ。膨大な核を抱えていても、米国は2001年9月11日の同時多発テロを防ぐことはできなかった。中東に関して言えば、核を保有していることが公然の秘密となっているイスラエルは、1973年の第4次中東戦争を防ぐことはできなかった。旧ソ連はハリネズミのように核を抱え込んでいたが、崩壊を回避することはできなかったのである。

 米、英、仏、旧ソ連(現ロシア)、中国のいわゆる「核クラブ」は、世界で最初に核兵器を開発した利権を維持しようとして、核拡散防止条約(NPT)を成立させ、他国が新たに核兵器を獲得することを禁止している。核物資や核に関する技術と装置は、たとえそれが平和利用を目的とする原子力発電用のものであっても、IAEAの厳しい監視下でしか導入を許されない。が、国際政治の力学の中で、インド、パキスタン、北朝鮮が核兵器を保有し、イスラエルも既述のごとく核兵器保有が確実視されている。

 自分は核を保持していながら、相手が同じように核を保持しようと動いたら、「持つな」と恫喝する。これほど虫のいい話はない。だが、核に関してだけは、こういった矛盾をそもそも抱えているのが、現実の国際社会といっていい。これを受け入れるか、拒否するかで、同じ仲間に入れてもらえるか、それとも袋だたきにされるか、が決まる。訪日したイランのラリジャニ国民議会議長は2月25日、東京都内のホテルで講演し、1979年のイラン革命に伴い米国が核燃料に関する契約違反を行ったことが問題の原点だと強調した。米国は、革命まではイランの核開発に協力しておきながら、革命後はイラン敵視に転じたと、米国を攻撃したが、それもこの点を訴えたかったからだろう。

 イランにおける核開発の歴史は、革命前の1957年に米国との間で原子力平和利用に関する協定を結んだのに始まる。1974年には、米国が実験用原子炉を提供し、同年イランはNPTを批准した。その後、イランは、仏、カナダ、ドイツとの間で原子力平和利用に関して契約を結び、仏との間ではウラン濃縮、ドイツとの間では原子力発電所について交渉が進んでいた。ところが1979年にイラン革命が勃発し、米国と同盟関係にあったパーレビ体制が崩壊すると、西側は一斉にこういった協力関係から手を引いた。これに対して、イランは、1980年代初期に自力で原子力平和利用計画を推進する方針を決定し、レーザー、ウラン濃縮、遠心分離などあらゆる方法を追求することを決定してしまう。

 「米国は自ら大量の核兵器を保有する一方で、イスラエルの核兵器に見て見ぬふりをしている。米国こそが問題の根源だ」というのが、ラリジャニ議長の言だが、核クラブの歴史、それの抱える根源的な矛盾を勘案すると、ラリジャニ発言が「うそで固めたもの」という指摘は当たらない。第2次大戦の戦勝国が国連安保理の席を独占し、核クラブを構成して、既得権益を維持しようと奔走している。これを「まあ、そんなもの」と認めいるのが今の国際社会である。反対すればイランのように袋だたきにあう。
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