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2010-03-30 20:20

石油主権争奪闘争と「人間万事塞翁が馬」の故事

石川 純一  フリージャーナリスト
 2006年12月30日に刑死したサダム・フセイン元イラク大統領が生前の政治業績に関し唯一全世界に誇れるものがあったとしたら、それは1972年の「イラク石油会社」(IPC)国営化だけである。バース党(アラブ社会主義復古党)の主導する革命指導評議会(RCC)副議長の地位にあったフセインは、国家計画委議長として、ソ連の支援を得ながら、IPCを支配していた英米仏蘭4カ国資本を相手取り、権謀術数の限りを尽くして戦い、そして国有化に成功した。イラク人石油技術者の養成にも成功したのである。石油の販路も独自に開拓した。

 同じことを、それから遡る約20年前の1951年にペルシャ湾を隔てたイランでやろうとした男がいた。モハンメド・モサデクだ。当時のイラン首相である。英国人のウィリアム・ダーシーが1901年、ペルシャ(現イラン)の皇帝から石油採掘の利権を獲得、7年余の試掘を重ねた末に1908年、ついにイラン南部で油田を発見する。このときダーシーは、アングロ・ペルシャン石油という採掘・供給会社を設立した。これが、現在の石油メジャー、ブリティッシュ・ペトロリアム(イギリス石油、BP)のそもそもの始まりだ。

 英国は1914年、第1次大戦で使用する燃料確保のため、400万ポンドもの大金を出して、アングロ・ペルシャン石油株式の50%以上を獲得、半官営化した。この状態は1970年代に完全民営化されてBPとなるまで続いた。要するに、石油という最大・最高の主要エネルギーをそもそもの発端から牛耳ってきた英国を、「アングロ・イラニアン石油会社」から放逐し、イラン石油公社として国営化しようとして、最終的に失脚させられたのが、モサデクだ。モサデクの代わりに西側が推したのが、1979年のイラン革命で放逐されたパーレビ元国王だ。

 時代は、朝鮮戦争からベトナム戦争へと、米ソの「冷戦」が真っ盛りのときだった。モサデクは失脚したが、フセインはベトナム戦争にかかりきりの米国を尻目に、イラク石油会社を国営化した。1973年の第4次中東戦争を境に、産油国が石油主権奪還闘争の主導権を掌握し始めたことも、フセインを後押しした。露骨にフセイン打倒を叫べる時代ではなかったのである。が、そのフセインも、21世紀に入ってイラク戦争で馬脚をあらわし、政権を追われて、刑死した。逆にイランでは、モサデク追放を英国とともに画策し成功した米国が、イラン革命でほぼ完全に影響力を失って、現在のイラン核問題を巡る紛糾に至っている。「人間万事塞翁が馬。禍福はあざなえる縄のごとし」とは、国際政治にも当てはまる。
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