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2010-05-17 22:34

(連載)普天間基地移設問題に思う(1)

水野 勝康  社会保険労務士
 ラテン語に「pacta sunt servanda」という言葉がある。日本語に訳すと、「合意は守られるべし」という意味になる。ローマ法に由来する近代西欧法の基礎的な考え方のひとつで、私は千葉大学の田中宏治先生が大阪大学におられた頃、講義をはじめるにあたりこの言葉を教わった記憶がある。合意は守られなければならない。これは近代法の大原則であり、合意を一方的に破っていいということになったら、近代社会は成り立たない。これは国内問題だけでなく、外交問題も同じであろう。

 普天間基地移設に関しては、日米合意が既にあった。その骨子は、沖縄県内に代替基地を建設する代わりに、普天間基地を日本に返還するというものであった。沖縄県にしてみれば、普天間基地が移転しても同じ沖縄県内に基地が残ることに変わりはないのだから、不満のある内容であったろうが、徳之島等への移転を含めても、結局のところ現行案が最良ということで、日米両政府が合意していたのである。ところが、鳩山民主党は、これを「見直す」ということを公約にして総選挙を戦い、沖縄県民はこの公約に飛びついた。そもそも外交上合意したものは、仮に国内の意思統一ができたとしても、相手国の合意がなければ、変更したり、撤回したりすることはできない。ところが、鳩山総理は、それが可能であるという期待を、有権者、特に沖縄県民に抱かせてしまった。そして、徳之島への一部移設やくい打ち桟橋方式をアメリカ側に提案したものの、一蹴されている。

 軍隊は普通の組織よりも自己完結性の高い組織だが、特に海兵隊はそれが顕著である。海兵隊員は全員がライフルマンであり、将軍であろうが、二等兵であろうが、ライフルマンがコンピューターを操作し、航空機を操縦することになっている。全員が過酷な基礎教育を受けて、ライフルを自由に操れるようにするところから、海兵隊の教育がはじまるのだから、海兵隊は必然的にそこらの学閥など足元にも及ばない団結力を誇っている。「天国のような任務は陸海軍に、地獄の任務は海兵隊に」「一度海兵は永遠に海兵」などの言葉からも、この組織の強固さがうかがえる。このような組織を分散させようとするのは、仮に問題になっている地が沖縄でなかったとしても、容易なことではない。鳩山総理は内閣総理大臣として普天間基地問題に取り組むようになるまで、海兵隊が抑止力であることを知らなかったというのだから、安全保障政策に関してどれだけの勉強を就任前にしていたのか、首をかしげたくなる。

 これでは、アメリカ側を説得できないのは、むしろ自然とさえ思えてくる。恐らく、アメリカの外交・安全保障分野の専門家たちは、安全保障のことをろくに知らなくとも総理大臣になれる日本と言う国を、不思議がっているのではなかろうか。沖縄の海兵隊が、北東アジアのパワー・バランス維持のため果たしている役割の大きさは、ここでは改めて述べないが、それに「出ていけ」と言うならば、自衛隊が海兵隊に替わってその役割を担うくらいのことを言わなければ駄目だろうが、それには自衛隊の装備から集団的自衛権まで見直す必要があるので、現状では普天間基地移設以上にハードルが高いと言わざるを得ない。(つづく)
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