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2010-07-15 07:24

小沢に詫びを入れる菅に宰相の矜持ありや?

杉浦 正章  政治評論家
 宰相としてのあるべき姿を述べるならば、少なくとも対峙(たいじ)してきた相手に安易に謝罪すべきではない。政治信条を問われるからだ。首相・菅直人が小沢一郎と会談して、選挙結果をわびるというのである。「しばらく静かに」との脱小沢宣言が菅政治の基本であるはずだ。それが「韓信の股くぐり」をしようというのだから、感心しない。消費税を唱えて選挙に敗北したのは、首相としての信条の発露である。永田町政治の感覚で陳謝すれば、その写真や映像で支持率はさらなる急落を続けるだろう。選挙後の菅のお詫び行脚が続いている。鳩山由紀夫、前原誠司、岡田克也ら代表経験者に加えて、連合会長・古賀伸明らに会って、「私の消費税発言で重い選挙になったとお詫びしたい」と陳謝しているのである。

 ここまではいいが、問題は小沢へのお詫びだ。これは性質が違ってくる。菅は、7月14日朝、京セラ名誉会長・稲盛和夫を急きょ官邸に招いて、約40分間にわたり会談している。狙いは何かというと、どうも小沢との会談の斡旋を依頼することにあったらしい。小沢は投票日直前から姿をくらまし、党役員でも閣僚でもないことを理由に、どこにも姿を見せていない。事務当局を通じても話は進まない。菅は小沢と親しい稲盛に斡旋を依頼せざるを得なくなったという構図だ。実際、会談で菅は「小沢さんと会える日時が決まっていない」と漏らしたと伝わっているが、これは斡旋を依頼したという意味だ。菅は、記者団に小沢との会談に固執することについて、代表経験者に詫びたことを挙げ、「ほかの代表者と同じような形で(小沢氏にも)申し上げたい」と、小沢に陳謝することを明らかにしたのだ。

 狙いは何か。まず第一に、党代表選挙をスムーズに展開したいとの思惑が挙げられる。幹事長・枝野幸男の更迭論が収まらない中で、小沢と人事の調整をしようにもできないのである。「代表選まで現体制」という菅の発言は、小沢に対する誘い水でもあるのだ。小沢が乗ってくれば、枝野更迭もあり得ることを示唆しているとも受け取れる。次に、菅は側近らに「公明との連携を実現するパイプ役がいない」と漏らしているという。これは重大な発言だ。公明との連立を目指していることをうかがわせるからだ。小沢はこの事態を見越して、市川雄一との一・一ラインを通じて、創価学会幹部と会談するなど布石を打ってきている。菅にしてみれば、選挙後は小沢への依存度が高まる一方なのである。

 小沢にしてみれば、この構図はとっくに読めていたのであろう。だから姿をくらました。菅が自分を必要とすることが分かっていれば、本当に「しばらく静かにしている」のが得策なのである。だから菅はしびれを切らして、マスコミを通じて小沢に謝る意向を表明したのである。しかし韓信の股くぐりは大志を抱くものが小さな恥辱に耐えるものであり、国家のリーダーがこれまで遠ざけてきた「政治とカネ」まみれの政治家に陳謝して「大きな屈辱」を味わえ、という教えではない。菅が陳謝した瞬間に、「小沢支配」がこの政権で復活しうることを意味しているのだ。小沢を遠ざけ、小沢が批判し続けた消費税増税を唱えたことは、菅の政治信条と受け取られている。陳謝することは、この信条を撤回し、小沢の路線に屈することにほかならない。市民運動出身の政治家というのは、自らの信条も、矜持もさておいて、憶面もなく長いものには陳謝する癖がついているのだろうか。首相としての矜持はどこに行ったかと言いたい。 
 
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