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2010-07-31 08:10

(連載)不法移民問題をめぐるアメリカ国内の論争(1)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 アメリカは長年移民問題で論争が絶えない国であるが、現在、不法移民の問題で最も白熱した論争が繰りかえされている。アメリカの不法移民の数は、1100万人に達し、大半はメキシカンであると言われているが、移民法をめぐって連邦政府とアリゾナ州は歴史上かってない戦いを起こしている。これは憲法に関わる非常に重要な問題であり、アリゾナ州を支持する側と反対する側との間で激論が展開されている。 

 問題のいきさつとなったのは、不法滞在者の人口増加に伴い、麻薬犯罪や人身売買の問題を懸念したアリゾナ州が、4月23日に上院法案(SB1070)として州独自の移民法を制定し、1週間後に州知事が署名したことである。この法は、7月29日から施行されるはずであったが、移民法は連邦政府に権限があり、州独自で制定したこの法の一部は憲法違反であるとして、施行前日の28日に、アメリカ合衆国地方裁判所のスーザン・ボルトン判事はこの法の最も肝心な部分、つまり人道的に問題があるとされている部分のみを封鎖する結果となった判決を下した。これを不服としたアリゾナ州は、次ぎの段階として、サンフランシスコを拠点とし、カリフォルニア州、ワシントン州などを含む最も大きな裁判所であるアメリカ合衆国第9巡回裁判所に控訴すると反発している。場合によっては最高裁まで持ち込まれる可能性がある。

 7月28日に一般公開されたアメリカ合衆国対アリゾナ州の判例文書No. CV 10-1413-PHX-SRBによると、SB1070にはかなり多数の細かい内容が規定されているが、合計13の条項で構成されている。基本的には、連邦政府の移民法は手ぬるいとして、アリゾナ州政府が州内で移民法の強化を義務づけることを目的として制定されたものである。論議の中心になったのは、主に条項2―B、条項3、条項5―C,条項6―Aの4項目であり、アメリカ合衆国地方裁判所はこれらの部分を違憲としている。SB1070の条項2―Bは「ある一定の状況下で警察官がある特定の人物に尋問する」ことを合法化している。この条項の争点は、どのような状況下でどのような人物が疑わしいのかを具体的に示しておらず、疑わしい人、又は一見して不法移民だと思えるような移民は、全て警察官が捕え、尋問することができるとの解釈から、人種差別につながることや、観光中の外国人、合法滞在の移民なども的になりやすく、職権の乱用に繋がることが懸念されていたためである。

 SB1070の条項3は、「移民は常に書類を申請し、携帯する」ことを要求しており、これに従わない移民は犯罪者と見なす内容になっている。グリーンカードや合法的移民である事を証明する書類を常に携帯する義務は、すでに連邦政府の移民法で定められており、条項3はアリゾナ州が同じ法の制定を別に要求したものである。これに対するボルトン判事の判決要点は、基本的に「州が起訴し及び罰則を与えるとする法の制定は、すでに存在している総括的な連邦政府の移民法を妨害する」ものであり、不法滞在者を犯罪者扱いし、外国人に対するハラスメントにつながるとして、これを却下した。連邦政府の移民法では、民事法及び犯罪法に基き、不法滞在者を一時拘留し、送還できることは定めているが、州にこの権利を与えていない。この条項からは、アリゾナ州が不法移民に徹底して反対している姿勢が窺がえる。(つづく)
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