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2010-08-01 00:46

(連載)不法移民問題をめぐるアメリカ国内の論争(2)

島 M. ゆうこ   エッセイスト
 条項5-Cは、法的に認可されていない外国人の就業及び不法滞在の移民を輸送または匿うことを犯罪としている。これに対し、ボルトン判事はどのタイプの移民が就労でき、あるいはできないかは、すでに連邦議会の制定した法律が細かく規定しており、これに反した者であっても、不正な手段を用いて就労していない限り罰しないことを選択した「連邦政府の法律と異なる法律を州は制定できない」趣旨の判決を下している。アリゾナ州は条項5-Cにより「新たに犯罪法を制定した」ことになり、連邦政府の移民法を妨害したことになる旨を明白にしている。著者はこのような連邦議会の選択は、不法移民を雇用せざるをえない企業又は小規模ビジネスを保護するためでもあると理解している。

 条項6-Aは、相当な根拠に基き公的に何らかの違反を犯したと思える人物は合衆国から追放できるとしている。このため、アリゾナ州の警察官は逮捕状なくして容疑者を逮捕することが出来るとしている。アメリカ合衆国地方裁判所の判決の要点は、「この条項は、合法及び不法に関係なく、明らかに外国人だけをターゲットにしているため違憲である」としている。以上の判決に反発したアリゾナ州の女性知事は、「最後まで戦う意志がある」ことを表明しているが、アメリカ合衆国憲法第6条は連邦法の最高位条項を明白にしている。つまり、「連邦法は州法に優越し、州は連邦に先駆けた移民法の制定はできない」ことになっているため、おそらく税金の無駄使いに終わるであろう。

 7月28日の『CNN』ニュースは、アメリカ国民の約60%がアリゾナ州を支持しており、支持者は「連邦政府は移民法を強化していない」と思っていると伝えた。また、経済不況の現状では、弱い立場の不法労働者が「不満のスケープゴート」にされやすいとも述べている。事実、この60%に属する人たちの共通する意見は「不法移民は税金も払わず、アメリカ人の仕事を奪っている」である。ところが、不法移民に同情的な人たちの共通の意見は、全く逆である。例えば、失業率9.5%の現在でも、灼熱の太陽の下で、長時間農作業をしたがるアメリカ人はほとんどいないため、「低賃金で3Kに従事してくれるのは、結局不法移民であり、税金も払っている為、アメリカの経済を救っている」と主張する。事実、数年前から『ワシントン・ポスト』紙や『ニューヨーク・タイムス』紙など主なメディアは、不法移民が税金を払っていることを検証している。

 2008年4月の『USA TODAY』紙は、「概略見積もっても不法移民が支払う社会保障税の総額は年間90億ドルに達し、連邦政府に支払う所得税やメディケア税などを合わせると相当な額にのぼる」と報じている。同紙は、内国歳入庁(IRS)が認可したテネシー州の非営利組織でボランティア職員として、不法移民の税金書類作成を援助する女性が「不法移民だから税金を払っていないと考えるのは間違いだ」と指摘した声を載せている。また、連邦政府は不法移民が社会保障税を支払うことを禁じているが、「IRSは、支払者の不法又は合法性など管轄外の問題については、厳密にチェツクしていない」ようだ。このようなIRSの現状を知らない不法移民も多いが、彼等は「税金は支払うが、将来、社会保障金の支払を受けるチャンスはほとんどない」と報じている。アリゾナ州の一連の影響で不法移民の数は幾分減少しているものの、引き続き、低賃金及び3K労働者の需要が高いアメリカに不法移民の流入が絶えない原因は、上記したような様々な現状も含め、需要と供給の原理を考慮した場合、ある程度必然的だと言える。不法移民就労人口が増えつつある日本にとっても、単に傍観できない問題である。(おわり)
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