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2011-02-14 10:25

(連載)ムバラク大統領の辞任は、新たな挑戦の始まりだ(1)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 エジプト国民は、まさに劇的な歴史的瞬間を迎えた。2月11日、現地(カイロ)時間午後6時頃、タハリール広場に集っていた数十万の反政府抗議者らは、「ムバラク氏が辞任の決心をし、暫定的に全権限を軍最高評議会に移譲した」とのスレイマン副大統領の短い声明に、熱狂的な歓声をあげた。18日間の抗議デモは、終に勝利の幕を終えた。前日には「9月まで辞任しない」と表明していたばかりだったが、わずか24時間以内に起きたこの急激な異変の裏に何があったのか。ムバラク氏のこの不退陣声明に激怒した約100万人の国民は、エジプト全土各地で一斉に抗議活動を開始した。一方、タハリール広場の抗議者らは、30年間の独裁政治の象徴であった大統領官邸と国営テレビ局に向けて行進し、両敷地の警備は厳重であったにも関わらず、追い込まれたムバラク大統領は辞任に追い込まれた。

 ムバラク大統領は「どのような譲歩を示しても、大統領を辞任しないかぎり、デモは終わらない」と悟り、辞退を決意したと伝えられている。しかし、ムバラク氏が辞任した本当の理由は、軍のクーデーターにあるようだ。カイロから生中継で報道していた、NBCテレビのレポーター、リチャード・アングルは「軍服を脱ぎすてて、抗議者側に立った軍人ら」から聴いた内容について「複数の軍人らは、ムバラク大統領の辞任拒否に激しい怒りを示しており、11日大統領官邸内に入った軍の指揮者らは『もはや我々は、貴方の側には立たない。すぐ辞任すべきです』と、ムバラク大統領に迫った」と、その様子を報じた。

 現地にいたアングル記者は、この急変について「これは、ほぼクーデターと言えるものです」と述べている。軍隊が抗議者側にかなり同情的だったことは明らかであり、大統領官邸まで押し寄せた抗議者らを前にして、ムバラク氏は辞退せざるを得ない状況になったようだ。そもそも、ムバラク大統領はスレイマン氏を1月29日に副大統領に任命し、ある程度の権限を移譲したばかりだった。また「引き続き、状況を監視する」と公表した矢先であった。にも関わらず、突然、ムバラク政権の後ろ盾になってきた軍最高評議会に権限が移譲された。この急変は、エジプトの民主化運動が好展開に向うのかどうかについて、不穏な気配を残した。

 民主化のスタートラインから一歩を踏み出したエジプトの進路は未だに不確実なことばかりである。エジプト国民が望んでいるのは、民主主義だけではなく、国家の政治的、経済的な安定性だ。現在のところ、顕著なリーダーが不在であるが、今後、主導権争いに展開するようなことはないのか?ムバラク氏もスレイマン副大統領も元軍人であるが、軍人で構成されている軍最高評議会は、国民と国家の安全保障を維持しながら、国民の希望どおりのリーダーシップを発揮できるのか?民主化へのプロセスは、どのようなものか?自由、公正で開かれた選挙をどのように行うのか?どのようにして議会に国民の代表を出すのか?優れた大統領候補者をどのようにして探すのか?権限を掌握した軍最高評議会の主な代表者は「6ヶ月間又は選挙までの代理任務であり、この期間は抗議者らの要求に答える」と誓っているが、今後権力に固執する可能性はないのか?など多くの疑問が残されている。(つづく)
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