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2011-03-06 01:47

(連載)アラブ諸国に共通する貧富の格差と政治の腐敗(4)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 2009年の外電によると、チュニジア駐在の米国大使ロバート・ゴデックは、チュニジア大統領ベン・アリの「マフィアに似たようなエリート」家族たちについて、「あらゆるビジネスに手を出し、特にファースト・レディは私立学校からの莫大な利益を得ている」と述べていた。所変わって、リビアのカダフィ大佐については、『Qadhafi Incorporated』と称する外電によると、大佐は2008年、自己防衛のため個人の民兵を備える費用として、リビアの国有石油会社の会長に12億ドルを要求している。また、カダフィの子息は、2009年の新年後、カリブ海のセント・バーツ島で、4曲歌ったあるアメリカのシンガソング・ライターに百万ドル支払った例をあげ、カダフィ王族が実に惜しみなく高額な浪費をしていることを公表した。

 さらに、1996年11月発行の秘密外電文書をウキリークスから受け取った『ロイター』は2月28日、サウジアラビアの王族が如何に贅沢三昧の生活をしているかについて、驚くべき事実を紹介した。『Saudi Royal Wealth: Where do they get all that money?』と称するタイトルの外電には、アル・サウード王族合計数千人に誕生から死ぬまで毎月給付金が払われる、その具体的内容が記載されている。例えば、アブドゥッラー王に最も近い親族である子供には20万から27万ドル、孫には27,000ドル、ひ孫には13,000ドル、玄孫には8,000ドル、最も遠縁の親族には800ドルが支払われている。これは、王族の出生を奨励して、血族を増やすシステムである。また、王族の結婚や宮殿の費用は、ボーナスとして年間予算400億ドル、場合によっては20億ドルが組まれている。

 外電は、アル・サウード王族のプリンスらがどのような方法で富を築くのか、その方法についても記述している。例えば、当時の米国大使は「1日100万バレルの原油の歳入は、全て5~6人のプリンスの手に渡る」と記述している。また、石油会社が雇用する外国人労働者を入国させる際、王族がスポンサーになるため、外国人労働者からは毎月30ドルから150ドルの手数料を徴収している。これは「予算外プログラム」として、年長の複数のプリンスが管理している。さらに、この王族は、12の市中銀行から次々に借金したが、「ローンの返済はしていない」という。頻繁に論争の原因になるシステムは、予定されているプロジェクトのため、庶民が所有する土地を押収し、素早く売却して換金することである。そのため1990年代までには、政府が庶民に与える土地は、次第に減少している。以上の全てが王族の富を築く「仕組み」であり、クレプトクラシー的な腐敗政治の典型である。

 結論として、現在騒乱が続くアラブ諸国に共通する慢性的な問題は、貧富の格差が激しいこと、貧困ライン以下の人口層が多いこと、若い世代、特に教育水準の高い若者の失業率が高いことなど、総体的に悲惨な経済状態である。いずれの国も政府は過去に何らかの経済改革を実施し、ある程度の国民の生活改善に努めた時期もある。しかし、概して過剰な石油依存経済、国民を蔑ろにしたグローバル化、および腐敗した政治的体質に根本的な問題があるため、庶民の生活は向上しない一方で、一部の指導者やエリート階層は不公平な富を得ている。経済格差を含む様々な経済的荒廃とクレプトクラシー的腐敗政治が長期的原因であるとすれば、ウキリークスのような暴露サイトのメディアやインターネットの高度な通信技術が反政府者らの組織化を促進させた点は、短期的要因である。いずれにしても、デモ参加者の姿は、燻っていた煙に火がつく原理に似ており、長い間虐げられてきたアラブ諸国の国民にとって、自由と平等を求める民主化抗議デモは、不可避の現象だと言える。(おわり)
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