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2011-03-14 07:27

与野党は「国難対処」最優先にリセットせよ

杉浦 正章  政治評論家
 未曾有の東日本大震災を受けて、政治地図はがらりと一変した。与野党「協調」にリセットされる方向となったのだ。首相・菅直人による解散・総選挙や内閣総辞職は一挙に遠のき、与野党は大筋において「国民の生命財産」確保のため、協力せざるを得ない状況となった。もはや来年度予算の早期成立は不可避の形勢であり、まれに見る国難に、与野党は恩讐を越えて妥協を図るべき状況に立ち至った。政府は地震緊急対策本部に野党の参加も求めるべきだ。今後とりわけ注意を要するのは、金融株式市場の動揺であり、ハゲタカ・ファンドの「日本売り」が発端となって、日本発の世界大恐慌を招いてはならない。政府は米欧諸国と密接な協力で対抗策を打ち出すべきだ。財源確保は、緊急時でもあり「タンス預金」を引き出す「無利子非課税国債」の発行でしのげばよい。菅は自らへの外国人献金でまさに進退窮まったところに、予想もしなかった大震災である。政治的には菅に“新たな政権”が転がり込んだことになる。国会における与野党激突の構図は、「国難優先」にリセットされつつある。

 国内政治地図は、野党ばかりか、政権打倒に動くかに見えた小沢一郎も、身動きならぬものにした。政治的には長期休戦を余儀なくされる情勢に立ち至った。野党も、いま解散や内閣総辞職を求めれば、一挙に“国賊”扱いとなるだろう。大震災で大失政でもしない限り、菅政権の総辞職もない。ここは過去を捨てて、国民の生命財産を守るという政治の原点で一致して、政府に協力するしかあるまい。自公両党が提唱している「国会休会」構想も、予算の自然成立が遅れることから与党が反対である上に、野党内にも異論があり、無理を押し通すことでもない。3月13日の党首会談で総裁・谷垣禎一が提案した緊急対応策は、さすがに政権政党だった経験が見られる。谷垣は、わが国始まって以来の重大事案だとして、陸上自衛隊に加えて海上自衛隊にも動員をかけ、不足であれば予備自衛官や退役自衛官にも協力を呼びかけることを主張。沖縄のアメリカ海兵隊と自衛隊が協力して上陸用の船艇などを活用し、遺体の収容作業に当たること、原子力発電所の被害の実態を適切に説明できる専門家を指名し、国民に対して適切な説明を行うことなどを提案した。この際、菅は野党の専門家も政府の緊急対策本部に参加を求め、全党一致の対処をはかるべきであろう。

 焦点の来年度予算関連法案について、自民党は依然ばらまきの根幹部分で妥協できない立場を維持しようとしている。しかし、公明党は13日のNHKで政調会長・斉藤鉄雄が早期成立を唱えるなど、変化の兆しを見せている。この際、与党も「子ども手当」などばらまき部分を削除し、資金を災害復旧に回す方向で妥協を成立させ、早期成立を図るべきだ。ばらまき以外は、自民党の組替え案と内容は大差なく、ここは何が何でも妥協を成立させるべきだ。財源については、当面は2000億円の予備費を活用すればしのげるが、大型補正予算は不可避だろう。長期的には、かねてから小沢一郎が主張し、大震災後は与党国民新党政調会長の亀井亜紀子が提唱している「無利子非課税国債」の発行も視野に入れるべきだ。1467兆円の個人金融資産、30兆円にのぼるとみられている「タンス預金」を活用して、相続税が課税されない「無利子ではあるが非課税の国債」を導入するのである。非課税の恩恵を受けられるのは、富裕層に限られることとなり、「金持ち優遇」という反対論もあるが、ことは緊急事態である。これが一番手っ取り早い財源確保の道だ。このように与野党とも当面政治休戦を軸に、国民の生命・財産確保のため相互の主張を尊重しつつ、「互恵救国戦線」で一致すべきだ。旧来の考え、慣習を捨て、臨機応変の対応をするしかない。これがなければ史上最大の国難への対処はできない。

 このどさくさで14日からの株式市場がどう動くかだが、株価は1万円を割り込んで始まるとみられている。かねてから「東京大震災が発生すれば、東京発の世界大恐慌が発生する」と言われてきた。日本は国内総生産(GDP)世界第3位の経済大国であり、確かにその国の首都が壊滅すれば、影響は全世界に及ぶ。しかし、幸いにも東京以西は無傷で残り、東北6県の総生産はGDPの6・4%だ。それも壊滅はしていない。しかし、世界中にばらまかれた洪水の映像は、「日本沈没」を印象づけるのに十分だ。ハゲタカがこれを利用して、大規模な日本売りに出たとしても全くおかしくない。連鎖反応が世界的規模で発生すれば、せっかく明るさを増し始めた世界経済を、逆戻りの大不況へ突入させる可能性もないとはいえまい。政府・日銀は米国をはじめとする主要国と早急に連携をとり、対抗策を打ち出すべきだ。同時に、世界の投資家に情報を発信して「大震災は克服可能である」ことを印象づけることが緊急課題だ。

 野村金融経済研究所は、GDPは年率換算で4~6月期は最大1%幅で押し下げられるものの、復興に向けた超大規模な公共投資が始まれば、回復効果が出てマイナス成長の可能性は少ないとみているという。日本株は長期的には「買い」なのである。日本政府からこの種の情報発信がないいらだちは、日本国内だけではない。AFP時事によると、豪外相が福島第1原発1号機の爆発事故について「われわれや国際社会は、事故の詳細な状況について、早急な報告を必要としている」と述べ、日本政府に国際社会への迅速な説明を求める考えを示している。たしかに12日の原発爆発事故に対する政府の対応ぶりは、爆発の映像を日本テレビが報じているにもかかわらず、官房長官・枝野幸男が曖昧な姿勢で5時間も経過した。政府の信用性が問われる態度だったが、いまは言っても仕方がない。国内はもちろん世界に向けて、正確な情報を大量に発信することが急務であろう。
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