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2011-04-08 10:11

(連載)シリアの「休日革命」に展望はあるのか?(2)

武嶋 護  中東情勢研究家
 一方、アサド政権側は、チュニジアなどの政変を受け、賃金引き上げや所得税減税などの経済政策を講じたものの、抗議行動勃発を受けた3月30日のアサド大統領の演説において、非常事態の解除、政治活動・言論の自由の拡大のような要求事項に事実上のゼロ回答を示した上で、抗議行動をシリアの安全と安定に対する陰謀と決めつけ、今般の騒乱の発火点となったダラア県の県民をはじめとするシリア人民は「騒乱を生き埋めにする責任を負っている」との強烈な脅迫で締めくくった。

 筆者は、このような対応は、単なる権威主義体制の悪あがきと捉えるべきではなく、不適切なタイミングで抗議行動側の要求を全く満たさない譲歩を小出しにしたエジプトのムバーラクや、欧米諸国の反応や世論に右往左往する親米穏健派アラブ諸国の失態を、シリアなりに分析した結果打ちだされた対応であると考える。

 すなわち、アサド政権は(1)政権の正統性や存続の可否について、欧米諸国の政府や世論に評価してもらう筋合いはない、(2)これまでに列挙された改革事項は少なくとも10年来の課題であり、それらは内政・外交環境が安定して初めて実現できる、(3)それでもあえて抗議行動を続けて安定を乱す者は、ためらうことなく“生き埋め”にする、との対処方針を公言したのである。

 以上のような状況は、一般のシリア人にとっては、「平穏な日常生活」と「自由と改革」の二者択一を迫られた状況である。大方のシリア人にとっては、具体性や将来の構想がないままシリアの休日である金曜日、土曜日の抗議行動を呼び掛ける扇動には応じ難い、ということであろう。シリアでの「民主化・改革」要求が実を結ぶには、アサド政権が提供する秩序に寄生して平日を暮らし、休日にだけ気勢を上げる現在の戦術ではなく、アサド政権による統制を乗り越えて平日にも動員を実現する戦術なのだが、現時点でそれが実現する可能性はほとんどない。(おわり)
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