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2011-05-09 10:30

オサマ・ビンラディンは犯罪者か、英雄か

伊藤 将憲  会社員・日本国際フォーラム個人正会員
 確かに、オサマ・ビンラディンは、非合法なテロによる暴力的な殺傷事件および違法な破壊活動等を繰り返してきたのだから、犯罪者ではある。だが、なぜかれはそのような犯罪行為に手を染めるようになったのかも、忘れてはなるまい。湾岸戦争以降、米軍による中東進駐は顕著なものとなったが、その背後の動機には、エネルギー資源(石油)確保の狙いもあった。「独裁者サダム・フセインの打倒」と「大量破壊兵器の開発、配備」がイラク侵攻の口実とされたが、実際に核開発に手を染めている北朝鮮の金正日政権に対しては、北朝鮮が魅力的なエネルギー資源に乏しいため、実質的には野放しの状態にしている。

 アメリカは、「民主化」や「自由」を旗印にしているが、実際には「自国に都合のよい正義」を押しつけて、親米ならばムバラクやカダフィのような独裁者やサウジのような専制君主政治も平気で容認し、反米であれば「一気に叩き潰す」といったダブルスタンダードを平気で繰り返してきた。そのようなアメリカに対する憤りが、アラブ民衆の間に広がっていたことは、理解できなくもない。そのため、かれに同情し、またはかれを英雄視する人々が、世界に一定数存在するのことも否定できない。2001年9月11日に米同時多発テロ事件が起こったとき、アラブ民衆の一部には「やっと、超大国アメリカに一矢報いた!」という反応や感情があったことが想起される。

 しかし、だからといって、世界中で無差別テロを繰り返し行ってきたビンラディンやアルカイダの行動を容認することはできない。彼らのやっていたことは、西側社会への適応や近代化を望む世俗ムスリムおよび無関係な一般市民に対して、自分たちの信奉する前近代的で時代錯誤甚だしいイスラム原理主義を押し付けることであり、それは、彼らが憎んでいたアメリカ帝国主義による「侵略」や「支配」と同様に、あるいはそれ以上に過酷なものであった。宣戦布告または犯行声明すらないかれらのテロ攻撃は、米軍による攻撃以上に残酷であり、卑怯なものであった。

 ビンラディンは、超大国アメリカに対して不満があったのであれば、合法的で、平和的に、もっと世界中の人々を納得させるやり方で、堂々と表舞台で戦って欲しかった。チュニジアやエジプトの若者たちは、ツイッターのリツイートと拡散とフェイス・ブックを利用して、国民をデモや集会に集め、国軍の改心をもたらして、最終的には親米独裁政権の打倒に成功した。死亡してしまった今となっては、ビンラディンに改心を求めても詮ないことであるが、かれを殺害するのではなく、生け捕りにした上で、親米でもイスラムでもない第三国で公正な裁判を行い、ビンラディン自身の口から、明かされていない事実を語って欲しかった。生け捕りに出来なかったとしても、ビンラディンの死によって不明となっている事実を有耶無耶にはしてほしくない。それが、かれを「英雄」ではなく、「犯罪者」として世界史上に正確に位置づけることにもつながったのではないだろうか。
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