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2011-05-19 07:28

“菅馬”では乗り換えざるを得まい

杉浦 正章  政治評論家
 「急流で馬を乗り換えるべきか、否か」が政界で一大議論となっている。参院議長・西岡武夫が「乗り換えるべきだ」と5月18日付の読売新聞で述べれば、阪神大震災で地震対策担当相を務めた自民党の小里貞利(80歳)が17日、「乗り換えるな」と強調。どちらが勝つかは、まだ不明だが、首相・菅直人が急流で流されそうになって、立ち往生していることは確かだ。

 三権の長である参院議長が、正面切って首相に退陣要求するのは、きわめて異例のことである。しかも、長文の首相弾劾寄稿文であり、その内容は理路整然としており、26日のサミット前にも衆院で内閣不信任案を出すことを促している。「馬を乗り換えるな」論について、西岡は「この言葉は賛成だ」としながらも、「それは馬に急流を何とか乗り切ろうと、必死になって激流に立ち向かっている雄々しい姿があってのこと」と条件を付けた。続けて西岡は「けれど、菅首相には、その必死さも、決意も、術もなく、急流で乗り換える危険よりも、現状の危険の方が大きい」と、真っ向幹竹割りの退陣論を展開している。

 これに対して、小里は「阪神大震災の時、野党は気軽に助言してくれた。自然災害こそ国力、国民力を問われる。災害復旧についても、超党派で、あらゆるものを犠牲にして、取り組むことが大事」とオールジャパンでの取り組みの必要を強調、「急流で馬を乗り換えるべきでない」としている。小里の阪神大震災での指揮ぶりは、総じて見事であったと言って良いだろう。しかし、小里は重要なポイントを忘れている。時の首相・村山富市が大震災に直面して、自分では対処が無理だと判断、小里を地震対策担当相に任命して、“丸投げ”したことである。この「自分では無理」と自らの能力を“見切る”と同時に、誰に任せるべきかを判断する能力は、宰相たるものの必要不可欠の条件である。ところが、菅は「おれがおれが」が先行して、重要施策をことごとく誤っている。とりわけ原発事故の初期対応に致命的な欠陥があるのだ。

 一方で、復興実施本部構想でしゃしゃり出て大失敗した国民新党代表・亀井静香は、不信任案上程について「震災への対応をしなければいけないときに、そんなことをしていたら、将来、歴史から笑われる」と述べたが、歴史が笑うだろうか。決して笑わない。むしろ賞賛すると思う。分かりやすいのが、明治維新だ。黒船来襲で列強に取り囲まれ、元寇以来の危機に瀕した日本は、徳川幕藩体制をひっくり返して、明治維新を成し遂げ、国難を乗り切ったではないか。先人は馬を乗り換えているのだ。

 徳川家康に至っては、馬を、兵の背中に乗り換えて、谷川を渡っている。小田原の陣での出来事だ。家康は大坪流馬術の名手として名高いが、急流を渡るに当たって、全ての兵に馬から下りるよう命じ、自分は兵におぶさった。自陣から爆笑が起こったという。しかし、ものを見る目のある武将らは「海道一の馬乗りとはこのことであろう」と褒め称えた。「馬上の巧者は、危ういまねはせぬ」のだという。恐らく家康なら、菅の居座りを「急流を越えられぬ馬に乗って、死ねと申すか」と一喝したに違いない。確かに駿馬なら降りなくてもいいかもしれないが、制御しにくい悍(かん)馬、跳ね上がる癖のある駻(かん)馬、独りであらぬ方向に走るくせのある“菅馬”では、急流で乗り換えねばなるまい。
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