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2011-05-24 08:49

(連載)ビンラディン殺害に関するグレィジア教授の見解(1)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 オサマ・ビンラディン殺害直後の米国では、「ビンラディンが非武装だった」との報道もあり、生きた身柄を拘束することより殺害することが目的だったのかどうか、パキスタン政府が襲撃の事実を事前に知っていたのかどうか、など様々な疑問が提起されるようになった。また、本掲示板でも議論されているように、一般的な米国民の批判として、「殺すより身柄を拘束して、法の裁きを受けさせるべきであった」という意見、および「他国領土への無許可侵入は、主権侵害ではないか」というような意見が圧倒的に多かった。この2点については、世論が分かれているが、オバマ大統領は当然ながら「合法的である」と主張している。

 5月20日、複数のメディアで紹介された報道によると、元米国海軍戦艦の将校であり、現在国際法の教授でもあるデイビット・グレィジア氏は、「基本的には、この2つの論点は、法律執行の問題として取りあげるのか、あるいはテロに対する戦争として取りあげるのかで、法の解釈は異なる」と述べている。まず「国際法は、外国の領土でその国の同意のない法の執行を禁じており、捕虜として拘束することが義務であり、自己防衛の目的に合致する以外は、違法である。特に非武装の個人を故意に殺害することは、法的には殺人に等しい」とする一般的議論について、グレィジア教授は「9・11後の反テロリズムの戦争は国際的に認められた選択であり、当時直接関与した人物に対しては、軍事力の行使が認可されているというのがホワイト・ハウスの立場である」と説明している。

 グレィジア教授は「米国には、アルカイダに対して実際に軍事力を行使する法的権威がある。従って、ビンラディンの殺害については、物理的に無能であるか、または負傷して戦闘力を失い、自ら降参しない限り、敵の戦士および指揮官を戦場で殺すことに該当し、それは許可されている。4つの法的要点において戦争の原理が満たされている限り、戦場から離れた場所で行われた殺害、または敵が能動的に抵抗していない事態であっても、殺害は許される」と述べている。教授によると、その法的要点の1つは、軍事力行使の必要性である。この場合、戦争を成功裏に終わらせるという目的が鮮明であり、戦争に関する他の法律に従う必要がある。しかし、単なる報復のための殺害は、戦争法の規定に違反する。2つ目は、保護すべき一般市民と、軍事力を行使する標的との区別が明確にされ、指令されていることである。3つ目は、軍事標的の襲撃で一般市民が犠牲になった場合、予期した軍事的利点に対して、その被害はわずかであること。4つ目は、襲撃は、意図した標的にさえ不必要な苦痛を与えないため、禁止されている武器や手段を用いないなど人道的であることが含まれる。

 さらにグレィジア教授は「ビンラディン殺害に関して公表された情報は、以上の基準に適合している。公的にアルカイダの指導者として認識されていたビンラディンの死亡は、今後のアルカイダの戦争遂行能力に不利な影響を及ぼすのだから、テロに対する紛争はこれによって短期化されると考えるべきである。婦人や子供たちへの危害を避けるため、建物上空から破壊的な爆破を行うのではなく、指揮体制の急襲を選択したその努力は、上記の2つ目と3つ目の条件を反映している。一方、通常兵器の使用には、戦争法の原理を適用した場合、提起されるべき人道的問題は存在しない」としている。(つづく)
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