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2011-05-25 09:47

(連載)ビンラディン殺害に関するグレィジア教授の見解(2)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 次に、主権の侵害に関する論点について、グレィジア教授は「パキスタンでの襲撃は次の3点を基盤に正当化される」と述べている。「仮にパキスタンが米国とアルカイダの紛争に中立的な立場であれば、パキスタンは、一方が他方に損害を与えるためにその領土を利用するのを防ぐ義務があるが、この義務の履行が不可能であるか、または履行する意思がない場合、その領土内で深刻且つ一刻も猶予を許さない脅威に対し、国際法は被害者に制限を定めた自己防衛を許可している」と解説している。グレィジア教授は、現実的にはパキスタン政府は、アルカイダの庇護を否定する能力の無さを認識しており、米国の狙撃行動を内密に認可していたことを、2つ目の可能性としてあげている。

 また、「パキスタンがアルカイダと戦うため、実際に米国と同盟を結んでいたのであれば、米国は、共同交戦国としてパキスタン領土で、軍事行動を起こすことはあり得る。実際、写真でも紹介されている通り、パキスタン上空から米国のヘリコプターが軍事行動を開始したため、奇襲を米国に許可していなかった、とパキスタンが公的に否定することは非現実的である」としている。ビンラディン殺害については「パキスタン国内では、自国主権への侵害に抗議するよりも、むしろ自国の軍部施設に近いビンラディンの私邸上空で米国のヘリコプターを探知できなかった自国の無能力さについて、白熱した論議がなされている」と述べ、「現時点では合法であるとも、非合法であるとも言えない」と結論づけている。

 パキスタンは、テロとの戦いに協力するため、米国から経済援助を受けているが、米政府は、パキスタン政府を全面的に信頼していないため、殺害作戦の実施を事前に知らせなかったとの見方もある。パキスタンには、ヒンズー教に反対するグループ、穏健派のイスラム教徒、インドとの戦争を奨励する過激派のイスラム教徒、他の急進派など、多くのグループが存在している。これらのグループの中には、タリバンを支持し、アフガニスタンでのタリバンの反乱兵を鼓舞し、西側諸国を攻撃する過激派が存在している。そのような政情のパキスタンで、米政府は、グアンタナモ湾収容所に拘束されている複数の重要なテロリストから国際基準に適合しない拷問を通して得た情報をもとに、更なる情報収集のため複数のCIAメンバーをアバタバットに派遣し、長期間安全な環境下でスパイ活動をさせていた事実は、パキスタンにも協力者がいたことを物語っている。

 裁判に関しては、複雑な問題があるようだ。仮にビンラディンが捕虜となっていた場合、国際犯罪裁判所はオランダにあるが、裁判所が設立された2002年6月以降の犯罪の告訴のみ有効であるため、ビンラディンが関与した9.11の同時テロは管轄外である。グアンタナモ湾収容キャンプでの軍事委員会による裁判の可能性についても、オバマ大統領自身が2009年にこの収容所を閉鎖する意向を示したことや、今年の1月にはグアンタナモ湾収容所から本国への拘留者の移送を禁じる防衛認可法案に署名したことが、どのように影響するか不明である。9・11の民間機を使った同時自爆テロは連邦犯罪として、米国の連邦裁判の法廷で争われるべきであると考えるが、テロリストの拘留、移送、裁判にかかる一切の資金は、2009年5月上院議員によりブロックする法案が可決されており、著しい危険人物を米国の主要都市に拘留する準備があったとは思えない。冒頭に記した憶測も含めて、多くの疑問点が明白になるまでかなりの時間がかかることが予測されるため、以上述べた2つの重要な法的論争に対して、合法または非合法の結論を差し控えたグレィジア教授に賛同するとともに、指摘どおりテロに対する戦争は一刻も早く停止する必要があると考える。(おわり)
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