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2011-05-26 07:27

潜行する「不信任本会議欠席」の小沢戦術

杉浦 正章  政治評論家
 政治家の会合でのひそひそ話は、丹念にフォローすれば、だいたい後になって様子が分かるものだ。5月24日夜の民主党元代表・小沢一郎と前首相・鳩山由紀夫の会談で何が語られたかが気になっていたが、鳩山の25日の講演で分かった。鳩山は「小沢さんは覚悟を持った政治家。その覚悟の素晴らしさにひかれるものがある」と絶賛したのだ。その上で、鳩山自身も「国難の時に求められているのは最終的覚悟だ」と述べた。明らかに会合では、小沢が「離党も辞せずに内閣不信任案に同調する“覚悟”」を述べ、鳩山もようやく「不信任案同調の“覚悟”に傾いた」ことを意味している。しかし、覚悟だけでは、物事は動かない。不信任案の可決に持ち込む手段が必要だ。小沢が側近らを使ってやらせている党内での不信任案同調の署名集めも、社民党が反対すると、可決するためには77人の署名が必要となる。小沢周辺は「可決できる状況になりつつある」と漏らしているが、野党の不信任案上程に間に合うかどうかも分からない。

 そこでささやかれ始めたのが、不信任本会議「欠席戦術」だ。署名をした者が小沢以下賛成に回り、賛成に踏み切れない者は本会議を欠席して、結果的に可決に持ち込もうというわけだ。小沢のとっておきの“隠し球”は、これに違いない。欠席戦術は昔から旗幟(きし)を鮮明にできない議員のために行われてきた。1952年に通産相・池田勇人が「インフレ経済から 安定経済に移る時に中小企業の5人や10人の倒産などやむをえない」と述べた問題で、通産相不信任決議案が提出され、 鳩山派の欠席戦術により可決され、池田は辞任に追い込まれている。ハプニング解散につながった大平内閣不信任案可決も、欠席戦術が成功した例だ。1980年日本社会党委員長・飛鳥田一雄が、不信任決議案を提出。これに前年の四十日抗争で大角(大平派と田中派)連合に敗れ、自民党内で反主流派となっていた三木派や福田派、中川グル-プなどの議員69人が本会議を欠席した。これにより不信任決議案は賛成243票・反対187票で可決となった。2000年の「加藤の乱」では、加藤紘一支持勢力が森内閣不信任案にいったん同調しようとしたが、結局踏み切れずに欠席して、否決された。

 小沢がこうした経緯を見逃しているはずはない。「はずはない」どころか、署名を渋る議員には働きかけているのだ。どのような展開が予想されるかだが、手っ取り早く昨年11月の官房長官・仙谷由人への不信任案のケースを参考にすると、賛成152、反対314で否決している。仮定のケースだが、この賛成152に例えば民主党から50人が賛成、70人が欠席したら賛成202対反対194で可決されてしまうのだ。

 小沢にはついて行けないが、首相・菅直人の“体たらく”に不満がうっ積している民主党内で、この欠席戦術には乗りやすい。悩んでいる中間派や中堅・若手議員も同調しやすい。執行部は欠席者に対しても「厳重処分する」と懸命の締め付けをしているが、実際には国会で多数確保の上からも、除名処分というわけにもゆくまい。可決されれば、10日以内にまず退陣だろう。解散は被災地の事情を考えると難しいが、「破れかぶれ解散」となれば、野党とりわけ自民党にとっては、まさに思うつぼだ。否決されても、小差になることが予想される。この“打撃”に菅が長期にわたって居座ることは極めて困難になるだろう。
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