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2011-06-08 07:47

(連載)ギリダラアスの取材した中国の若い世代の理想(1)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 第二次世界大戦後の日本は、勝戦国、特に米国の影響を受けて目覚しい発展を遂げ、わずか約20年で世界第二の経済大国を築いた。一方、中国は40年以上日本に遅れたが、1978年に中国の最高責任者となったトウ小平が共産主義経済から資本主義経済への経済システムの移行に重要な役割を果たしたため、1990年代後半から著しく経済が向上し、「赤い資本主義」と呼ばれるようになり、不景気に直面した日本とは逆転した方向に向い始めた。自由主義市場のグローバル化が急速に進み、圧倒的に幅広い中国製品が市場に出回るようになった。現在、衣類や日用品などの中国製品は、米国市場の50%以上を占めている。中国が日本のGDPを追い抜いて、実質的に世界第二の経済大国になったことを米国のメディアが報じたのは、今年に入ってからである。中国のアフリカへの投資や石油生産国との強力な外交関係など、中国の急速なグローバル化と経済成長が近年注目されるようになった。

 近い将来中国が米国を追い越して世界第一の経済大国になるとみている米国民が増えている。今年1月の「Pewリサーチ・センター」の世論調査によると、47%の米国人は、既に「中国が世界の経済をリードしている」と答えたのに対し、「米国が世界一」と答えた率はわずか31%であった。また、58%の米国人が、中国との強力な外交関係を築くことの重要性を強調しており、米国が圧倒的に中国を経済面で意識していることが理解できる。中国との外交関係を重視しながらも「貿易や経済面では、米国は中国に厳しい姿勢をとるべき」とする意見が53%で、「中国の軍事力より、その経済成長の方が米国の脅威になる」と考える米国人は60%に達した。

 著しく豊かになった中国の若い世代は、経済面の成果の他に、自国の理想があるのだろうか?20世紀初期の新文化運動、五・四運動、天安門事件など、若者が先導した革命の歴史が色濃い中国では、他国の様々な反応にたいし、現在、若い世代のあいだに戸惑いと複雑な思いがあるようだ。法体制を含む民主主義の原理を適用しない中国に対する西洋諸国の批判に、彼らはプレッシャーを感じている。しかし、中国の若者全てが、「西洋に追いつけ、追い越せ」を目標にひたすら奔走した戦後の日本と、中国の今の姿をオーバラップさせて考えているとは思えない。CNNやCBSラジオの記者であり、過去に数回、上海をはじめ中国の主な都市を取材したアナンド・ギリダラアスは、昨年の夏、再度訪問した中国の各地で多くの若者に出会い、彼らと多くを語った。その記録をアマゾン・ドット・カムが数年前開発したキンドルの電子書籍に『Chinese Dream』と題して、今年1月出版した。急激な経済発展と人口増加、公害、腐敗、工場のスラム化と自殺、ホームレス、末公開数の死刑執行など、近代化を目指す莫大な社会基盤構造プロジェクトの裏に潜む様々な問題を目前にしたギリダラアスは、学生、社会学者、芸術家、社会活動家、企業家、教育者など、近年の中国経済の恩恵をうけている多くの中国人と出会い、若い世代が考える中国近代化の理想について取材した。 

 それによれば、彼らの多くは、西洋からのコピーではなく、自らのアイディアを持つことで、「自国の土壌に根付いた天然の近代化」を理想としているという。中国は、あやゆる文化が融合した多様な社会である。共産主義、社会主義、自由市場主義、儒教、プロテスタント教義などが混合して織り成した社会を築いている。中国の資本主義には、「毛沢東が残酷に、そして危険なまでに、先代が引き継いできた過去の伝統を埋めようとしたように、結果を考慮することがない」ような歴史的背景がある。しかし、中国の若い世代が、さらに洗練された近代化を望んでいるとしても、彼らは「西洋の失敗と中国の方針」とを明白に区別している。「中国は、過去300~400年間、世界が西洋に求めたものとは本質的に異なる、人間的問題を中心にした組織作りを選択すべきである」と彼らは語る。西洋諸国が行きついた先は、止むところのない自由市場主義が生みだした経済格差、発展途上国で絶えることのない貧困、アフガニスタンやイラクでの戦争、世界的規模での経済崩壊であり、中国の若き知識階級がこのような結果を望んでいるわけではない。(つづく)
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