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2011-07-14 07:29

またしても菅・孫タッグマッチの脱原発

杉浦 正章  政治評論家
 何で唐突に記者会見かと首をかしげたが、理由が分かった。またしても首相・菅直人と「政商」孫正義のタッグマッチである。菅が記者会見で「脱原発」を言えば、孫は同じ7月13日に秋田で35道府県知事を集めて、自然エネルギー推進の「秋田宣言」である。明らかに相乗効果を狙ったのだろうが、この2人の名前が前面に出ると、どうも「火事場泥棒」的なうさんくささを感じないわけにはいかない。福島原発事故を、片方は延命に、もう片方はビジネスチャンスととらえ、フルに“活用”しようとしているとしか思えない。孫も慌てる話でもあるまいに、沈む泥舟に“乗る”とは、一見利口なようだが、政治に疎い。菅が高らかに脱原発を宣言した。「これからの原子力政策として、原発に依存しない社会を目指すべきと考えるに至った」である。しかし「至った」と言っても、方法と根拠には全く言及していない。5月のドーヴィル・サミットで「2020年代のできるだけ早い時期に、自然エネルギーを20%とするよう大胆な技術革新に取り組む」と宣言したときも、根拠が疑問のままであったが、それから1か月半経過しているのに、言及がない。

 これが何を意味しているかと言えば、“理論付け”する官僚が全くいないのだ。菅が打ち出す政策のすべてが“唐突”であるのは、自らのパフォーマンス指向もさることながら、思いつきを、聞きかじりをもとに、自ら組み立てなければならない「裸の王様」であるからに他ならない。日本的「進退の精神風土」の原点は、平家物語の「盛者必衰」にあり、指導者たるもの「信なくば立たず」の状況となれば、潔く身を退くのが常識である。まずこれを菅は悟っていない。「去る者日々に疎し」は死者に対する感情だが、永田町の場合は「死に体」の政治家にも適用されるのだ。従って、菅が意地を張るように打ち出す数々の政策や政治行動は、全て“いら立ちの伴う”延命策と定義されて、まともに相手にされないのだ。今回も将来的な脱原発、自然エネルギーへの転換を主張しても、もはや国民的な思いは「可能であれば、それがよい」で一致しており、菅は石を見て「石だ」といっているに過ぎない。自分が笛を吹いても踊らないことが、分からない。これだけ重要な方針転換を閣内、民主党内の論議も経ておらず、首相の地位だけに依存した空虚なる“大転換”に過ぎないのだ。

 従って反応は、「自然エネルギー導入は賛成だが、菅が言っても聞く耳を持たぬ」で統一される。前首相・鳩山由起夫は「方向性は間違っていないが、新しい政権が考えればいい」と拒絶した。自民党国対委員長・逢沢一郎も「退陣表明した首相が、何を語っても、国造りは進まない」。そもそも、国家のエネルギー政策は一政権の命運を超越した問題であるべきで、福島のどさくさに紛れて新政策を打ち出すのは、邪道だ。経済財政相・与謝野馨も筆者と同じ意見だ。「エネルギー政策全体の整合性を考える必要がある。将来の政策選択は福島の事故の現場が落ち着き、冷静にものを考える時期になされるべきだ」と主張している。要するに、菅の“大転換”は「一犬虚に吠えた」だけで、政権が変われば実現するかどうか疑わしい“まやかし”性を帯びているのだ。一方、孫正義の「秋田宣言」も、ゴールドラッシュの先鞭をつけたような後味の悪さを残す。一政商の音頭に乗って、全国35道県もの知事が、まるで砂糖に群がるアリのように参集したとは驚いた。ソフトバンクは地方自治体と連携し、休耕田などを活用した大規模太陽光発電所(メガソーラー)を全国10か所以上に設置する計画を打ち出している。「秋田宣言」は電力の全量買い取りを電力会社に義務付ける制度の早期確立などを国に求めている。

 もちろん真の狙いは、再生エネルギー買い取り法案の早期成立を促すことにある。しかし、買い取りはイコール電気料金の負担となって、跳ね返る。簡単に言えば、一起業家の利益のために大多数の売電出来ない消費者が料金値上げに応ずるという構図では、御政道は成り立つまい。大震災前に、平時を想定した法案であり、今後上昇必至の電気料金にさらなる上積みをさせるのは、無理だ。成立させる場合は修正が不可欠だろう。孫は、フクシマを商機ととらえたまでは、さすがに生き馬の目を抜くところがある。ただし、菅と組むことは“抱き合い心中”になるということが分かっていない。菅は「おぼれる者はわらをもつかむ」で、ほとんどいない支持者の中で、すり寄る孫が神か仏に見えるのだろうか。一方、孫は孫で、「粘り腰で10年やってほしい」と菅に耳障りの良い発言をするが、縷々(るる)述べてきたように、菅に媚びを売っても、敵が増えるだけだ。原発事故後に菅に急接近して、6月15日には菅と共に市民グループの会合に出席、再生エネ法案の成立に気勢を上げた。政権が変われば干されることを理解していない。政治の素人が政局に絡むと、大やけどをすることが、やがて分かるだろう。
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