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2011-08-23 12:42

(連載)民主主義を脅かす米国政治におけるドミニオニズム現象(2)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 ドミニオニズムは過激派のキリスト教原理主義にも関連性があり、ドミニオニストが目指すものは、ある特定の宗教を政府が支持することを禁じた憲法を改正し、政教分離を廃止し、聖書の理念を憲法に織り込むことである。これは、キリスト教の権利のみが強調され、他の宗教を潜在的に否定する結果になる。次ぎに聖書で禁止されている同姓愛者の結婚は全面的に禁止され、妊娠中絶が禁止される事になる。更に、キリスト教信者以外の移民の入国は不可能になるか、あるいはキリスト教への改宗を拒否すれば、永住権の取得が不可能になるだろう。また、教室、集会所、その他の公的場所での「祈祷」が強制される可能性も多大である。その結果、元来、異民族で構成し多様な民族の文化を築き上げてきたアメリカ合衆国そのものの原点がすべて見失われることが想定される。いずれにしてもマイナーな動きとしてあなどることは危険である。

 クラークソンは、「1930年のドイツでナチ党はわずか15%の投票を得ただけであったが、その後わずか3年たらずでヒットラーは権力を握った」という例をあげて、米国でも「宗教の権利を主張する少数過激派が、政治的にも組織的にも勢力を拡大する可能性は否定できない」と指摘している。また、非キリスト教徒は異教徒になり、同姓愛者や妊娠中絶者は死刑を宣告され、有色人種は奴隷にされ、聖書の規律が憲法の規範にとって代わる社会の到来を予測して、その恐怖を問うている。もちろん、このような途方もないことが現実として起こることは信じ難い。またそのような展開を阻止するウォッチ・ドッグ組織も多数存在する。しかし、妊娠中絶を希望する女性らを援助するクリニックが狙撃されたり、医師が殺害されるなどの過激なキリスト教原理主義グループの犯行による事件は、すでに1990年代以来頻発している。

 米国がどの先進国よりも宗教、特にキリスト教を重視する国であることは、多くの学者や長年の世論調査の結果が証明している通りであるが、政治家が国民生活の向上を論じるより、聖書が禁じる社会問題ばかりに神経を集中させているような現状では、経済の向上は期待できないばかりか、このような紛争が永遠に続くものと予想しても不思議ではない。現在、米国社会に起きているドミニオニズムの動きは本来、宗教の自由と平等を保証した憲法の精神に反している。そればかりか、カトリックとプロテスタントがいずれも約42%を占めるキリスト教国のウガンダで、「同姓愛者に対する刑罰と、同姓愛行為者に対する死刑法案」が提案された例もあるため、国民の約80%がいずれかのキリスト教宗派に属している米国で、不安を煽り警告を発する声も高まっている。

 このような風潮のなかで、2012年の大統領選に出馬を公表した有力な保守派には、唯一の女性候補者で、ナンセンスで過激な発言をすることで最近注目されるようになったミネソタ州のミッシェル・バックマン、元マサチューセッツ州知事であり、モルモン教の信者であるミッド・ラムニー、ジョージア州出身の元下院議長のニュート・ギングリッチ、テキサス州の共和党議員であるロン・ポール、元ユタ州の知事および中国大使だったジョン・ハッズマン、公的場所で祈祷することで注目されているテキサス州知事のリック・ペリーなどがあげられる。モルモン教信者であるラムニー氏とハッズマン氏を除いて他の全員がキリスト教のいずれかの宗派に属している。6月2日に発表された『PEWリサーチ・センター』の世論調査によると、米国人の68%は「大統領の宗教がモルモン教でも構わない」としながらも、最も有力とされている「モルモン教信者であるミッド・ラムニーに投票するか」との具体的な質問に対しては、「投票する」と回答した率は31%であるのに対し、「投票するチャンスはない」と答えた率は63%であったとしている。2012年の米国大統領選は、党派に関係なく、有権者が宗教的要素に影響を受ける可能性が高く、「民主主義を脅かす」と言われているドミニオニストの動向が注目されるのではないだろうか。(おわり)
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