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2011-09-12 07:22

小沢による「制御」下で、実態は八方破れの野田政権

杉浦 正章  政治評論家
 「また始まったか」と思うのは、「非適材人事」の象徴である経産相・鉢呂吉雄ごときの辞任問題ではない。いつの間にやら、内閣と党の双方へ向けての小沢による「制御」の構図が固まったということだ。こっちの方が数倍問題だ。小沢一郎の「勘所」の押さえ方はすごいとしか言いようがない。副幹事長に「腹心」を配置して「公認と資金」という選挙の核心を押さえ、内閣官房参与には、やはり「お耳役」を派遣、官邸情報は手に取るように分かるようにした。これはとりもなおさず野田政権が、挙党一致の名の下に小沢のコントロール下に入りつつあると言っても過言ではない。挙党態勢と言えば、党役員と閣僚人事に目が行きがちだが、むしろ実働部隊としての下部構造をどうするかの方が重要な側面がある。小沢が目をつけたのもそこだ。小沢はまず内閣で、政局の動向に大きな意味を持つた8月の野田佳彦・小沢・細川護煕の3者会談を取り持った陰の立て役者を起用させた。駿河台大教授・成田憲彦の「内閣官房参与人事」である。成田は国立国会図書館政治議会課長などを経て、1993年に細川の首相秘書官を務めていたが、小沢とも極めて近く、細川内閣を「小沢支配下」に置くために奔走した経緯がある。

 当時小沢は、閣外の意思決定機関「与党代表者会議」を主宰していたが、官邸主導の政治を目指す内閣官房長官の武村正義と激しく対立していた。この「成田人事」について、武村はテレビで「ぞっとする」と公言している。小沢の手法を熟知する武村によれば、「成田君を参与としたことは大変なことである」というのである。「成田君は細川内閣を小沢氏の方へとぐんぐん引っ張り込んだ張本人」であり、「野田内閣でも官邸情報をどんどん小沢氏に持って行くだろう。あの時代を再現するかと思うと、ぞっとする」のだそうだ。まさに成田は小沢の「お耳役」となるのだろう。一方で、党の人事で最大の関心事は、副幹事長に選挙対策で誰を据えるかであったが、小沢は、幹事長・輿石東に命じて、側近中の側近の代議士・樋高剛を据えた。樋高は選挙対策と陳情問題を担当する。輿石は衆院サイドのことは何も知らないのと同様だから、公認は小沢のダミーとしての樋高の言うがままとなるだろう。「陳情」も小沢が幹事長時代に「幹事長室に一本化」を進め、その後改められたが、またまた小沢の自家薬籠中のものとなってしまいそうだ。「陳情」とは「情報」であり、この情報を握るかどうかが、「政治とカネ」とも密接に絡んで権力者の強弱を左右すると言っても過言ではない。

 そして最大の問題は、選挙資金がらみで政党交付金を自由に出来ることだ。“渋い”前幹事長・岡田克也が統一地方選挙にもろくろく使わないで取っておいた政党交付金250億円を使えることになるのだ。小沢は代表時代に、20億円を超す党資金を自分に近い党役員に「組織対策費」として渡していた。いまだに使途不明のままである。こうした事態を懸念して、岡田が、300万円以上の組織対策費を個人に渡す場合、外部監査の対象にすると決めた。輿石も継承すべきだが、党の規則として明文化されていないため、輿石にとっては無視しようと思えば、無視できるのだ。しかし政党交付金は血税である。 政党への法人格付与法で、「政党は法人となる」と定められており、国民の血税は1銭たりとも曖昧であってはならないはずではないか。外部監査の継続は当然必要だ。

 輿石の党運営も、暗い。党運営の基本的な考え方の一つとして「情報管理」を徹底しようとしており、日教組の組織運営手法なのか、機密保持に懸命だ。組閣に当たって野田に、「打診した相手に『絶対に口外するな』とクギを刺せ」と求めている。幹事長がこの調子では、民主党の印象は暗くなる一方だ。「スターリン治下のソ連共産党のようだ」との声も漏れ聞こえる。このように党員資格を停止中であるはずの「小沢による支配」が、既成事実として明らかになりつつあるのだ。また鉢呂辞任が象徴する「素人閣僚・党役員」の構図が露呈して、第2、第3の閣僚辞任が出る可能性も否定できない。野田政権の「耐震性」が極めて脆い基盤の上に成り立っていることが分かる。いわば実態は「八方破れ」なのだ。一見実直そうで期待が持てると評判のよい野田の前途は地雷原を行くごとしであろう。
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