国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-09-13 10:00

(連載)米国の9.11記念報道番組を観て、思う(3)

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 対テロリズムに関連した上層部の機密情報組織は2002年以降拡大し続けており、プリーストによると「無駄な努力に莫大な浪費がなされているが、予算を削ると、もし何かあった場合、責任を問われる結果になるからである」という。怪しげなグループを目撃した場合、彼らが実際アルカイダであるかを知るためには、諜報分析が全ての要であるが、連邦政府は諜報分析の経験が少ない職員などを含めて、過剰人員を雇っている。16の情報機関では「毎年、約5万件の様々な報告書が発生するが、誰もこのような報告書を全て読んではいない」とし、「不要な報告書は破棄し、最も価値のある情報だけを集める必要がある」と情報機関を統括する米国国家情報長官はいう。なぜなら、現在では「管理統制が行き届かない状況である」からだ。日々入手する情報の中に、何か重要なものが含まれている可能性を考慮すると、処理できないほど大量の情報の入手を中止することは、ほぼ不可能な状態であり、多くの人達に分析のための情報提供を許可していることも、収拾がつかない一因になっている。

 秘密に満ちた対テロ戦争が「多くの戦闘機やタンクを必要とするような通常の戦争」と異なる点は、「情報を必要とする戦争」であることだ。例えば「テロリストに関する情報を、どのような手段で得るのか」という問題についても、最近までその情報は、一般的には知られていなかった。FBIやCIAにマークされ、逮捕されたテロリストは、正規の施設または軍部刑務所ではなく、ホワイト・ハウスが完全機密で認可し、完全に孤立した機密の建物の地下などに拘束される。ここでは「ストレス&ドュレス・テクニック」と呼ばれる尋問が行われてきた。例えば、長時間起立させたり、騒音環境に放置したり、最近、一般的に知られようになった水責めの拷問も含めて、肉体的・精神的な苦痛が伴うため、非人道的であるとして批判されている。しかし、ブッシュ政権は、この尋問テクニックは「特に、残酷性を伴なう拷問ではない」と主張し続けてきた。

 「オバマ氏が大統領に就任した当時は『透明性の新たな時代』をアピールしていたが、米国国土安全保障省では、実際そのようなことはなかった」とプリーストは述べている。それどころか、オバマ政権は、9.11後から行われているすべての機密行動を支持しており、アルカイダおよびタリバン組織に対する秘密攻略戦争を拡大した。「地上および上空から標的を殺害する方法」を開発し、アフガニスタンやパキスタンでの無人機爆撃もエスカレートしている所以である。更に、情報漏れの調査に関しては、「ブッシュ政権より規模が大きくなっている」らしい。事実、機密情報漏れを疑われる人物、特にレポーターに対する起訴および尋問は前代未聞の頻度で行われている。一つだけ、オバマ氏が中止したものは、ブッシュ政権下で行われ、人権保護団体などから問題視され、多くの人々が反対した「ストレス&ドュレス・テクニック」であると公的には言われているが、実際のことろは不明である。

 結論として、9・11後、総体的に米国が変わった点は、永遠に続くかのような「対テロ戦争」へのジレンマ、常につきまとう不安、恐怖、確信のなさが、宗教に救いを求める心理的要因のひとつとして、政治的分野でも宗教の重要性が強調されるようになったこと、反イスラム感情が増大したこと、「ペイトリオット法案」(愛国法)の制定により、前代未聞のプライバシーの侵害が正当化されるようになったことなどが挙げられる。しかし、連邦政府の秘密性は、9・11後から始まったことではない。安全保障という概念は第二次世界大戦後に生まれ、1947年に制定された安全保障法により、軍事政策を充実させる目的で国家安全保障会議(NSC)が設置され、当時CIAなどの組織が誕生した頃から政府の秘密性は増大している。むしろ、冷戦時代と同様、引き続き国の安全保障を強調するあまり、政府の権限が強化されるようになっている。規模の違いはあるが、電話の盗聴、スパイ活動など、その本質において、ニクソン時代とさほど変化はない。このような傾向性はブッシユ政権でエスカレートし、現在でも続き、あるいは増大し、莫大な資金が流出している。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム