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2011-09-28 03:48

10日間が過ぎた「ウオール・ストリートを占拠する運動」のデモ

島 M. ゆうこ  エッセイスト
 マンハッタンのボウリング・グリーン・パークで9月17日に始まった「ウオール・ストリートを占拠する運動」のデモは、10日間が経過した。24日にはウオール・ストリートからマンハッタンのユニオン・スクウェアに向けて行進中のデモ隊員80名以上が次々に逮捕され、平和的だったデモが緊張と暴力を呈した様相に変わってきている。場所によっては、警察動員数も圧倒的であるが、現在のところ、マスコミはこの運動を重要視していない。しかし、当初数百名で開始したデモは、1週間後には数千名に増大し、26日には、西海岸の主要都市を含め、全米30以上の都市の金融区域でも何らかの波紋が広がっている。このデモ運動の規模はまだ小さいものの、「アメリカ合衆国のアラブ・スプリング戦術」と呼ばれ、抗議者らが掲げるスローガンには「民営化ではなく民主主義を」、「少数独裁政治を終わらせよ」など、エジプトやチュニジアを含むアラブ諸国における一連の民主化運動のコピーを思わせる。 

 『ニューヨーク・タイムス』紙によると、ウオール・ストリートでデモに参加している人達は、「米国の政治とファイナンシャル体制に怒り」を感じており、「トップ階級1%の欲と腐敗には、これ以上耐えられない」ため、「トップ1%が99%の富を得、優遇されているアメリカを変えたい」との切望が動機になっているようだ。彼らは「二党体制下で一般国民の声が反映されていないため、社会の一員として、コンセンサスに基く新しい民主主義のシステムを構築したい」としている。24日の『ロイター』通信によると、抗議者には学生らしき若者が多く、米国旗を掲げ、サインには「反企業のスローガン」が目立つという。あるワシントンDCの大学生は、チェイス銀行の前にさしかかるとひざまずいて「あの銀行が母の家を取り上げた」と叫び、「今夜、僕は刑務所に留置されるだろう。しかし、ただ黙って見ているわけにはいかなかった」と、ビデオ・カメラに訴えた。片道旅券で北カリフォルニアからニューヨークまで旅し、デモに参加したある若い女性は「この運動はとても重要なため、一役を担いたい」と述べた。他にも多くの若者が「このメッセージを地元に広めて、運動を拡大するつもりです」との意欲をみせた。

 しかし、若者の理想を掲げた平和なデモは騒然とした様相に変わってしまった。24日には、ニューヨーク市警は、ユニオン・スクウェアにオレンジのネット・フェンスを張り巡らして、抗議者らを囲いに入れ、行進を妨げる作戦に出た。このフェンスの近辺をのろのろ歩いていたデモ隊は、交通の妨げになるとして次から次ぎに逮捕された。白いシャツを着た警官らしき男性二人がこの囲いの内側にいた若い二人の女性に近づき、一人がペッパー・スプレーらしきものを噴射した後、素早く人混みから立ち去った驚くべき光景をビデオ・カメラがキャッチした。スプレーの噴霧は、一人の女性の目を直撃したため、その場は叫びと混乱のすざましい状況であった。『ワシントン・ポスト』のブログによると、市民権弁護士のサム・コヘンは、「マンハッタンのリバティ・プラザでの『ウオール・ストリート抗議』参加者に対する逮捕は、米国憲法改正第一条に違反する」として、「ニューヨーク市警を起訴する準備中である」としている。一方、ニューヨーク市警は、「1845年の反マスク法」を利用して、一部のデモ隊員が「素性を明かさないでマスクを使用していたため逮捕した」としているが、これは150年以上前の法律で「現状とは一切関連性がない」としている。同ブログは、「もし、数百万の米国人がワシントンDCの通りをデモ行進すれば、それが大規模で重要な運動となり、政治家は性急に変革を迫られるかもしれない」とコメントしている。

 「ウオール・ストリートを占拠する運動」は、米国の若者がアラブ諸国の若者に幾分似た立場にある現状を示唆している。デモ参加者は、単に参加するだけではなく、彼らが求めるものは何か、現状はどうなのか、なぜ仕事がないのか、なぜ政治家が経済の建て直しに必死になっていないのかなど、あるゆる政治的・経済的な討議も行っているようだ。確かに米国の現状は、膨大な負債を抱え、仕事を探すことさえあきらめた人が増えたため、失業率の高さ、ホームレスの増大、貧富の格差の拡大、中産階級の減少など、経済衰退の悲観要素が多すぎる。米国農務省の報告では、すでに2009年に約5千万人の米国人が、健康を維持するための食物を充分に摂取出来ない状態である。更に、昨年11月の『ウオール・ストリート・ジャーナル』の調査によると、8月の時点で、米国の人口の13.5%が、フード・スタンプに依存していて、1年前より17%上昇している。数年前から「米国は第三世界の国になってしまった」、あるいは「第三世界の国の仲間入りをするのではないか」と懸念する声が高まっているが、その根拠の論理的是非は別として、簡単に無視することはできない。少なくとも、「米国のアラブ・スプリング」現象はある意味で、米国経済の深刻さを裏付けているのかもしれない。
 
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