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2011-10-08 22:44

(連載)懸念される被災地の人口流出と福祉依存化(1)

鈴木 亘  学習院大学教授
 驚くべきことに、震災からもうすぐ7カ月が経過しようとしている。しかしながら、未だにうず高く積まれたガレキの山に象徴されるように、復興のペースは極めて遅い。この最大の原因は、言うまでもなく民主党政権の混迷であり、野田政権になってからも、相変わらずリーダーシップ不在のまま、貴重な時間が無為に過ぎている。政府は、原発事故分を除く震災による直接被害額を、16兆円から25兆円と見込んでいるが、このうち、第1次補正予算と第2次補正予算で手当てできた金額は、わずか6兆円余りに過ぎない。現在議論されている第3次補正予算案も、復興増税の是非など、その財源を巡って調整が難航しており、法案成立の目処が立っていない。

 また、未だに被災地の具体的な復興計画が描けていないため、例えば、被災地の建築制限が解除できず、住宅や商業・工業施設復興の大きな足かせとなっている。復興計画が遅れている間に、高台などの有望開発地区の利権化が進み、限られた財源による復興がますます困難化している。民主党政権の政治手法の特徴は、政治家がリスクの伴う決断を行わず、責任を回避するために、問題を延々と先送りしたり、地方自治体や各省庁に丸投げすることにある。今回の震災でもその特徴がいかんなく発揮されているわけであるが、この「人災」によって発生しつつある被害も、実は甚大である。

 一つは、リーダーシップ不在のボトムアップ型、縦割り行政型の復興では、既得権者の利害調整ができない結果、震災前と同じ産業構造、まちづくりの複製しかできないということである。しかしながら、震災前においても、農業や漁業といった産業は補助金漬けの上、高齢化が進んで衰退しつつあった。こうした産業が、財源不足のまま震災前の「縮小コピー」として復旧されても、問題の構造は変わらず、衰退が加速することは避けられない。

 もう一つは、東北地域の未来を支えるべき現役労働層の人口流出と福祉依存化が、今後急速に進むことが予想されることである。東北地域の求人倍率低迷が続く中、現在、現役労働層を支えているのは、失業手当や雇用調整助成金(既存の会社が休業している場合でも、形式上、労働者を雇いつづけ、賃金が支払えるようにするために政府が出す補助金)である。しかしながら、これらは最大でも1年の給付期間であるため、今後、急ピッチで期限を迎えて行くことになる。また、雇用保険の恩恵に浴さない自営業、農林水産業、非正規労働者などは、貯蓄を取り崩しての生活が続いているが、これもそろそろ限界に達する。こうした人々が、民主党政権下で現役労働層も受給できるように大幅に基準が緩和された生活保護制度に依存するようになれば、我が国の生活保護制度は「貧困の罠」と言われる自立を阻害する仕組みとなってゆき、福祉依存が長期化する可能性が高い。また、失業手当や雇用調整助成金の給付期間を延長するにせよ、長期の失業状態は、就労意欲と人的資本(職業能力)を失わせるために、将来的にやはり福祉依存が進むであろう。(つづく)
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