国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-10-19 06:56

首相、TPP交渉参加を先行、普天間は「後ずさり」

杉浦 正章  政治評論家
 10月20日からの臨時国会、来月12日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を控え、野田政権の真価を問う環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加と普天間移設の両問題がクローズアップしている。首相・野田佳彦の言動を観察すると、TPPには一歩踏み込んで、少なくとも交渉には参加する姿勢だろう。一方で、普天間移設には「前向き後ずさり」の姿勢が手に取るように分かる。17日の記者インタビューにおける発言でも、微妙なニュアンスが出ている。野田はTPPと普天間について、両方ともそれぞれ「なるべく早く結論を出す」と発言したが、その前提がポイントだ。TPPについては「広い視野で議論し」が前提だが、普天間については「いつまでと確定は出来ないが」が前置きだ。言ってみれば前向き発言と慎重発言の差が歴然としている。これを裏付けるように、TPPについては踏み込んでいる。幹事長・輿石東と示し合わせて、巧妙に党内世論をリードしようとしているのだ。

 輿石は、首相が「母に背負われて稲刈りに参加した私が、日本の農業をTPPでダメにする発想を持つことは絶対にない。日本農業も世界経済の流れの中で再生し、全世界に発信していく」と述べていたことを明らかにした。野田は、最大のポイントである農家対策で、反対派をなだめようとしているのだ。輿石も「APECに行くのに、一国の総理がTPPについて『まだ検討中ですから』なんていう話はできない。日本の国を代表する総理として、一つの考えを持って行かれるようにしなければいけない」と踏み込んでいる。これが裏付けるところは、少なくとも野田はAPECにおいて「とりあえずの交渉参加表明」をすることで、国内の一任を取り付けようとしているに違いない。現在訪問中の韓国が、米国との自由貿易協定(FTA)で合意して先行している状況下において、もはや貿易立国としてちゅうちょできないという判断があるものとみられる。マスコミも読売新聞が19日付の社説で「開国へ早期参加を表明せよ」と背中を押しており、もう引くに引けない段階に入った。引けば鳩山由紀夫並みの「食言首相」となる。

 一方で、やはり米上院の強硬姿勢で焦眉の急を要する普天間移設には、慎重だ。むしろ野田は時間稼ぎに出ているとみた方がよい。このところ総務相・川端達夫、防衛相・一川保夫、外相・玄葉光一郎らを相次いで沖縄詣でさせている。閣僚を訪沖させているが、TPPと異なり、自らは動かない。最近急に政府が辺野古周辺の環境アセスメントの評価書を、年内に沖縄知事に提出することがクローズアップされているが、専門家の間では9月からささやかれていた話しだ。18日にも書いたように、むしろ事務的手続きであり、これが原動力となって物事が動き出すとみるのは浅薄だ。評価書を受けて沖縄県知事・仲井眞弘多は「90日以内に意見書を出す」ことを法的に義務づけられるが、「事実上不可能で、埋め立て許可の可能性なし」と漏らしており、回答は「ノー」だろう。

 仲井間は、鳩山が一昨年の名護市長選で反対派の稲嶺進を応援して当選させた時点で「移設は破たんした」と感じており、もう意固地なまでの知事の姿勢を覆すことは出来ない。それではなぜ政府がアセスに前向きかと言えば、一川が就任早々自らを「安全保障に関しては素人だ」と述べたとおりだ。確かに一川は「素人路線」を邁進している。月末には国防長官・パネッタが来日するし、野田はオバマとの会談で「沖縄の理解を得るよう全力を尽くす」と早期解決に言及した。一川は、ポーズというか、アリバイづくりというか、その類いのものをしなければ、と焦っているのだろう。見え見えなのだ。朝日新聞が19日付の社説「展望なき一手の愚かさ」で、火を噴くように批判している。「すでに辺野古への移設は事実上無理だ。それでも手続きを踏んでいくやり方は、沖縄県民だけでなく、米国政府に対しても不誠実だ」と主張し、「鳩山政権時代の愚を繰り返してはならない」とまで言い切っている。確かに野田は、いまさら馬鹿げた子供だましのような手続き論でしのげると思わない方がよい。「素人病」の伝染には要注意だ。 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム