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2011-10-27 07:05

TPPが農業再生に直結することを理解せよ

杉浦 正章  政治評論家
 環太平洋経済連携協定(TPP)参加問題のすべては、農業人口の“超高齢化”の危機に尽きる。放置すれば、数年を経ずして日本の農業は滅びるのだ。端的に言えば、座して死を待つのか、TPPで打って出て、崩壊する農業を税金で守る国力を維持するのか、の選択なのだ。捨てておけば農業・工業抱き合い心中の構図となる。先の見えない政治家たちが農業団体の旧態依然たる政治工作に踊らされて、国論を2つに割ろうとしているが、なぜTPPが回り回って農業再生に通じることを説かないのか。首相・野田佳彦はそこを見極めて、国論を統一し、早期の交渉参加決断をすべきである。農業従事者の平均年齢は現在66.1歳であり、70歳代後半~80歳代の昭和1ケタ生まれが4分の1強を占めるに至った。この日本の人口の3%に満たない約300万人の農家が、日本の農業を支えているのである。高齢化は一層進むことが避けられず、放置すれば今後4、5年で崩壊への水流は加速し、10年以内にナイヤガラ瀑布が落ちるように一挙に崩壊する危険があるとみられている。なぜ、高齢化したかと言えば、農家の子弟が2次3次産業に従事して、農業を引き継がないからである。これが物語ることは、一家族または親族の中に農業従事者と商工業従事者が混在している構造である。

 ここに、何故激しい対立を生じさせなければならないのだろうか。TPPの推進には二者択一ではなく、二者融和の構図が必要なのである。外相・玄葉光一郎が「外に目を見開いて打って出ないと、子供、孫に豊かさを引き継げない」と述べているとおりだ。それをぶちこわしているのが全国農業協同組合中央会(JA)などの利益団体の動きだ。お手の物の政治工作で政治家を脅し、すかして、動かそうとしている。10月26日の集会でも、与野党の実力者を集めて、華々しく反対論をぶち上げさせたが、筆者に言わせれば「タコが自分の足を食っているようなもの」なのだ。一部政治家は、目先の農業票や既得権益の誘惑に駆られ、日本の農業を強くする本来の目標を見失っているのだ。前述の理由で衰退の極みに達しようとしている農業を救うのは、税収によるテコ入れしかない。首相・野田佳彦が議長を務める「食と農林漁業の再生実現会議」が農業再生の基本方針と行動計画をまとめたが、その最大のポイントは「消費者負担から納税者負担への移行」を掲げたことだ。「納税者負担への移行」とは、税金を使って国が直接農家を助けるということだ。これまでは国際的な価格に比べて割高な農産物を、「消費者負担」で支えてきたが、税金による負担に変えようというものだ。

 これが意味するところは、農家からの税収ではなく、国家財政の大半を占める工業・貿易立国による税収を充てるのだ。それにはTPPへの参加が必要不可欠の前提条件になるという国際潮流を理解せねばなるまい。自動車や電機といった日本の主力産業でライバルとなった韓国の動きを見るがよい。欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)に続いて、米国とのFTAも成立させた。米国ではトラックにかかる25%の関税が撤廃され、EUでは薄型テレビの14%の関税が、撤廃されていく。これでは、はっきり言って日本の工業製品は勝負にならなくなる。下手をすれば、農業も工業も抱き合い心中となりかねないのだ。日本の産業界は危機感を強めており、欧米や欧米とFTAを結ぶ地域への工場移転に拍車がかかりかねない状況が生まれようとしている。そうなれば税収減で農業改革のための「納税者負担への移行」などは、夢のまた夢となるのだ。だからJAは「たこが足を食っている」というのだ。もちろんコメなど基幹農業分野での関税は、これまで通り維持すればよい。国際競争力を付ける耕作面積拡大への補助金投入も可能とすべきだろう。

 だいたい3%に満たない人口を基盤とするJAに動かされる政治家たちも先見の明がない。このままでは国論は二分して、勤王、佐幕の戦いになる。しかし、尊皇攘夷派は、明治維新後、節操もなく欧化政策をとった。そのことが証明するように、尊王攘夷派は、反対のための反対をしていただけである。TPP開国が、農業にプラスに働くことを見逃してはならない。おそらく野田は、野党、とりわけ公明党の強硬姿勢に遭遇して、当初の考えをふらつかせているに違いない。首相自身が議論を指示しながら、様子見では、過去2代にわたる「食言首相」と同様の烙印を押されることを覚悟した方がよい。全国紙のすべてがTPP推進論だ。うちに閉じこもっていては、日本に未来はない。経済開国は即農業再生につながるのだ。野田は勇気ある決断をするときだ。
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